はじめに
みなさんこんにちは。司法書士受験予備校の講師兼司法書士の海野禎子(うんのさだこ)です。
この度は司法書士JOBサーチさんから原稿依頼を受けまして大変光栄に思っております(のわりには寄稿まで随分時間がかかりまして大変お恥ずかしいです)。
今回は司法書士の受験指導をする講師として、「こんな方にこそ司法書士資格を取得してほしい」というメッセージを発信したいと思います。
第二の人生を司法書士として
「齢80」。多くの方が,自分の人生を振り返り,いわゆる「終活」に関心を持つ年頃ではないかと思います。
しかし,現在の日本は「超」高齢化社会。80歳を過ぎても精力的に社会とつながり,活き活きと毎日を謳歌している高齢者の方も少なくありません。
登山家の三浦雄一郎さんが2013年に世界最高齢で3度目のエベレスト登頂に成功したニュースは記憶に新しいですよね。
医療の技術向上も重なり,80歳と言わずとも,私をはじめとしたいわゆる中高年の方の「残された時間」は一昔前とはだいぶ異なる状況になっております。
私の父(現在77歳)も,地方公務員(高校教師)を退職後,大学の教員を経たのち,70歳を過ぎてから趣味の庭仕事に目覚めました。なんと3年前「庭師」の資格を取り,現在は個人的に請け負った庭師の仕事で,毎日,それはそれは活き活きと仕事をしております。
教師としての父しか知らなかった私としては,庭師として仕事をしているという近況に,正直驚きを隠せませんでした。ですが,最近ひょんなことから,父の庭師としての仕事ぶりを見る機会を得ました。
教師のときとは全く違った顔をして働く父の姿を近くで見ることにより,とても新鮮で,誇らしかったことを覚えております。
話は変わりますが,皆さん,「司法書士」という資格をご存知でしょうか。「不動産の売買や相続の際に不動産の名義を変える専門家」という認識の方も多いと思います。
私は,平成8年,当時大学3年生の時に司法書士試験に1回目の受験で合格し,平成24年から神奈川県横浜市に司法書士事務所を開業している現役の司法書士です。
同時に,平成10年から各種国家試験の合格予備校であるLEC東京リーガルマインドにおいて,司法書士受験対策の講師として,毎年多くの合格者を輩出して来ました。現在も全国に約500人の受講生を相手に年間400コマを超える講義を担当しております。
そんな司法書士受験界で,近年,ある「事件」が起こりました。
平成30年度の司法書士試験において,史上最高齢の合格者が出現したのです。
その方は,御年「80歳」の方です!
それまでの最高齢合格者の方は「73歳」であったことを考えると,かなりの記録更新です。司法書士試験の受験生及び合格者は,年々高年齢化していることは認識しておりましたが,ここまで来たかという感じです。
私が講師を始めた23年前は,受験生の中心は大学生や社会人3年目位までの20代が中心でした。しかし,リーマンショック後あたりから,受験生の年代は年々上がり,私の主観では,平成20年前後には30代が中心に,最近では30代後半~40代が中心になってきたように思います。
司法書士試験は,頭が柔軟な「若者」間で競う試験ではなく,色々なものを抱えて日々奮闘する「中年」世代で競う試験に変化しているのです。
司法書士資格は,「実務家登用試験」と呼ばれるように,他の国家資格と異なり,合格したのち短期間で独立開業することができます。
これは,司法書士試験で問われる知識が,司法書士の現実の実務内容に即した内容になっているため,合格することができたということは,司法書士として世の中に出ても大丈夫だという「お墨付き」を与えられたということを意味するからなのです。
「受験勉強がそのまま実務に活きる。」 これは,他の国家試験ではあまり見られない現象です。さらに,合格後には,充実した新人研修制度が存在します。ここでは,現役の司法書士が,自身の経験に基づいて実務における様々な実例における注意点を教示してくれます。
また,所属する司法書士会によっては,開業したての新人司法書士に対する各種サポートが存在する場合もあることなどが合格後の短期間での独立開業を可能としているのです。
そうは言っても,実際には合格後に,念のため他の司法書士の事務所,又は司法書士法人に就職し,1年から2年間働きながら実務を習得し,独立開業するのが一般的といえます。
ところが,長年司法書士試験の合格者を見てきまして,気づいたことがあります。
それは,中高年の合格者ほど,合格後に「即ドク」(即独立)する方が多いという点です。
若くして司法書士として独立開業する場合,その人脈と試験科目以外の知識・経験のなさが開業後の仕事の幅を狭めてしまうことがあります。その点,社会人として豊富な経験を積み,それに伴い,人脈にも恵まれている中高年者は,そもそも即独立することが可能な資格を得た以上,そう長いこと他人の下で修行することを選ばないようなのです。
私のかつての教え子に,公務員を定年退職後,司法書士試験受験を思い立ち,2回目の受験で合格した方がおります。その方も,「いまさら人の下で働きたくない」とおっしゃって,合格後,即独立し,今はスタッフ10人を超える事務所の代表として活躍されています。
現在,70歳を超えられたでしょうか,たまに法務局などでお会いしますが,顔色はすこぶるよく,エネルギッシュに働くその姿は,とても70歳を過ぎているようには見えません。ご本人も,あと20年は現役を続けるとおっしゃっておりました。
子育てや介護,住宅ローンなど抱えるものが多い世代にとって,受験勉強の結果,やっと資格を取得したのに,そう長いこと修行するのは現実的ではありません。この点,司法書士は合格後短期で独立開業することができることから,社会人として経験値が高い中高年の方が,司法書士を目指すのにはそういった理由があるのでしょう。
また,実務で活躍する現役の司法書士で,最高年齢の方はなんと100歳近くの方もいると聞いたことがあります。100歳になっても働きたくない…,と考える方もいらっしゃるでしょうが,「人生100年時代」といわれる昨今,働く意欲がある以上,活躍できる資格を持っていることは大変心強いことであると思います。
このように,司法書士としての「第二の人生」の賞味期限が長いという点も,司法書士資格の強みだと思います。
司法書士の資格を得るための受験勉強は,全11科目に及び,決して甘いものではありません。多くの受験生が,日々色々なものを犠牲にして,勉強に勤しんでおります。
合格への道のりは,苦しいものとなる方も多いでしょう。ですが,人生100年時代における第二の人生を考えたとき,司法書士資格の価値はとても大きいと考えます。これを読んでくださった方が,司法書士に興味を持っていただけたのなら,とてもうれしく思います。
女性の一生の仕事としての司法書士
現在の日本は,残念ながら働く女性にとって優しい環境とはいえません。
結婚しても,子供がいても,一生仕事を続けていきたい,でも家庭も大事にしたい,という欲張りな女性に,同じく欲張りな私は司法書士の資格をお勧めしたいと思います。
司法書士の資格は,一度取得してしまえば更新無しで一生有効です。例えば,子供が小さい間は勤務司法書士(補助者)として司法書士事務所等で残業無しなどの条件で働き,子供の手が離れた後,司法書士として独立開業する,といった働き方ができます。
また,配偶者の転勤等で住む場所が変わっても,司法書士事務所は日本全国どこにでもありますので,就職先に困ることはありません。会社員のように,勤務している会社に振り回されることなく,自分の考えで自分のキャリアを形成していくことができるのです。
もちろん,司法書士の職責は重く,仕事上の責任はすべて自分で負っていかなければならないという怖さもありますが,自分の采配で仕事を処理し,自らの知識と責任とで仕事をすることができる稀有な資格だと思います。
一人で独立開業すると聴くと,不安になる方もいらっしゃるかと思いますが,何も1人で開業する必要はありません。気の合う合格者複数名と一緒に共同事務所という形にしたり,司法書士法人を設立していくこともできます。
私の同期合格者で,女性だけの共同事務所を立ち上げた司法書士がおります。彼女たちは,互いの結婚・出産をみんなでフォローし合いながら,きめ細かいサービスが定評で,顧客の方からとても好評だと聞いております。
女性だから男性だからという表現は適切ではないかもしれませんが,私も相続や後見のご相談を受けた際,「先生が女性で良かった」と言って頂く機会は本当に多いです。
一度きりの人生,自分で思い描いたとおりに生きていきたいと願うすべての女性に,司法書士の資格を自信をもってお勧めいたします。