目次
はじめに
はじめまして、司法書士の佐久原綾子です。
私が所属しているスタートアップ支援の専門家集団「BAMBOO INCUBATOR」にて「シン・ストックオプション」を開発公開しましたのでご紹介いたします。
「専門知識は力なり Expertise is Power.」を合言葉に、誰もが専門知識を活用でき、自己実現の一助とすることができる世界を目指しています。
自己紹介
平成21年に司法書士試験合格後、商業専門、相続専門、不動産決済専門事務所での経験を積んだのち、令和4年に下北沢で独立開業しました。
現在はAuthense司法書士法人の代表として六本木と下北沢の2拠点で業務を行っています。
商業登記5割、不動産登記3割、相続登記2割の割合で業務を行っていますが、特にスタートアップの顧問やM&Aの法務支援などに力を入れてサービスを展開しています。
ストックオプションとは
そもそもストックオプションとは、新株予約権の一形態であり、従業員や役員などに対して、あらかじめ決めた価格で将来株式を取得する権利をあたえる制度です。
スタートアップが上場すれば、ストックオプションの付与を受けた従業員は市場の株価より安い価格で株を取得できることになります。
通常のストックオプションでは、権利行使して株式を取得したときと、持っている株式を売却して利益を得たときの二度課税されてしまいますが、税制適格の要件を満たすことによって、株式を取得したときに課税されずに済むのが税制適格ストックオプションです。
この税制適格の要件について令和6年度税制改正があったため、改正に対応した新しいストックオプションキットを作ろう、と「BAMBOO INCUBATOR」の有志によるプロジェクトが始まりました。
弁護士チーム、税理士・会計士チーム、司法書士チームが集まり、現場で課題に感じていたこと、改善したいことなど意見交換をし、5つのコンセプトのもと開発を行いました。
シン・ストックオプションの
5つのコンセプト
シンプル
既存のストックオプションの発行要項や割当契約書は書いてあることが複雑で、読み解くのが難しいものが多かったため、経営者にとっても従業員にとっても読みやすいひな形にすることを目指しました。
M&Aフレンドリー
今までのひな形は、M&Aが発生した際には消えてしまう設計が多かったのですが、スタートアップのイグジットとしてバイアウトの選択肢も増えていることから、シン・ストックオプションのキットはM&Aの際にも行使が可能な設計にしました。
自動処理フレンドリー
スタートアップがステージが進んでいくと100人や200人の従業員にストックオプションを付与するなど大量に発行され、その後バラバラのタイミングで行使されたり、従業員の退職といったイベントが発生した際に、何らかのツールを使って管理していくことが想定されます。
その際に、プログラミングしやすいように変数を先出しするなどの工夫をしました。
契約変更フレンドリー
令和6年度税制改正があったように、今後も契約の変更が起こる可能性が高いため、変更がしやすいような設計にしました。
管理部フレンドリー
退職や相続などのイベントが発生した際に、ストックオプションが消滅するのか、回収、消却しなければならないのか、管理部がどのアクションをとればよいか分かりやすいものとなるように設計しました。
司法書士の「こだわり
ポイント」
シン・ストックオプションキットのうち、司法書士は登記に関わる部分として主に発行要項や株主総会議事録などを担当しました。
割当契約に定めるべきか、発行要項に定めるべきかを以下のとおり整理し、発行要項について設計していきました。
割当契約 | ・新株予約権者ごとの 個別適用。 ・契約の変更は、発行会社と 新株予約権者の当事者の合意で可能。 |
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発行要項 | ・新株予約権者全員に適用。 ・内容を変更するには、株主総会決議と新株予約権全員の同意が必要かつ登記の変更も必要。 |
細かい議論がたくさんありましたが、司法書士ならではの「こだわりポイント」を2つご紹介していきます。
発行要項の順番
ストックオプションの発行要項は通常、会社法の条文の順番どおりに記載されていることがほとんどです。
ストックオプションの登記を依頼された司法書士は、発行要項の中から登記事項を選別し、申請書を作成していきます。
せっかくひな形を作るのであれば、依頼を受けた司法書士にとっても使い勝手がいいものにしようと、発行要項のうち登記事項を前半に、登記事項でないもの(新株予約権の行使の際の資本金の扱いや譲渡制限についてなど)を後半へ記載することにしました。
外字、半角の不使用
登記申請をしていく際に、「①」や「Ⅳ」などの外字はビットマップイメージファイルを作成して申請しなければなりません。
ストックオプションの発行要項は、行使条件や取得条項など条項数が多くなると①②③などの外字が使われることがあり、これらをビットマップイメージファイルに置き換えていく作業が発生していたため、シン・ストックオプションの発行要項は外字を使用せずに作成しました。
また、半角の数字も申請の際にエラーになってしまうので、半角数字も使わないように作成しました。
外字や半角を使わないといったことはとても小さなこだわりのように思えるかもしれませんが、実務をやっている司法書士なら共感できるポイントではないでしょうか。
ほかにもいろいろな工夫がつまった「シン・ストックオプション」を是非ご活用ください。
さいごに。司法書士は楽しい。
司法書士の仕事は、単に書類を作成するだけではありません。
法律や制度は日々変わり、同じ手続きでも依頼者の状況やご要望によって適切な対応が異なるため、ケースごとに異なる「解」が求められます。
そのため、常に勉強が欠かせませんし、知識を深めれば深めるほど「自分がまだ知らないこと」にも気づかされます。
まさに「知れば知るほど無知を知る」ということわざ通りで、司法書士に必要とされる知識に限界がないことを痛感する毎日です。法律という奥深い世界で「正解」に近づこうと頭をフル回転させるたび、自分が少しずつ成長しているのを感じられるのがこの仕事の面白さです。
毎日新しい課題に向き合うことで飽きることがなく、常に自己成長を実感できるのが司法書士という仕事の魅力だと感じています。