目次
司法書士の営業に関して
それでは、司法書士はどのように営業をしていったらよいのでしょうか。
その前に、そもそも営業とは何なのか、本質を考えておかなければどんな営業をするにしても、なかなかうまくかないでしょう。
営業とは
営業の定義は、「クライアントのニーズを把握し、自分自身と、自分のサービスを知ってもらう」ということです。
これを分解すると① クライアントのニーズを把握する、② 自分自身を知ってもらう、③ 自分のサービスを知ってもらうということになります。
① クライアントのニーズを把握する
「クライアントのニーズを把握する」ということは、クライアントがどんなことで困っているのか、どんなことを求めているのかを把握することです。
ニーズを把握せずに、むやみやたらに自分のサービスばかりを提案してしまうと、相手の求めていないものをただ一方的に売り込んでいるだけになってしまいます。
一方的に売り込まれるのを喜ぶ人は誰もいません。
クライアントとの会話の中で、ニーズを聴き出すことが大事なのです。
② 自分自身を知ってもらう
「自分自身を知ってもらう」というのは、いったい自分がどのような人物で、どのような経歴を持っていて、どんな考えを持っているのかといった、自分に関する情報を相手に知ってもらうということです。
いくら、ニーズがあったとしても、全く知らない人には仕事を依頼したいと思わないでしょう。
ホームページ経由で初めて相談に来るクライアントなどは、本当に隅々までプロフィールを見てきます。
ホームページなどを利用して、まだ会ったことのないクライアントに訴えかけるのは、プロフィールや自己紹介文が占める重要度はかなり大きいと言えます。
クライアントとの共通点が見つかれば一気に親近感を持っていただけることもあります。
③ 自分のサービスを知ってもらう
最後に、「自分のサービスを知ってもらう」というのは、正に司法書士は何ができるのか、自分ができる業務の内容にはどんなものがあるのか知ってもらうということです。
司法書士の業務内容は、特に普段司法書士と接したことのない一般の方にはなかなか分かりにくいものです。
また、業務で普段関わっているクライアントでさえも、関わっている業務以外に何ができるのか理解していないことがほとんどです。
せっかく司法書士に対するニーズが発生しても、頼んで良いものかどうなのか迷って結局頼まなかったなどということが無いようにしなければなりません。
クライアントのニーズが顕在化していて、それを満たせるサービスがあるのでれば、ピンポイントでそれを紹介すればよいですし、潜在的なニーズに留まるようであれば将来そのニーズが顕在化したときに自分を思い出してもらえるように、しっかりと、何ができるのかを伝えておきましょう。
新規営業方法
営業する対象は、新規のクライアントと既存のクライアントに分かれます。
まず新規クライアントに対する具体的な営業方法を見ていきましょう。
具体的な営業方法は、いろいろあるかと思いますが、私も含めて周りの司法書士が実際に行っている営業方法を紹介したいと思います。
尚、営業方法はこれが正解といったものはありません。ある司法書士が成功した営業方法で他の司法書士が成功するとは限らないのです。
話が得意であればどんどん交流会に参加しコミュニケーションをとっていくことが一番の営業になるかもしれませんし、文章を書くことが得意であれば、ブログを書いてアピールしても良いでしょう。
自分の得手不得手、キャラクター、事務所の地域、立地など総合的に考えて、自分に会った営業方法を選択していくとよいでしょう。
① 身内や知り合いからの紹介
身内や知り合いから、紹介を受ける方法です。
すでに司法書士に依頼する案件をもっているクライアントを紹介してもらえる場合もありますが、特に案件はなくても、今後発生する可能性のあるクライアントを紹介してもらえる場合もあります。
個人的には、新規営業の中でこれが最も確実な営業方法だと思います。
紹介してもらうためには、普段から自分が司法書士事務所を開業したことを周りに知らせておく必要がありますし、ことあるごとに、どんな仕事ができるかをさりげなくアピールしておくことが大切です。
また、紹介したくても、本当に紹介して迷惑にならないか、積極的に紹介してよいものなのか、周りの人は分かっていないこともありますので、何かあったらぜひ紹介してほしいということも伝えておくとよいでしょう。
② 同窓会などの会合への参加
同窓会などの会合があれば積極的に参加しましょう。もしなかなか開催されないようであれば、自分が幹事となって開催してしまってもよいでしょう。
同窓生は、自分のこともよく知っていますし、仲間意識があります。何かあればクライアントを紹介してくれることもあるでしょうし、直接案件を依頼してくれることもあります。
そういった会合でも、自分が司法書士事務所を開業していることをきちんとアピールしておくとよいでしょう。
同窓会以外にも、たとえば自分の母校の大学で主催している校友会などに参加してもよいでしょう。
大学が同じというだけでも、それが共通点となって、お互いの距離はぐっと近くなります。
大学の校友会などは、社会経験豊富な先輩方もたくさん参加しており、その人脈からいろいろな方を紹介してくれる場合もありますのでぜひ参加してみましょう。
③ 交流会への参加
私が、開業したての頃は、開催されている異業種交流会は数えるほどでしたが、今ではたくさん行われています。
民間の会社が主催する交流会、士業が主催する交流会、会員制の交流会などいろいろな種類があります。
参加費や参加する職種なども様々ですが、うまく波長の会う人と出会えたら、その後クライアントや案件を紹介してくれる可能性があります。
また、こちらからも何かあった時に相談できるパートナーを見つけることもできるかもしれません。
ただ、交流会の中には、その交流会自体が何かを買わせようとするような怪しい会であったり、交流会に参加している人の中に新興宗教に誘ってきたり、商品を売りつけるような目的で来ていることもあったりしますので、その選別には十分に注意しましょう。
④ 飛び込み営業
近隣の金融機関や士業事務所に、事務所案内をもって飛び込みの営業をするというのも、昔からある営業手法の一つです。
効率はかなり悪く、全く相手にされないこともあります。
100件回って1件の依頼があればよい方だという話を聞いたこともありますが、それに近いものはあると思います。
何もやらないよりはマシだという程度かもしれませんが、中にはこれで後々まで続く関係をつかむ司法書士もいます。
かく言う私も、飛び込み営業をきっかけにご依頼いただいた金融機関さんと今でもお付き合いさせていただいています。
ただ、飛び込み営業は、飛び込む先に注意しなくてはなりません。
金融機関や士業事務所であれば一定の安全性はあるかと思いますが、不動産会社や一般企業は玉石混淆で、どのような相手かわからないことが多いので、きちんと選別して、気を付けながら行いましょう。
⑤ クライアントからの紹介
一度依頼してくれたクライアントから、他のクライアントを紹介してもらうことは、非常に効率的な営業方法です。
目の前にいるクライアントの満足度を高めることもまた営業です。
⑥ ダイレクトメール
ターゲットとしている見込みクライアント(たとえば税理士さん)に、郵便やメール便で自己紹介や業務案内を送り、反応のあったクライアントに実際に会いに行って、関係性を作っていくという営業手法です。
反応してくれた見込みクライアントに会いに行くので、飛び込み営業よりもずっと効率はよいといえます。
うまくいけば、複数のクライアントを獲得できるかもしれません。
私の知り合いの司法書士もこの手法で複数の士業事務所からの依頼を受けることができました。
⑦ ホームページの活用
ホームページは司法書士にとって、今や欠かせないものとなっています。
私が開業した当初は、まだまだホームページをもっている事務所はそんなに多くなかったイメージがありますが、今ではホームページをもっていることが当たり前で、逆になければ信用されないといった時代になってきています。
ホームページの活用の仕方もいろいろですが、一つとしては、名刺代わりに使うという方法があります。
実際に会った人達を、名刺のURLから自分のホームページに誘導して、興味を持ってくれたクライアントからの問い合わせにつなげるのです。名刺には書けるスペースが限られていますが、ホームページには詳細な自己紹介や業務案内などが記載できます。
一度名刺交換した人が、その後ホームページのプロフィールを見て、自分との共通点を見つけて連絡してくれるようなこともあります。
それから、ホームページからダイレクトに案件の依頼を受注するという使い方もあります。
すでに司法書士に依頼すべきニーズを抱えたクライアントを事務所のホームページに呼び込み、問い合わせをしてもらうといった方法です。
ホームページからコンスタントに依頼が来始めると、それだけで売上の一つの柱となります。
ホームページから新規依頼を受注するためにはいろいろな工夫も必要です。
そもそも、会ったことのない見込みクライアントから問い合わせを受けるのですから、自分がどのような人物で、どういった経歴を持っていて、何ができるのかといったような詳細な情報を開示し、相談しやすい雰囲気もアピールしていかなければなりません。
「お客様の声」といったような、事務所に依頼したクライアントのリアルな声を載せるのも効果的です。
クライアントの手書きしていただいたアンケートをPDF化して載せるとより一層信用度が増します。
また、ホームページから問い合わせをしてもらうためには、ニーズを抱えているクライアントに、必要な情報を見てもらわないといけません。
ニーズを抱えたクライアントが検索するキーワードで上位表示されるようなSEO対策も必要でしょう。
ホームページ作成やSEO対策を、業者に任せるのか、自分でやるのかも検討しなければなりません。
業者に頼むのであれば、ある程度の出費は覚悟した方がよいでしょう。
また、頼んだからと言って反応の取れるホームページができるとも限りませんし、上位表示されないこともあることを心得ておきましょう。
⑧ ブログ、メルマガ、FacebookなどのSNS
ブログやメルマガ、FacebookなどのSNSで情報発信していく営業方法もあります。
前述したホームページと似ていますが、これらは常に最新の情報をこちらから発信していくということで少し違っています。
個人の情報なども多く発信するので、クライアントにとっては司法書士のことがより身近に感じられるという効果はあるのだと思います。
ただ、あまり頻繁に発信しすぎると、クライアントによっては「暇な先生だ」と思う方もいるようです。
私自身はあまり活用できておりませんが、ブログなどから新規クライアントから依頼を受注できている司法書士もいるようなので、やり方を工夫すれば十分営業のツールになると思います。
⑨ 広告、チラシなど
紙媒体に広告を掲載すること、チラシを配布することなども営業方法の一つです。
広告は新聞や雑誌でも掲載することができますし、官公署や郵便局の封筒などにも掲載することができます。
チラシは、新聞折り込みやポスティングもできますし、可能であれば、郵便局や金融機関に置いてもらうことも考えられます。
紙媒体のほか、インターネットによる広告もあります。ウェブサイトで広告を募集しているものもありますし、クリック型のリスティング広告もあります。
いずれにしても、広告はそれなりの費用もかかりますので、費用対効果を考えながら行った方がよいでしょう。
以前は債務整理で、たくさんの事務所が広告やチラシを配布していて、一定の効果があったのですが、今では費用対効果が低くなっているようで、大分少なくなってきています。
登記案件はなかなか広告やチラシでは反応が取りにくいというのが、個人的な実感です。
⑩ 路面店
事務所を大通りの1階に構えることも、大きく言えば営業のひとつだといえます。
路面店は常に目に見える形で事務所の宣伝をしているのと同じです。
司法書士に相談すべき問題が出てきたときは、すぐに思い出してもらえる可能性が高くなります。
非常に効果的ではありますが、路面店として事務所を構えるのには、立地の良いところでなければ意味がなく、それなりの賃料もかかり、ある程度の資金的余裕が必要です。
もし資金余裕があるならこのような選択を考えてもよいでしょう。
⑪ その他
その他に新規クライアントを紹介してくれるチャネルとして、リーガルサポートや、各司法書士会、公共嘱託登記司法書士協会などもあります。
既存クライアントに対する営業
営業というと、新たなクライアントを獲得していくイメージが強いですが、実は、最も効率の良い営業方法は既存クライアントへの営業なのです。
既存クライアントが事務所のサービスに満足してくれて、リピートしてくれれば、極端にいえば、こちらは何もしなくてもクライアントにニーズが発生したときに、クライアントの方から依頼をしてくれます。
また、いくら新規クライアントからの依頼をたくさん受けることができても、一度きりで離れて行ってしまったら、穴の開いたバケツに水をためるようなもので、いつまでたっても新規営業をし続けなければならず、事務所経営は安定しません。
まず、目の前にいるクライアントを徹底的に大切にして、その満足度を高めていくことが最も大事な営業なのです。
クライアントは自分の想像を下回るサービスには不満を感じます。
逆に、自分の想像以上のサービスの提供を受けると満足してくれます。満足してくれるとリピートが発生する確率が高くなります。
そして、もう一歩進んで、自分の想像をはるかに超えたサービスを提供されると感動するのです。感動からは紹介が生まれます。
感動したクライアントは、周りの人たちに何か司法書士に対するニーズが発生すると、進んで紹介していただけるのです。
このようなクライアントが増えてくると、事務所の経営は安定し、新規営業をあまりしなくても、雪だるま式にクライアントの数と案件数は増えてくるのです。
とはいっても、クライアント絶対数が少ない開業したての司法書士は新規営業にも力を入れていかなければなりませんので、既存クライアントの満足度向上と並行してバランスを取りながらしっかりと営業をしていきましょう。
業務を行う上で常に意識したいのが、報酬以上の価値を提供するということです。
報酬以上の成果やサービスといった価値を提供できれば、クライアントは得をしたと感じますし、報酬より低いと思えば損をしたと感じます。
損をしたと感じたら、リピートすることなく離れていってしまうでしょう。
クライアントの満足度を向上させ、リピートをしていただくためには、常に自分が報酬以上の価値を提供出来ているかどうか意識し、客観的にチェックすることが必要です。
誠実さというのはなぜか相手に伝わるものです。
話し上手でも話し下手でも、表面的な言葉とは関係なく伝わります。
買い物や食事などに行って、誠実な対応の店員さんに会うと、その店員さんに何でもお願いしたくなってしまいます。
同様に、我々司法書士も、いかに法律知識が豊富だったり、技術がしっかりしていたり、話がうまかったり、要領が良かったりしても、誠実さが欠けてしまっていたら、それは必ずクライアントに伝わってしまうものだと自覚しましょう。
誠実さに欠けてしまうと、結局最後にクライアントの信頼をつかむことはできないのです。
クライアントと誠実に向き合い、業務を行うことが、実は、クライアントの信頼を勝ち取るもっとも強力なスキルなのです。
「誠実さに勝るスキルなし」ということです。