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デジタル化時代の司法書士事務所

はじめに(自己紹介)

本コラムをご覧頂きありがとうございます。
私、静岡県富士市で開業しております司法書士の久松と申します。

平成21年合格、10年間の勤務を経験後、令和1年の夏に独立して、現在経営4年目です。

合格後登録前から司法書士のデジタル化、業務効率化について取り組み、書籍を出したり、様々な単位会様で研修や講演をさせて頂いておりますので、本コラムをお読みの先生の中には、どこかでお目にかかった方もいらっしゃるかもしれませんね。

私は一人事務所で、現在求人は出しておりませんが(JOBサーチ様本当に申し訳ない!)、この度は「デジタルと司法書士業務」の観点から、事務所戦略や求人についてのお話をして欲しい旨を賜りましたので、本稿ではその観点からお話をさせて頂きます。

司法書士業務とデジタルスキル・リテラシー

唐突ですが、これをお読みの先生や合格者様、事務職希望の方で、「法律系のお仕事だからパソコンなんか最低限できればいい、民間よりも求められるスキルが低いからこっちの方が事務仕事が楽だろう/従業員ができればいい、俺(司法書士本職)はできなくていい」という考えの方はいらっしゃいますでしょうか。

手厳しいことを申し上げますが、この考え方は少なくとも今後の司法書士業界においては通用しません。

なぜでしょうか?

理由はふたつあります。

ひとつは単純に、現在ものすごい勢いで契約のペーパーレス化がすすみ、非物理文書(つまり電子契約書や電子委任状)が当たり前になりつつあるからです。

私のカンなので単なる予想に過ぎませんが、すくなくともあと10年もすれば、司法書士に「委任状は電子署名したPDFデータを送りますね」というパスが、金融機関や不動産業界から当たり前のように飛んでくる時代になると予想しています。

そうなったとき、まともにパソコンが使えない司法書士に何ができるでしょうか?

「電子署名が有効且つ失効していないことを検証して登記を申請する」という、従来の印影と印鑑証明書を校合するという基本的なことに相当する作業すらできなくなります。

現在の裁判IT化に至っては、資格専門職の訴訟提起については書面申請を認めないという話もでてきていて、登記もそうならないとは誰も言い切れません。

そして事務員ができればいいと思っているようなレベルの低い司法書士に、ITが得意な人が付いてくれるわけがありません。

結果として、デジタルリテラシーの低い事務所は、司法書士の最低限の、基本中の基本の業務すらできなくなる時代がすぐ目の前まで来ています。

もうひとつは、主に一般企業におけるDX(業務のデジタル化と効率化)の現場において、ある意味「失敗の絶対法則」として君臨している(と私が捉えている)「トップがデジタルに対して無知、無理解、無関心の現場では絶対にDXが失敗する」という法則の存在です。

これはとどのつまり、司法書士事務所に当てはめれば、「本職がデジタル化やデジタルスキルの習得に無関心な事務所が、デジタルサービスやシステムを適切に使いこなせるわけがない」ということです。

少なくともこういった事務所は、今後10年で健全な経営はできなくなると思います。

最初に脅しをかけるような話をして申し訳ありません。

ただ、逆を言えば、「少なくともデジタル化に興味がある、アンテナを張る、自分なりに取り入れよう、スキルを身につけよう」という意識さえあれば大丈夫ということでもあります。

理解して欲しいのは、「デジタル他責思考」とも表現できるような考え方を止めよう、そういう事務所は避けよう、という話です。

じゃあどんな事務所がいいの?

端的に言うと、「オンライン申請をしない/できない/やろうとしない」事務所はやめましょう。

先ほども申し上げたとおり、ペーパーレスの電子契約情報や証拠だけで登記を申請したり、訴訟をしなければいけない時代があと10年くらいで到来するからです。

また、トップの司法書士が「俺はできなくても従業員ができればいい」と思っている事務所もあまりよろしくないです。

経営や効率化(つまり職場の環境改善)について、データ化で取り組む気がトップに全くない組織は、絶対にDXがうまくいかないのは火を見るよりあきらかだからです。

とするとつまり、この逆張りでいいのです。

少なくとも「オンライン申請が標準」で、「司法書士全員が事務員ができなくてもオンライン申請が余裕でできて」、「デジタルについて積極的に業務に取りこもう」という意思のある事務所を選べばいいのです。

今後はそういう事務所で無いと、生き残れません。これは「法律に詳しい、適切な法律サービスを提供できる」ということと双璧をなすレベルの、ここ10年で生まれた「司法書士のもうひとつの当たり前」なのです。

どんなデジタルスキル・リテラシーが必要なの?

では、どういうことにアンテナを張ればいいの?と思われる方が大半でしょう。

私がいろんなところで主にお伝えしているのは次の4点です。(オンライン申請するとか、そういうのは当たり前の話で、そこに至るまでの「地力」を付けるという話です)

・「キーボードで文字を入力するのにめんどくささを感じなくなるまで」タイピング速度を上げよう。

・Excelの基本ができるようになろう

・ベンダーソフトに頼り切らない仕組みを作ろう

・データで管理するという意識を持とう

順を追って説明しますね。

「タイピング速度」

具体的に1分に何回キーを叩くとか、何文字打てるとか、そういうのはあまり意味が無いと最近考え始めました。

少なくとも「デジタル化した業務の妨げにならない」という観点で言えば、「キーボードで文字を入力するのにめんどくさいと感じなくなればOK」というのが最適解ではないかと思っています。

これは当然ですが、「キーボードをみないで」「アルファベットだけでなくキーボード最上段の数字記号まで全部」「手元を見ないでサクサク打てるようになる」という意味合いです。

これができるのなら、「キーボードで文字を打つのめんどくさ、手書きの方が楽なのに」という意識が消え、自然とパソコンで事務作業をするという意識が芽生えますし、凡そ手書きよりも早くキーが打てるレベルに自然となっているからです。

なので目安として、「全キーを見ずに軽快に打てる」を目指すと良いでしょう。

なおこれは特に事務職希望の方においては、どの業界に行っても通用するスキルなので身につけておいて損はないです。

「Excel」

司法書士業務においては、Excelを使いこなすと業務効率が爆上がりします。

特に定型の計算ルールや雛形が多い事務作業が累積する仕事なので、Excelを使いこなせる恩恵はどの士業よりも高いかもしれません。

それに司法書士のみならず、一般事務仕事においても、「Excelを使えない職場だと一人が1日かけてやっていた仕事がVBAでマクロを組んで5秒で終わるようになった」ということは珍しい話ではありません。

Excelを使いこなす、というのはここで話すよりも、書店に並んでいる書籍を見て頂ければと思いますが、少なくとも一般事務用途の機能や関数を使えるようになることです。

ですがそれ以上に大事なのは、Excelを軽視せず、それを使えることをしっかり評価できる事務所経営をすること、Excelを使いこなせることを誇れる事務所が増えて欲しいと思います。

司法書士が腹を割って「Excelマスター求む!司法書士本職に教えてくれ!」みたいな求人を出す事務所は、私個人的には最高です。

少なくとも、「Excelで仕事時間短縮すると別の仕事をいっぱいやらされるから嫌だ」と従業員が思ったり、「Excelなんて信用できない電卓でしっかり検算しろ」とか上層部が言うような事務所は、先ほど申し上げた「10年後には健全な経営ができなくなってる事務所」予備軍だと私は思います。

「ベンダーソフトに頼り切らない」

私も使っていますが、司法書士向けの事務作業ソフト(ベンダーソフト)がいくつかありまして、申請書を作ったりするのには大変便利です。

ですがこういったソフトは汎用性を重視していて、先述した「使いこなしているExcel」に比べたら大きく機能が劣りますし、動作も遅いです。(Excelは自分の好みや自分の事務所のルールにあったものを作り出せる、というのが大きな強みです)

なので、何でもかんでも全ての作業をベンダーソフトでやっている事務所は、概ね効率が悪いです。

先ほどのタイピングやExcelに比べたら「レベルの高い」話にはなりますが、なんでもかんでもベンダーソフト任せ、おんぶに抱っこでこれが無いと仕事ができない、という事務所はあまり良い環境だと私は思いません。(決してダメという話では無いです。相対的な話)

大まかな作業や、申請書を作るといった専門的な処理はベンダーソフトで行い、それ以外のこまかな部分はExcelや多様な別ソフト群で補完する、というのが、業務フローがクリアで作業しやすい環境を作りやすいと私は考えています。

「データで管理する」

今後登記の添付情報や、契約書といった事件資料がデータで寄越される時代が来る、と 申し上げました。これはすなわち、事件記録自体をデータで保管しないといけないということであります。データはデータのままでないと、それが有効かどうかの 検証ができないからです。

なので事務記録を紙に印刷して、紙ベースでやりとりするよりも、できるかぎりデータで受け取り、データのまま処理し、データのまま保管するという業務フローを考え備える必要があります。

このあたりの話はかなり専門的なので、興味のある方は個別にお問い合わせ下さい。

今の時点では、すくなくとも「データのまま取り回す」ということを自分なりに考えてみる、というアプローチだけでも良いと思います。いざそのときが来たら、咄嗟に対応できるようになっているだけでも違うと思いますので。

最後に

私はこの分野に関しては結構辛口なことを申し上げるのですが、それはひとえに「デジタル化に遅れた士業団体は存続そのものがあやうい」と考えているからです。

民間がペーパレス、電子契約という方面に走っている現在、我々もそのステージに目を光らせ追いつき、少なくとも自分の周りくらいは整備しないと、最低限の業務すらおぼつかなくなります。

本稿でお伝えしたかったことはたったそれだけです。
多くの方に伝われば幸いです。

【執筆者紹介】

司法書士 久松秀之(久松司法書士事務所)

Twitter
https://twitter.com/Office_Hisamatu

HP
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Youtube(準備中)
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