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開業司法書士の楽しい時間の使い方

経歴

私は、司法書士試験の勉強を36歳で開始した。当時の合格者の平均年齢がそれくらいと記憶しているので、遅いスタートと言えるだろう。
4年の勉強を経て40歳の時に合格し、翌年41歳で登録をした。いわゆる未経験即独立、即独である。

小さい子を抱え、住宅ローンを背負っていた私に、勤務で年収200~300万という選択肢は現実的ではなかった。

ただし、闇雲に独立をしたわけではない。当時の私には個人タクシーという収入源(年間売上800万円前後)があったので、決断できたというのが正直なところだ。

背水の陣で人生をかけてというわけではなく、人生のプラスアルファになればいい、うまく回るようであれば司法書士一本でやっていこうというものであった。

事務所履歴 ~形態ごとのメリット・デメリット~

(1)自宅開業

平成27年の試験に合格したあと、新人研修を経て、平成28年の3月に登録した。人生のプラスアルファで構わないと思っていた私は当然のように自宅で開業した。

補助者経験のある同期達から情報を仕入れ、近隣の金融機関に営業をしたが、効果は見込めないと聞いていたとおり、何の効果もなかった。正直なところ、司法書士が金融機関からどのような仕事をいただけるのか正確にはわかっていなかったので、やむを得ないところであろう。

迷わず自宅開業を選択したことの理由はもう一つある。それは、新人研修を経て一番興味を持った仕事が成年後見であったことだ。研修時の講師や登録面接時の東京会理事から、後見をやるのであれば自宅開業でも問題ないだろうと言われていたのだ。

今振り返ってみて思う。成年後見「だけ」をやるのであれば、そのとおりだと思う。

しかし、当時の私は、成年後見だけという思いではなく、相続や小さい裁判なども手掛けたいという思いがあったので、1年もしないうちに外に事務所を借りたいと思うようになっていた。

(2)合同事務所

自宅開業3年目の平成30年暮れ、特別研修で知り合った1期下の先生と合同事務所設立の話が盛り上がり、平成31年1月、合同事務所を開設した。

念願の事務所であった。これでお客様を気兼ねなく事務所にお招きすることができるようになった。
部屋の外で子供の声がしている自宅とは大違いである。

しかし、合同事務所設立前から周囲に言われていたとおり、共同経営の難しさを痛感する日々が続き、半年も経たずに関係は破綻し、秋頃にはどう別れるかばかり考えていた。

(3)個人事務所

令和1年の暮れから話し合いをし、令和2年2月、私は個人事務所を開設した。現在の事務所である。
当初は、一人事務所としてやっていくつもりであったが、開設後間もなく思わぬ展開を見せる。

それは、何の前触れもなく届いた。令和2年4月の一本のメールだ。

送り主は前年に合格したばかりの新人さんで、うちの事務所で働きたい、無給でもいいから働かせてほしいというメールであった。
当時、私は求人をしていなかったので、ただただ驚いた。

メールは、非常に丁寧で礼節を感じるものだったので、無碍に断ることはすべきではないと判断し、とりあえず面接をする段取りを取った。

忙しくなる見込みがあったというのも理由だ。面接をしてみると、補助者経験もあり、有益な人材であると感じたので、アルバイトとして週2日通ってもらうことにした。

ちなみに、志望動機は、私が後見をやっていること、手話を習っていること、とのことであった。

決済事務所にいたので後見のことは何も知らず、それでいて後見が一番やりたい仕事であること、自らが難聴というハンデを背負っており今後は手話も勉強したいと思っているとのことで、うちに興味を持ってくれた理由には筋が通っていた。

これが、ただ「近いから」とか、通勤が便利などという動機であったら、断っていたと思う。
繰り返しになるが、私は求人をしていなかったのだから。

さらに言えば、「無給でもいいから働きたい」という言葉が強烈な印象を残した。
どこの事務所も本職を欲しがるなか、求人もしていないのに、本職が、無給でもいいから働かせてくれと言ってきたのだ。

人生の中で、たとえ無給であってもお前の下で働きたいと言ってくれるような存在に出会える確率はどれほどであろうか。

(4)比較

自宅開業は、何といっても経費の少なさがメリットである。一方で、関係者を招きにくいというデメリットがある。
特に、同居の家族がいる、しかも小さい子供がいるとなると、なおさらである。

共同経営は、難しい。ハッキリした上下関係がある、長い付き合いがある、同じ事務所で働いていたことがあるなどでなければ、難しいと思う。

ちょっとした価値観のズレが日々蓄積していけば破綻やむなしと思う。

メリットは、経費削減、意見の交換が可能、所有知識や書籍などの共有が考えられる。

デメリットは、仕事の進め方の違い、重視すべきポイントの違い、事務所に来た仕事の割り振りの難しさなどが考えられる。

やるのであれば、対外的に別事務所であるようにすることがいいと思う。
屋号も電話番号も報酬形態も違う別の事務所が、たまたま同じ住所に存在し、複合機などを共同使用するだけの関係が望ましいのではないだろうか。

個人事務所は、すべて思いのままにできるのがメリットであろう。
いつ休むか、何時から出勤して何時に帰宅するのか、すべて思いどおりである。
ただ、忙しくなってしまえば、ひたすら働くだけという気もするが。

デメリットは、事務所が空になる時間が生じてしまうことである。これは意外とストレスを感じる。
特にレターパックの配達を受け取れないのは何気に手間である。
もっとも、補助者やスタッフの本職がいてくれれば問題はなくなる。

人生という有限の時間のなかで

人生は有限である。これはすべての人間にあてはまる。
もちろん、読んでいるあなたにも。人生をどう生きるかということは、その有限の時間をどう使うかということに他ならない。

あなたは、なぜ司法書士試験の勉強を開始したのか覚えているだろうか。
名声を得るためか。お金を得るためか。やりたいことをやるためか。

現在の自分は当初描いた場所にいるのか。アップルの創始者スティーブジョブズはこう言った。

毎朝、鏡の中の自分に問いかけてみろ。今日やることは自分がやりたいことなのか。
その答えが3日連続で「NO」であったのならば、何かを変えるべきだ。

いま、事務所への就職や移籍を考えている方は、自らの人生が有限であること、司法書士になりたいと思った動機をもう一度よく考えて進路を決めてほしい。

あなたの人生が、あなたにとって、最もよい方向に進むことを願う。

開業司法書士の楽しい時間の使い方

最後に、ここまで偉そうな講釈を垂れてきた私が、どんな時間(人生)を過ごしているか、恥を忍んで披露したい。

新人研修で後見に興味を持った私は、お世話になった複数の講師に質問をし、未経験即独でも登録すれば後見の仕事がありそうなこと、開業予定の地元が都内有数の後見業務の多い地域であることを把握したので、やりたい仕事をやるべく即独立した。

その結果、現在の私は、主業務を後見とすることができている。司法書士業界では、後見を主業務とすることに一定の抵抗があると思う。

また、世間からも、人助けで金儲けなんかしやがってという批判があるかもしれない。

しかし、登録直後から後見業務に携わり現在に至る私は、胸を張って言える。

私が司法書士になろうと思った動機「困っている誰かの役に立ちたい」という思いが形になっている、と。
思い描いた人生を生きている、と。

天井近くまでたまったごみ屋敷で失神していた本人、近隣住民から変人扱いをされ何度も自殺未遂を繰り返した本人、老々介護のご夫婦、認知症の配偶者と知的障害のお子さんを一人で抱えて途方に暮れていた本人、文字が読めないことを寂しげに教えてくれた本人、ありとあらゆる方の人生にお邪魔し、ほんのわずかでもその方が笑顔になれるようにお手伝いをできているという自負がある。

そこに対して発生する報酬に対しても、後ろめたい気持ちなど一つもない。これこそが自分の人生だと思う。

開業司法書士の楽しい時間と言いながら仕事の話ばかりでは仕方がない。

もちろん、仕事以外の時間も楽しんでいる。休日になれば草ソフトボールチームの主力である(自称)。
家庭では3児の父として(と言いつつ、1人はもう成人しているけれど)偉そうにしている。

3年前からは手話講習会にも通い、披露できる時を虎視眈々と狙っている。面白そうだと思ってブログをやったこともある。

ツイッターは1万以上のツイートをした。思い付きでYouTubeも始めた。不動産鑑定士試験の勉強も細々と続けている。

それでいて調停委員という裁判所の非常勤国家公務員でもある。会務だってやっちゃう。
公嘱協会の理事、実践成年後見の企画委員、東京会の選挙管理委員、LS地区サブリーダー、政連総務、法律教室の講師にもなる。

さらに、子供のころに誰もが憧れたであろう学会員にもなった。成年後見法学会だ。
いやー、週末は学会がありましてね、などとしたり顔で言ってやるのだ。

私は、全部、楽しい。
私は、私の人生という限りある時間を、私にとって、一番楽しいと思えるように、やり残したことなどないと言えるように、心のままに生きることができている。

これは、他でもない、開業というリスクをテイクした結果ではないだろうか。

開業すれば自分の時間をどう使うかは、自分次第だ。やりたいことを、やりたいだけできる。

あれ?求人サイトに載せる記事がこれでいいのか!?
最終的に開業の勧めみたいになってるぞ!?

まー、それもまたやむを得ないことだ。
それが嘘偽りのない当職の本心なのだから。

最後まで読んでくれてありがとね。

【執筆者紹介】

司法書士 髙野 守道 
(川のほとり司法書士事務所)


〒124-0012 東京都葛飾区立石8丁目30―11
リバパレス201
TEL03-6677-2558/FAX03-6740-6028
葛飾生まれ、葛飾育ち、面白そうな奴はだいたい友達。
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