目次
はじめに(自己紹介)
東京都某所で開業している司法書士です。(もともとはライノというアカウント名でしたが、ジュラシックパークに再ハマりしてラプトルに変更しました。)
人生、極力目立たないように生きているので匿名で執筆させて頂きます。
当事務所は、私含めて数名の名も無い小さな事務所です。
もうすぐ、開業10年ほどになりますが、今のところ幸いにも、毎年若干の右肩上がりの成長をしています。
さて、ほとんど人通りはなく、駅からもそんなに近くない場所に位置している、全くもって目立たない事務所ですが、おそらく業務内容は結構特殊、というか偏っています。
本コラム執筆時点での、2022年の業務内訳を見ると、商業登記他会社関連が6割程度、不動産登記(ほぼ決済)が3割程度、顧問契約他が1割程度という内訳です。
一見なんの変哲もないのですが、商業に至っては約7割、不動産は約5~6割が外国人や外資系企業の所謂渉外登記です。
渉外登記を積極的に扱っている事務所は多分全国でもそんなに多くはないと思うのですが(特に数えたことはありません)、当事務所ほど渉外案件の比率が高い事務所はあんまりないのかなと、勝手に感じています。
私も他の司法書士に負けず劣らずのコミュ障の自信有りですが、
「英語OKです。外国人・外資系企業ウェルカムです。」
的な感じで名刺配ってたら、業務の特殊性からか、少しずつ認知されて、渉外案件が集まるようになりました。
ただ、司法書士業務全体の中では牌数は少ないので、前述の通り、毎年若干の成長に留まっています。(営業活動をサボっているからでもあります。)
渉外登記ってどんなの?
ほんで渉外渉外言うけど、渉外登記ってなんやねん?って感じなのですが、受験生向けに言うと、「本国官憲の証明ある~」っていう添付書面を付けるような案件のことなのかなと思っています。
当事務所では、日本在住の外国人の方で、会社作りたい、不動産買いたい、でも日本語分からないから英語で対応して欲しい!みたいなお客様もたくさんいらっしゃるのですが、彼・彼女らは手続き的には一般的な日本人の案件と変わらないですね。住民票や印鑑証明書も出るし。
それ以外の、非居住者となると、日本人も含め、住民票や印鑑登録はないし、会社の場合、日本の登記事項証明書みたいなものなんて無い国がほとんどなので、登記法で定められている添付書面の代替となるものが必要で、ほなどうしましょ?というのを考えていきます。
本コラムをご覧頂いた方のために、本国官憲や外国官憲の定義をご説明すると(知ってたらごめんなさい)。
本国官憲とは、国籍国の官憲です。
アメリカ人だったら、アメリカの公証人や在外公館がこれに当たります。
なお、外国法人の場合は設立準拠法国です。
一方、外国官憲とは居住国の官憲なので、イギリス在住のアメリカ人でしたら、イギリスの公証人等が該当します。
しかしながら、不動産登記においては本国官憲と外国官憲の認識に違いはないとされているので、先例等で「外国官憲」って書いてあっても国籍国の官憲で証明書を取ることが原則です。
商業登記の場合は、本国官憲 ≠外国官憲ですが、外国官憲が出てくるのは、取締役会設置会社の役員選任時の本人確認証明書の通達くらいですね。
事務所ではどんなことするの?
基本的な部分は、日本人が当事者である場合と変わりませんが、渉外登記特有の観点が若干あります。慣れれば難しいことではないです。
コミュニケーション
当事務所では英語で行うことが多いです、というか私が日本語と英語しか分からないので、中国語とかスペイン語の仕事は来ないです。
不動産登記は、仲介業者がいますが、直接お客さんとやり取りした方が速く且つ確実なので、売主・買主と直接やり取りすることが多いです。
法人の場合は、そもそも日本にバックオフィスが存在していないことが多いので、外国本社の法務や外部の法律事務所や会計事務所とコミュニケーションを取るケースが多いです。
連絡はほぼ、メールですが、欧米とは結構時差があるので、欧米母体の会社案件がある時は、夕方~夜にかけて連絡がきます。
たまにカンファレンスコール (電話会議)みたいなものもありますが、日本時間の夕方か夜間に設定することが多いので、私自身は昼寝挟んで夕方くらいから少しメール返していくみたいなスタイルで生活しています。
文書の言語
議事録や定款等、作成する書類には全て英訳を付し、日英併記で書類を作っていきます。英訳を別途作る方もいらっしゃいますが、うちでは1つの書類にまとめています。
会社謄本や印鑑証明書は英訳して納品しますが、不動産登記簿の英訳はあんまり実益ないので止めました。
余談ですが、登記原因証明情報とか委任状って言語の指定はないので、日本語訳さえついていれば、全部外国語の文書で問題ないのです。
なお、会社法上の書類は日本語で作ることが想定されているので、日本語でない とダメです(確か・・・)。
外為法
非居住者が当事者になるときは、外為法の規定も確認します。司法書士が手続きしないと、多分他にする人いないので。
非居住者が不動産を購入する行為は外為法の資本取引に該当するので日銀に報告書の提出が必要です。
商業登記の際は、非居住者が日本法人の株式や持分を取得する行為は対内直接投資に該当するので、事前届や事後報告といった手続きが必要となります。
例えば、子会社の設立や、増資、株式譲渡等が該当します。
詳しくは日銀のウェブサイトをご確認ください。
その他
外資系企業はコンプラ意識高いケースが多く、役員任期が来ていなくても、定時総会の手続きや計算書類の公告といった作業をします。
あとは、バックオフィス機能がないので、一部請け負ったり、様々な理由から役員に入ったり(ノミニーといいます)することもあります。
渉外登記におすすめの書籍
商業登記ハンドブック
当然持ってるけどどこが渉外やねん!?と思う方多いでしょうが、外国人が印鑑を届け出る場合や外国法人が合同会社の代表社員となる場合等結構詳しく書いているので、設立と役員変更の箇所は要熟読です。
渉外不動産登記講義
(横山亘 著)
Twitterでも紹介させて頂いたことがありますが、渉外不動産登記のバイブルと言っても過言ではない書籍です。
東京法務局本局の登記官様が登記研究に5号くらいに渡って執筆された際の内容をまとめたもので、渉外不動産登記の考え方がよく分かります。
外国会社と登記
(亀田哲 著)
外国会社の基本書です。外国会社、いわゆる外国法人の日本支店の登記は必ずしも多くありませんが、外国会社に関する商業登記法第129条の考え方は商業登記・不動産登記に深く準用されているので、必読書です。
法務省ウェブサイト・先例・通達
不動産登記については、先例が古く、新しい通達もないので、なかなかスムーズに進められないケースもありますが、商業登記は何年か前にサイン証明書の通達や最近では外国会社の日本における代表者は法人でも良いよみたい通達が出て、法務省も外国人や外資系企業に登記してもらい易いように考えている感じがします。
商業登記に至っては、法務省ウェブサイトに詳しく記載があるので、通達はよく読んで理解しましょう。
不動産登記についても、通達が出て、綺麗に整理されるととてもやりやすくなるんですけどね・・・
最後に
英語等の言語ができないから・・・と敬遠される方が多いのは仕方がないですが、少しでも英語等の外国語を使った仕事がしたい!と思っているのであれば、渉外事務所に飛び込んでみてください。
私自身も、開業当初は平均的な日本人よりは英語喋れたと思いますが、まだまだ分からないことも多く、それでも外国人相手にミーティングを重ね、理解できるまで英文メールを読んだりして、今では外国人相手に英語でセミナーを依頼されるくらいにまでは上達しました(最近は適当に言い訳して断っててごめんなさい)。
ただ、個人的にはあくまで、まず司法書士としての専門知識があって、語学力はその次に来るものだと思っていますので、英語が喋れる「だけ」の司法書士にはならないようにまずは実務力を磨いてくださいね。
もし、求職者のみなさんが渉外登記に興味をもって、外国人相手に英語を使った仕事がしたい!と思ってもらえたなら、ぜひとも将来採用予定の当事務所の求人にご応募ください(匿名だけど)。
でも、もしこの事務所がラプトル事務所じゃないのか??と思っても、そっとしといてもらえると嬉しいです。
それでは、長々と駄文を失礼しましたが、渉外登記で困ったことがあったらJOBサーチのコラム見ました!とTwitterでDM頂ければ、回答するかもしれません(しないかもしれません)。