前回に続き、どうすれば求職者が適切な事務所に就職できるのか、今回のコラムでは「就職前に考えて欲しいこと」についてお話しします。(前回の記事はこちら)
目次
就職(勤務先を探す)前に考えて欲しいこと
私は、求職者一人一人の事情によって、就職すべき事務所は違うと思います。
• まず、ずっと勤務希望か、将来独立希望か?
• 次に、独立希望ならどんな司法書士になりたいか?
• 最後に、あなた(求職者)自身の属性
順にご紹介します。
ずっと勤務希望か、将来独立希望か?
まず「ずっと勤務したいと考える方」は、給与、福利厚生や事務所の雰囲気から選ぶと良いでしょう。
ずっと勤務するつもりの方が就職活動する際に気をつけていただきたい点は、大学生の就活と同様ですが、あえて申し上げると次の二点です。
その事務所の「今の数字」
いくら大きな司法書士法人といったところで、世間的には従業員数百人程度の企業は沢山あります。
そして、中小企業がすぐに倒産することは例を挙げるまでもありません。
拠点数が多いといっても、出店コストで借金まみれということもあり得ます。
どの程度の時間を掛け、どの程度の頻度で出店しているのかを見る必要があるでしょう。
倒産したミネルヴァ法律事務所が弁護士以外の者に実質支配されていたように、司法書士以外の者が経営している司法書士事務所もあるかもしれません。大規模であるにもかかわらず、やたら所長が若い場合や、次々に所長が交替している場合には注意深く中身を調べる必要があります。
ミネルヴァ法律事務所については、八下田法律事務所「東京ミネルヴァ法律事務所が破産」最終アクセス211025などもご参照ください。
その事務所の「競争力」
簡単な仕事を大量に、少ない取引先から受託しているような事務所は、今は儲かっているように見えたとしても、市場での競争力は低いです。
簡単な仕事しか受けない事務所は、AIの台頭によって仕事を奪われるかもしれません。
また、取引先が少ない事務所は、1か所との取引が中断しただけで、大きなダメージを負ってしまいます。
次に「将来独立も視野に就職を考える方」は、次のとおり考えれば良いでしょう。
簡単な仕事がよいか、難しい仕事がよいか?
将来、難しい仕事をしたいのか、簡単な仕事をしたいのかによって、勤務先事務所を選ぶ必要があります。
難しい仕事をしたいにしても①いきなり困難案件を扱う事務所に入るか、②簡単な登記をまずは登記工場で学んでから困難案件を扱う事務所に転職するかは、開業まで何年修行したいと考えているかによっても異なります。
これを合格したばかりの皆さんに選べというのは、少し酷かもしれません。しかしながら、最初に勤務する事務所で司法書士の仕事は簡単だと思うか、難しいからもっと勉強しないといけないと思ってどんどん成長できるかは大きな差だと思います。
「簡単な仕事」と「難しい仕事」を比較すると以下のとおりです。
簡単な仕事
難しい仕事
「簡単な仕事だけを受けて、効率良く稼ぐ司法書士」になりたいのか
「多少効率が悪くても、市民・法人のために働き感謝される司法書士」になりたいのか
ということです。
私はこれを両立している司法書士を未だ見たことがありません。
「効率よく稼ぐ」ということは、
• 定型的な仕事しか受けないことを意味します。
非定型な仕事を受けるのは、書籍などの出費もかさみますし、じっくり考える時間も要するなど効率が悪いからです。
• 非定型な顧客の要望も事務所が用意した定型に落とし込むことを意味します。
• 効率よく稼ぐために、コンサルの言うままに、不要な高額商品を売りつけるところまで行ってしまったら、もはや司法書士とは言えないかもしれません。
色々な業務を経験できる事務所の求人はなぜ少ない?!
人を雇おうと思えば、儲かっていなければできません。
儲けるために必要なのは、単に「集客が上手」であれば足ります。
求人している事務所のほとんどが、決済事務所、相続のみ事務所、債務整理専従事務所であるのは、いろいろな業務に手を出すよりも、専念することで儲かるからです。
ところが、皆さんが就職したいのは「法律家として優秀な先生の所」だったり、「色々やっている事務所」だったりします。
その理由を考えてみると、いずれ開業して、儲けるだけではなく人助けもしたいという心意気の現われだと思います。
しかし、そうなるためには「法律家として優秀であること」と「集客が上手いこと」の両方が必要で、簡単なことではありません。
そして、周りを見渡すと、両方ともできている司法書士は本当に少ないのが現実です。
私たちが立ち上げた「あなたのまちの司法書士事務所グループ」は、個人事務所の集合体ですが、誰よりも勉強することで「決して断わらない」を実現し、「決して断わらない」ことで「難しい案件も処理できる」ようになり、「難しい案件も処理できる」ことで信頼を得、さらに実力をつけながら、それを効果的に宣伝してきました。
でも、私たちにそれができるのは、基礎となる不動産登記、商業登記の知識があるからこそです。
今は、就職希望の事務所が求人していなければ、決済事務所で、決済や不動産登記を勉強してから、他の事務所に転籍することも考えるべきだと思います。
働きながらでも、就職希望事務所が求人をしていないか常にアンテナを張っておきましょう。
あなた(求職者)の属性
就職エージェントが発信している情報には、首をかしげざるを得ない情報が多く紛れ込んでいます。
本物の経営司法書士は、次のように考えています。
受験期間(受験回数)
(某エージェント)
長期になると不利と言うことは一切ありません。
(経営司法書士)
いいえ、受験期間による就職活動の有利・不利の差は明確にあります。
試験合格も一つの仕事ですので、短期合格の方が有利です。
特に、専業受験生の場合には、受験回数1~3回を優秀と捉えています。
反対に仕事をしながらの兼業受験生の場合には、仕事の負担も異なりますので、受験期間や回数をそれほど重視しないかもしれません。
試験の点数
(某エージェント)
試験の点数は就職活動とほとんど関係ありません。
(経営司法書士)
ここはエージェントと同じ考えです。少なくとも当事務所では、点数で採否を決めたことはありません。
年齢
(某エージェント)
50代・60代でも就職できた例があります。
(経営司法書士)
年齢は就職活動に関係します。20代・30代は就職に有利であり、50代・60代は厳しいと思います。
単に所長が自分より年上の方を雇用しずらいということです。
あなたが、就職希望事務所の所長よりも年上の場合には、所長の年齢、スタッフの年齢を比べて見てみましょう。
所長よりも高年齢のスタッフが在籍している場合、あなたにも就職のチャンスはあるかもしれません。
一方、現代最新の司法書士事務所では非常に高度な業務を執り行っています。
そのような事務所の場合には、吸収力と頭の柔らかさが要求されます。
50代・60代の方が、どうしてもこのような事務所に入りたい場合には、そこ一本に絞るぐらいの勢いで頼み込む必要がありますが、採用されたとしても膨大な情報量に圧倒されるかもしれません。
簡単な業務しかしない登記工場などで一度定型業務を身につけられてから、こういった事務所に転職することも検討しましょう。
周りの言葉は信用できるとは限らない。
経営司法書士の言葉
多くの経営司法書士と接すれば、どういう考え方をしているのか分かると思います。
大切なのは、色々な場所に出向いて多くの司法書士の話を聞くことです。
司法書士の話を聞いたうえで、就職するかを即断しなければ良いだけのことです。
ちなみに、私の考えは、コラム「司法書士は即独か勤務か?独立するタイミングは?」、コラム「司法書士が身につけるべき能力」をご覧ください。
家族や友だちの言葉
彼らはきっと親身になって一緒に考えてくれると思います。
ただ、司法書士の業界を知らないことが難点ですので、その点を加味して話を聞く必要があります。
就職エージェントの言葉
エージェントもできるだけ正確な情報を皆さんに伝えようとしていると思います。
ただし、彼らのメイン顧客「大手法人事務所」の利益に反しない範囲で。
エージェントに利益をもたらしてくれるのは、エージェントを利用する「大手法人事務所」に限られるからです。
したがって、彼らの言葉がポジショントークなのか、汎用性のある言葉なのかフィルターを持って分析する必要があります。
例えば、就職エージェントが「利益率の高い司法書士事務所は、年収も高くなる可能性があります」と言っているのを聞いたことがあります。
しかし、逆にいうと、年収が高い事務所は、高効率化のために登記工場化や債務整理工場化している可能性がありますので、注意が必要です。
就職エージェントならばこれらのことを知っている筈ですが、就職エージェントにとっては登記工場や債務整理工場がメインの顧客ですから、そちらに誘導しようというのは当然のことです。
ここで、求職者側から見たエージェント利用のメリット・デメリットを考えてみます。
求職者側から見たエージェントのメリット・デメリット
整理するとおおむね次のようになります。
求職者の年齢が40代以上の場合や、合格に長期間を要した場合には「エージェント」を使ってみるのも良いかもしれません。
求職者から見たエージェントのメリット
求職者から見たエージェントのデメリット
【1】amazonで物品を購入する際、amazonが直接扱う商品であれば安心だけれど、知らない街の商店から購入するのは少し恐い気がしますよね。
また、勤務先に「退職します」と伝えられない人が使う退職代行会社が繁盛しています。
だから、その気持ちも少しは分かります。
しかし、司法書士事務所は、街の商店とは異なり、厳しいルールのもと国家資格である司法書士が経営しています。
どうか単に「直接連絡するのが恐い」というだけの理由で、エージェントを使うのは止めていただきたいと思います。
最終回は「司法書士事務所のチェックポイント(どんな司法書士事務所に就職すればよいか?)」と「どこで求人中の事務所を探せばよいか?」について、お話しします。
明日、配信予定です。