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登記申請がされたとき、中の人は何をしているのだろう?

セク原田青@頭亀官と申します。
草むしりからセルフ対応、乙号ヘルプまでする登記所内のなんでも屋。

その日常をXにて同業者・隣接士業者と情報交換をさせていただいております。
先日、「処理遅延がひどい!中の人は何をしとるんだ!」という長文ポストをしましたところ、数々の反響とともにあなまちのオヤビンから「その話、掲載してみないか」とのお話を頂戴しました。

中の人が何をしているのか紹介させていただくことで、お互いの効率化や合理化のヒントになれば意義のあることと考え、快諾させていただきました。帳票などを掲載することはできないのでイメージしにくい部分もあるかと思いますが、ご参考になさっていただければ幸いです。

なお、本寄稿にあたり、公務員としての本分に則り、原稿料は辞退していることを申し添えますとともに、あくまで匿名垢が勝手にしていることですゆえ、私の特定や所在探索はなさらないようお願い申し上げます。では、イキます。最もシンプルなオンラインで所有権移転が申請されたときを想定して書きますが、書面申請との相違などについても触れたいと思います。各庁取扱が異なる場合もありますので、ご承知おきください。

受付

オンライン申請が発射されますと、わー社のシステムに「事件だよ!」的なアラートが出たり、勝手に申請情報を印刷してくれたりするわけではなくて、中の人がいちいち「申請入ってないかな?」と端末操作をするのです。

事件数が多いところなら間隙なく申請が入ってくるので端末に張り付きっぱなしですが、少ないところだと5分とか10分おきに確認することになります。

よく「効力証明まだかいの?」とお叱りをいただくのですが、これは通常のオンライン申請と別の画面をいちいち開かないと申請が入っているかわからないので放置されがち、という実情にあります。また、最近だと、検索用情報単独申出とか相続人申告もいちいち手間をかけて確認しないとわかりません。

申請が入ったら、申請情報の印刷をします。
電子署名の検証結果やPDFもここで出力されます。

それとともに、「調査票」等の印刷もします。調査票とは、いわゆる物件や会社等の登記事項証明書なのですが、申請物件全部の概要がまとめられた表紙がつきます。
表紙には、所在地番、所有者の住所氏名持分のほか、「農地があるよ!」などの注意が印刷されます。また、同時に「識別情報の照合結果」、「記入結果の確認票」、「完了証のイメージ」、申請情報と物件の「突合票」などを一斉に印刷する「自動実行機能」があります。

申請に補正やイレギュラーがなければ大きな省人化になるのですが、たとえば、「所有権移転及び何某持分全部移転」や「持分後記のとおり」はシステムの判断能力を超えてしまうので自動処理ができず、滞留する要因の一つになります。

昨年(令和6年)年度末のようなシステム障害が、これらの自動処理のシステム負荷に起因するとの指摘を受け、今年(令和7年)の3月末には、多くの庁で自動処理を停止することで乗り切りましたが、結果、手作業が増えてしまい、年度当初の処理が遅延することとなりました。

印刷物をすべて申請単位(連件)にまとめ、クリアファイルに入れて「添付書類待ち」の台車に格納します。ここまでの工程は、ほぼ印刷物の出力とまとめのみですが、庁によっては物件やPDFのチェックをしていたり、予算事情で印刷物を減らしたり(100件でコピー用紙2000枚以上は軽く消費します)、なんてところがあります。

添付書類が届いたら、印紙納付だと受け取り次第監視カメラの下で即座に消印をし、システムに印紙納付の「消し込み」処理をしなければなりません。
これが徹底されていないと、コンプラ委員会から大目玉を食らいます。間違って管轄外に出してしまうと、消印をしてから管轄相違に気づくことになってしまいますので、ご注意を。

電子納付の場合は、納付状況の帳票を印刷しますが、「いつ納付されたよ!」というシステム上の通知はないので、添付書類提出までに納付が済んでいないと、納付されたことを確認できないまま放置される可能性が高いです。

郵送で届いたら、これも開封は監視カメラの下で、印紙納付だったら即消印です。
添付書類の到達通知は、余裕のない庁では省略しているところもあると思います。

「受領簿」に、到達の日時、差出人、内容物、レタパか書留か等をいちいち書き込んだら、「添付書類待ち」の台車から抜き出した該当事件のファイルに、免許税関係の帳票とともに合体させ、「調査待ち」の台車に移して受付のセクトは終了です。

調査待ちの並び順は、「受付番号順」、「添付書類到着順」など各庁により方針が異なりますが、書面申請はその日の最後尾にまとめる庁が多いようです。

書面申請だと、「受付番号発番」、「物件入力」という手間が加算されますし、印紙の処理にも気を遣います。特に「物件入力」は遺漏や誤りがないかのダブル&トリプルチェックが欠かせず、多大な労力が消耗されます。せめてQRコードにして欲しいものです。

調査・記入

今、上層部から最も注意を厳命されているのが、誤った物件に登記をしないこと、第三者の許可承諾が必要なケースを見落とさないこと、相続人の判断を誤らないことの三点ですが、現場レベルでも、地面師被害などの事案を発生させないために、有効な調査方法を日々考え、実行しています。

調査の手法は様々ですが、「私のヤリ方」で説明します。まずは調査票の表紙を見て、所有者の違う物件が入っていないか、住所が相違していないか、農地はないか確認。次いで「還付書類」を見ます。

農地法の許可書など、「大事な書類」はほぼ原本還付対象なので。登記済証が入っていたら、その時点で受付年番号を申請書に書き込みます。

還付書類は内容を読み込むより、偽造が疑われるような形跡がないことの確認と、全体のイメージを焼き付けるのが私流。早い段階で還付書類はこれでオッケー!てしておかないと、後で書類が足りないなどのトラブル要因になりかねないからです。

発行する完了証や識別情報の通数も、この時点で「印影届」「受領印照合表」等のご当地名称があると思いますが、アレに書き込んで還付書類と一緒にしておきます。戸籍類など読み込みが必要なものはまたあとで。

あらためて調査票と申請情報の物件を見比べて、物件の誤りや遺漏がないことと順位番号を確認します。端末には、「審査ポータル」という機能が搭載されており、これを活用するよう局幹部から激押しされていますが、なかなか思うような効率化にはならないのが現状です。

続いて、登記情報、添付情報と突き合わせて申請の適否を確認します。義務者が取得した登記の受年番号と、先にメモしておいた登記済証の受年番号、または、受付段階で印刷されている識別情報の照合結果確認。原因証明情報は、通常の売買なんかだったら当事者と物件、日付をよく見ます。

三為なら、定型句も欠かさずチェックします。ちなみに、PDFは肝心なところが写っているかどうか見る程度で、PDFを見て調査するということはありません。

相続だったら、ここで還付書類である戸籍類と相関図を確認します。
戸籍の流れを整理する目的と遺産分割協議書の印影照合のため、私は綴じてあってもすべてバラします。

綴り順が違って還付されたらゴメンナサイ!協議書と印鑑証明が袋とじされていたら軽く殺意を覚えます。むしろ、(印影照合しにくくさせる目的か・・・?微妙な印影をごまかそうとしとるのか?)と作成者への不信感が爆上がりします。

印影照合は、必ず押印された原本と印鑑証明の原本を重ねてペラペラ残像方式で確認します。
熟練者は並べて見ればわかるとか、書類をバラす手間を惜しんでコピーに頼る職員もいたりとかしますが、やっぱり原本を直接確認することが、印影の相違や偽造の可能性に「気づき」を与えてくれると思います。

許可書等は、物件や当事者、日付はもちろん、原因(贈与か売買か)まで目を通します。
委任状は義務者の印影が一番大事ですが、識別情報の受領と暗号化の件を忘れてはいけません。

課税価格と税額を計算して、納付額を確認します。額面と、特に印紙納付の場合は印紙の手触りや角度を変えた目視などにより、偽造や使用された形跡などがないことをチェックします。これらの作業が完了したら、端末に「調査完了」の指示をします。

ちなみに、コンビニ証明は、専用のカメラを接続したパソコンやドライブレコーダーで逐一確認しています。

あと、「添付書類の綴り順」ですが、私はホッチキスを外してすべてバラバラにして調査しますので、あまり意味がありません。印鑑証明を裏返したり、横長の書類は三つ折りにして横長のまま綴ったりと配意してくださる方も多いのですが、それをありがたく思う職員は多くないと思います。

端末に調査の結果を入力して調査の作業は完了しますが、受付段階で登記簿に記入した「確認票」が印刷されていますから、これを確認することで記入の工程まで完了します。補正等によって自動処理がストップした事案や、システムで解析しきれない文言は記入に反映されず、手作業が必要になります。

確認票には、義務者の喪失持分などの情報も記載されますので、「髙﨑某持分」が高崎さんだったりすると、システム上別人と判断していることもわかります。

所有者の住所氏名は、申請情報だけでなく、必ず住民票と突合しています。申請の誤りによる誤記を回避したり、輪郭を変えて見ることで、違和感に気づくことも多いのです。
書面申請であれば、物件の確認が手作業になることや、識別照合も手作業、調査完了の指示に手を加えなければならない、そして記入をすべて手作業で行わなければという負担が加算され、オンライン申請に比べ数倍の時間がかかります。QRコード申請であっても、記入くらいしか省力化されません。

検索用情報仮登録

検索用情報は、オンライン申請の場合、イレギュラーがない限りマウス操作十回程度で完了します。
対象人物の特定、物件情報との紐付け、作業内容の確認と必要な印刷物の出力です。これが書面申請だと、メアドも含めてすべて手入力しないとならず、そりゃ手間もかかるし間違いも起きますわい。

まだシステム上の不具合や制約が多く、今後改善されていくものと思われますが、それなりの手間もかかりますし、そのうちに発生する「住基ネットを徘徊して該当者に通知を出して職権登記」というイベントを考えると、やっぱり今からでも廃止して欲しいものだなあと痛感します。

ここまで完了すると、「校合待ち」の台車に格納されます。

校合

校合の作業は、それまでの作業を別の目で確認し、ファイナライズ処理をするわけですが、より厳しい目で確認がされているとお考えください。ほとんどの庁で、「調査記入と校合は同一人が処理しないこと!」と厳命されており、複数のチェックによって不正不当事案を防止しています。

完了予定日間近になって「校合官から指摘がありまして~」なんて電話があったら、そーゆーことだとご理解願います。
この工程まで来てしまうと、オンラインと書面で処理内容に大きな差はなくなります。

私の場合、まず住所証明書と記入結果の確認票、検索用情報の仮登録結果との照合をします。
検索用情報の処理を遺漏しないことと、権利者の名前を最初に頭に焼き付けるという視点で、効果的だと思っています。
そして、当事者が会社だったりしたら、利益相反の有無をこの段階で見ます。

受付でも調査でも、物件確認は何回も繰り返し行っていますが、校合工程でも厳しくチェックします。
次いで登録免許税の確認。調査同様に、特に印紙納付は厳しいチェックが入ります。

校合工程でも、私は書類をすべてバラします。印影を直接照合する目的もありますが、自分のルーティンにしたがった綴り順にすることで、不足書類がないかの直感を得ることが大きな目的です。見る内容は調査工程と同じですが、調査担当者がどこを見ているか、大事なところにチェックを入れているかということも上司たる校合官としてしっかり確認しなければなりません。

指導や注意を行うことで、調査の精度を上げることはもとより、後輩職員を将来の登記官に育てるという大きな責任を伴います。

最後に、記入結果の確認票と申請情報を確認します。これで書面上の校合作業は完了ですが、システム作業はさらにいくつかのプロセスを要します。

完了処理

まずは識別情報の作成。そして、全ての物件・権利者に識別情報が割り振られているかの確認。
ここでは、不通知にしたりオンライン通知にしたり、というような作業もします。

ここまで完了したら、いよいよ「実行」なのですが、その後もまだ作業があるのです。
完了証の印刷。識別情報の印刷。そして、「署名完了」といういわゆる「事件中ロック」を外す手続き。

これらの作業を一連で行える機能もあるのですが、完了証でも識別情報でも、オンライン通知があると「署名完了」はちょっと手間のかかる作業になります。よく事件終わったのにロック外れてませんよー、とご指摘をいただきますが、これはこの面倒くさい作業をスルーしていることに起因します。

まだあります。続いて検索用情報の本登録。通知発行。そして、これにも署名完了というロックを外す作業が必要です。登録完了通知をメールでする場合は、署名完了と同時に発射されるので、メアドの誤りや受信制限は、全てのシステム作業が完了した後に、「メールちゃんと着いたかな」という確認作業をしてはじめて発覚することになります。

完了証と識別情報の枚数をチェックし、検索用情報の登録完了通知とともに還付書類のファイルに格納して、交付窓口に持って行って、ようやく受領待ちor発送待ちとなりますが、さらに監視カメラの下で完了・返却書類のチェックをしますので、郵送の場合、その日の発送に間に合わないこともあります。

あとがき

ご提示いただいた文字数を大幅に超過してしまいましたが、本当は、この作業がうっとうしい!とか、システムがこんなんじゃ使い物にならないよ!という話も書きたかったのです。Xでの仲間たちの呟きにも反応していただければ嬉しいです。

文字ばかりでイメージがしにくかったとは思いますが、書面申請に比して、オンライン申請がいかに優れているか伝わりましたでしょうか。書面1件処理する時間で、オンラインなら5件処理できます。私たちが楽をしたいかどーかはさておき、全国のオンライン申請率が70%程度である中、残りの30%を5倍ものリソースで処理することが、どれだけ適正迅速に影響するかご納得いただけると思います。

改めまして、日頃からのご協力ご厚情に感謝申し上げますとともに、オンライン申請してくださる司法書士が皆ブルジョワになられることを祈念しまして結びとさせていただきます。「こんな話も聞かせて欲しい!」などのご要望があれば、Xでお寄せいただきたいと思います。

ありがとうございました、ごきげんよう!

余談 中の人についてざっくり

登記の職場に割り振られる人員は、基本的には受付番号とほぼ同義の「事件数」によって、一人あたりの負担量を求める方式で各庁に割り振られており、これに基づいて端末の台数や登記相談員の人員なんかも決まっていきます。これは、予算という税金を使う上で明確な根拠となりますので、余裕のある庁から繁忙庁へ人を回せばいいのに、というのは難しいということがおわかりいただけますでしょうか。

それを、非常勤職員を雇用したり、相互に応援をすることで、なんとか自転車操業を繋いでいるという実態です。具体的には、その庁の年間の最終受付番号がだいたいわかりますよね。これを、3000~4000くらいの数字で割ると、中の人の人数に近くなりません?これが負担量です。

もっと多くの職員がいるように見えたら、それは非常勤職員や応援に来ている職員です。少なく見えたら、病休や産休、長期研修等で定員を欠いているのかも。長期研修は、40年の法務局人生のうち、トータル1年くらいは行く感じ、あと、最近ではメンタルをやられて長期休暇に入る職員が多いですかね・・・。

年3万件くらいの職場で一般的な職員構成を見ていきましょう。

統括登記官3人(50代、手取り600)
その他の登記官4人(40~50代、手取り500)
調査官1人(30代、手取り400)
若手2人(20代、手取り300)
非常勤職員2~5人(うち1名は相談員、手取り100~200)

エっ!調査官て1人しかおらんの!?と思いません?
じゃあ誰が調査やっとんねん、て話ですが、庁にもよりますが、基本非常勤以外の全員がします。

これは、かつての政権が、公務員削減のため新規採用を辞めよう!という政策を実行しちゃった結果、現在の30代の職員がほとんどいなくなってしまったのです。公務員の職位は年功序列的なところが大きいですから、登記官になる直前の職員層というのがものすごいこと少なくて、定年後も再任用職員として雇用継続したり、今後は定年延長により65歳までは職員として勤務できますが、現在の登記官が引退する頃には、登記官世代が不在になってしまいます。

これをなんとかしようと、資格者の選考採用や中途採用をしてはいますが、とても追いつかないのが現状です。

もうちょっとお突き合いください。調査官、登記官などの職位が上がるのは年功序列的な要素が大きいのですが、加えて「人事評価」という、ざっくりどれくらい仕事ができるかというシステムがあります。

不動産登記の事件処理だけで見ていきますと、権利の校合なら1日20~50件、調査なら1日10~30件というのが、いわゆる「可」のラインかなと思っています。これよりも処理能力が低かったり、仕事をいい加減に流して、過誤事案などを発生させたりしまうと下位の評価がついてしまい、クビに直接関わるといえます。

過誤事案には、偽造書類を見過ごしたり、カスハラに負けて日和った判断をしてしまうものも含まれますから、我々はクビをかけて地面師に立ち向かっているといっても過言ではないでしょう。決して評価のために仕事をしているわけではありませんが、いたずらに処理遅延を招くような作業をしているわけではないことはご理解ください。

あとそーですね、法務局の業務ってものすごい多岐にわたっていて、私みたいに登記一筋30年という職員は稀有な存在です。とはいえ、私も昔はほとんど乙号ばかりでしたし、法人の経験は集中化前にちょっとしたくらいです。

ゆえに、いい年してこんなことも知らないのか、トンチンカンな補正指示してきた、なんてことも少なからずあると思います。現在の人員体制では、内部の情報共有を行き渡らせるのが難しくて、ご迷惑をおかけすることもあります。

私たちも努力はしますが、成長していくためには司法書士・土地家屋調査士から意見や助言をいただくことがどーしても不可欠なのです。ありふれた言葉ではありますが、法務行政と司法書士・土地家屋調査士が円滑に業務を進められ、お互いに高め合っていけるよう、引き続きのご支援・ご協力をお願い申し上げまして、さよーならマタいつか!

【執筆者紹介】

セク原田青@頭亀官こと全法務ついった支部長・現役登記官 原田青二
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