皆様、いつも司法書士JOBサーチをご高覧くださり、ありがとうございます。
續木瑠璃子先生の連載コラム(※)も、次回が最終回で「共同代理オンライン申請」をテーマにご寄稿いただきました。
しかしながら、関東圏の先生方は「共同代理」について、ご存じの方は少ないのではないかと思います。
そこで、續木先生による「共同代理オンライン申請」のコラムに先行して「共同代理」の実務について、書面申請を前提としたご説明をした方がよいと考え、今回、本コラムを執筆いたしました。
※ 第1回「司法書士のための電子署名の基本」、
第2回「日司連の2つのシステムの解説」
そもそも「分かれ取引」とは?
分かれ取引とは、不動産の売買取引において、売主と買主が、それぞれ自身が選んだ別の司法書士に登記申請の代理を依頼することをいいます(分かれ取引は「京都方式」と呼ばれることもあります。)。
この分かれ取引の場合(登記名義人住所(氏名)変更登記・担保権抹消登記・担保権設定登記がなく)所有権移転登記1件だけだったとしても、2人の司法書士が関与します。
分かれ取引の申請方式
分かれ取引の申請方式は、2種類(復代理申請方式と共同代理申請方式)あります。
なお、本稿の共同代理申請方式は、書面申請を前提とした解説です。
共同代理オンライン申請については、次回掲載される予定の續木先生のコラムをご参照ください。
復代理申請方式(実務では「復代理でお願いします」などと略します。)
売主代理人が、買主代理人に対して、復代理の「委任状」を提出します。
登記申請書には、買主代理人のみが記名押印します。
買主代理人の記名押印のみで対応できるため、復代理申請方式については、通常はオンライン申請をします。
<復代理申請方式のイメージイラスト>

共同代理申請方式(実務では「共同代理でお願い」などと略します。)
買主代理人が作成した「登記申請書」に、売主代理人も押印します。
共同代理申請方式をオンラインで行うためには、買主代理人と売主代理人双方が当該手続きを理解して共同して対応する必要があるのですが、いずれかの代理人が対応できない場合は、書面申請で行います。
なお、この共同代理申請方式をオンライン申請で行う方法を、次回の續木先生コラムで解説いただく予定です。
<共同代理申請方式のイメージイラスト>

いずれの申請方式を採用するかの決定方法
一般的に、復代理申請方式か共同代理申請方式のいずれを採用するかは、次の手順で決めています。
(1)売主代理人が、売主に対して、売主の「本人確認書類(運転免許証・マインナンバーカードなど)」を買主代理人へ交付してよいか否かを確認し、その結果を売主代理人が買主代理人に通知します。
(2)買主代理人は、次の基準で復代理申請方式か共同代理申請方式かを決定します。
- 売主の「本人確認書類」の提供をしてもらえない場合又は売主本人が取引当日に欠席する場合は、買主代理人が売主の本人確認をできないため、共同代理申請方式を選択せざるを得ません。
- 売主の「本人確認書類」の提供をしてもらえる場合で、かつ、売主本人が取引当日に出席する場合には、復代理申請方式または共同代理申請方式のいずれも選択できます。
分かれ取引の役割分担
売主代理人の役割
事前準備
登記名義人住所(氏名)変更登記、担保権抹消登記の申請準備をします。また、買主代理人に対して登記名義人住所(氏名)変更登記の有無、取引当日の担保抹消書類の受取方法などを共有します。
所有権移転登記に関して「登記原因証明情報」を作成し、買主代理人に(事前に)共有します。売主から売主代理人あての「委任状(所有権移転登記申請の代理)」も作成します。
登記完了後の「全部事項証明書(登記簿謄本)」の提供を買主代理人に依頼します(FAX又はメールでの提供が一般的です。)。
復代理申請方式の場合には、売主代理人から買主代理人への復代理の「委任状」を作成します。
<復代理の委任状のひな形>
委任状
令和8年3月12日
神戸市灘区○○
有限会社□□
上記代理人
神戸市灘区鹿ノ下通二丁目4番15号
司法書士 佐藤大輔 (認印)
私は、下記司法書士を復代理人として、下記事項に関する一切の権限を委任します。
第1.代理人
神戸市兵庫区○○
司法書士 ○○ ○
第2.委任事項
1.令和8年3月12日付登記原因証明情報記載のとおりの①所有権移転、②有限会社□□持分全部移転の登記申請に関する件(計2件)
2.前記登記に関する登記識別情報の通知受領、暗号化及び復号化に関する件
3.その他必要に応じ、原本還付請求受領の件、登記申請の取下、登録免許税の還付請求、登記に係る登録免許税の還付金を受領する件、再使用証明申出の請求受領及び必要書類の請求受領に関する件
4.前各号に掲げる行為をなすにつき、復代理人選任に関する件
以上
共同代理申請方式の場合には、買主代理人に対して事前に①売主代理人の表示と②登記識別情報の受取方法を通知しておきます。
取引当日の対応
「登記識別情報通知」の未失効照会を取得し、買主代理人に提供します。また、売主が会社法人の場合には、当該会社法人の「登記情報」を取得し、買主代理人に提供します。
登記完了後の「全部事項証明書(登記簿謄本)」の提供を買主代理人に依頼します。
共同代理申請方式の場合、買主代理人作成の「所有権移転登記申請書」に取引場所で押印します。
着金確認後の<売主代理人の動き>は、次のとおりです。

※ 売主代理人が買主代理人に対して「受領証」を提供する理由は、売主代理人による「登記名義人住所(氏名)変更登記」や「担保権抹消登記」の申請よりも先に、買主代理人が「所有権移転登記」を申請しないようにするための安全対策です。
買主代理人の役割
事前準備
所有権移転登記、担保権設定登記の申請準備をします。
所有権移転登記に関しては、「所有権移転登記申請書」を作成し、売主代理人に(事前に)共有します。
買主から買主代理人あての「委任状(所有権移転登記申請の代理)」も作成します。
取引当日
取引物件の「登記情報」を取得して、権利関係に変動が無いかチェック(事前閲覧)を行います。また、買主が会社法人の場合には、当該会社法人の「登記情報」を取得し、買主代理人に提供します。
売主代理人の揃えた書類を精査し、資金実行を買主や金融機関に指示します。
司法書士行為規範
令和5年4月1日から施行されている「司法書士行為規範」にも、分かれ取引に際して念頭に置いておくべき規定が定められているため、以下に転記します。
第48条 司法書士は、複数の代理人が関与する不動産登記業務を受任した場合には、依頼者の依頼の趣旨を実現するために必要な範囲において他の代理人と連携するように努めなければならない。
(相互協力)
第99条 司法書士は、他の司法書士と共同して業務を行う場合には、依頼者とそれぞれの司法書士との間の委任関係を明確にして、依頼の趣旨の実現に向け、相互に協力しなければならない。
2 司法書士は、事件処理のために復代理人を選任する場合には、依頼の趣旨の実現に向け、復代理人と十分な意思疎通を図らなければならない。
その他
記事「不動産取引マナー(司法書士向け)」あなたのまちの司法書士事務所グループ・ホームページでも、分かれ取引の注意点について触れていますので、ご参照ください。
不動産業界の栄枯盛衰史と分かれ取引の始まり
ここまでご覧いただいた皆様の中には「なぜ、関西では、分かれ取引が始まったのか?」や「関東でも、分かれ取引が始まる可能性はあるのか?」と疑問を抱いた方もいらっしゃるかと思います。
その答えにたどり着くには、不動産取引業界の力関係の変遷(すなわち、栄枯盛衰の歴史)を紐解く必要があります。
不動産取引における不動産会社の役割
このテーマの導入として、不動産取引における不動産会社の役割について簡単に説明をします。
不動産取引において、不動産会社には、大きく分けて二つの役割があります。
一つは、売主から物件を預かることであり「物担業者(物上げ業者や元付け業者とも)」といわれます。「売買契約書」や「重要事項説明書」を準備するのも物担業者の仕事です。
もう一つは買主を見つけ、契約へつなげることであり「客付け業者」といわれます。
物担業者と客付け業者は(物担業者が物件の囲い込みをしていなければ)、別々であることが通常です。
そしてこの2社が、売主または買主に対して、それぞれ、司法書士を紹介することになります。
※関東では、それぞれ司法書士を紹介する文化は無い印象です。
不動産栄枯盛衰の歴史
(1) まず、私が司法書士になった平成11年より前は、街の小さな不動産会社も、売買を仲介したり、分譲したり、自社で仕入れて転売したり、さまざまな不動産業務を行っていた時代があったそうです。そして、この頃の不動産媒介の集客(不動産の買い手探し)はチラシが全盛だったと聞いています。
(2) 次に、住宅ローンが通りにくい時代となります。
住宅ローンが通りにくいので、金融機関が強い時代でした。私の勤務先は某都銀のお抱えでしたが、どこの不動産会社が客付けをしても、銀行指定の司法書士が、登記名義人住所(氏名)変更登記、担保権抹消登記、所有権移転登記そして担保権設定登記のすべてを担当していました。
(3)さらに、エンドユーザーがインターネットで不動産を探す時代が到来します。ホームページに注力できていない中小の不動産会社は、不動産に一切関与できない事態になりかけます。それに対して、中小の不動産会社のとった戦略は、自らが売買の当事者になることでした。そうすると、なんといっても当事者ですから立場は強くなります。そして、不動産会社が司法書士を指定する時代になったのです(この時代、すなわち、不動産会社が司法書士を指定する時代は、現在も続いています。)。
選択を迫られた関西の司法書士
ここで関西の司法書士は、ある決断を迫られます。すなわち、売渡し(売主代理人)だけでも担当するのか、それとも買主代理人に任せたら良いよと手放すのかという決断です。
私は、登記費用負担に関する関西方式が分かれ取引を助長したと考えています。
所有権移転登記の司法書士報酬には、関東方式と関西方式があります。
- 関東方式では、所有権移転登記報酬は全額買主が負担します。
- 関西方式では、所有権移転登記報酬は買主が負担するものの、売主も売渡費用として、登記原因証明情報作成報酬(の全部)と立会報酬(の一部)を負担します。
今回の不動産取引が関東方式か関西方式かの判断基準は、「不動産売買契約書」を確認することで分かります。司法書士にとっては誰に報酬を請求できるかを見分けることはとても大切ですので、要注意です。
記事「不動産売買における関西方式・関東方式まとめ」あなたのまちの司法書士事務所グループ・ホームページもご参照ください。
さて、売渡費用といっても、登記名義人住所(氏名)変更登記や担保権抹消登記がなければ、司法書士の報酬相場は、2万円~5万円です。
「そのために半日を要してわりがあうのか。」
「とはいえ、自分が売渡しを担当しなければ、買主代理人が、自分の取引先である不動産会社と接点をもつことになってしまう。取引先を取られてしまうかもしれない・・・。」
不動産取引を主たる収益源とする司法書士事務所は、このように考えて、売渡しだけでも担当することにしたのです。滅びゆく道だとも気付かずに。
ところで、司法書士に限らず専門家士業は、自らの時間を切り売りしています。
司法書士の不動産決済において売渡しだけであっても売主・買主双方の登記申請代理を担当する場合と拘束時間は同じです。却って相手方代理人と打合せが必要な分、時間が余分にかかるぐらいです。したがって、売渡しだけの担当では、時間単価が著しく下がってしまいます。
提言
関東の先生方は、安心してください。
登記費用負担に関する関東方式が健在であるうちは、分かれ取引文化の流入はないと思います。流石に売渡しを無料でやる司法書士はいないでしょうから。
それでも万一、売渡しだけをやって欲しいなどという依頼があった場合には、勇気をもって「買主代理人にまとめてやらせろ」とおっしゃっていただきたいと思います。それが先生方の時間単価を守ることに繋がるからです。
また、分かれ取引において、売主、買主の個人情報をやり取りすることも個人情報保護法の観点から望ましくないと考えています。分かれ取引の依頼を受けた場合には、この理由でも断ることは可能であろうと思います。
もっとも司法書士の不動産会社との付き合い方は、ここ10年ほどで大きく変わりました。司法書士が案件の先頭に立ち、物件を不動産会社に紹介できる立場に変わったからです。このような関係が構築できていれば、売渡しだけの依頼を断っても、お取引先の不動産会社が他の司法書士に浮気することはないと思います。
次回は續木先生のコラム「オンライン共同代理オンライン申請」です。楽しみにしてお待ちください。












