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司法書士のキャリアデザインについて ~東京(大規模法人)、離島(小規模事務所)を経て独立した私の経験から~

司法書士業界で働く方や独立を目指す方々にとって、キャリア構築は必要不可欠な要素です。

かつて、司法書士としてのオーソドックスなスタイルは「1人のボスがいる事務所で数年間修行をし、その後独立開業して2.3人程度のパートさんを雇用し事務所を経営する」というものでした。

しかし、昨今では、独立することなく複数人の司法書士で司法書士法人を立上げ多くの使用人司法書士や正社員を抱えて経営するスタイル、他の先生と共同で事務所を経営するスタイル、自宅やシェアオフィスを事務所とし完全に自分1人で経営するスタイルなど、様々なスタイルの司法書士がいます。

このような多様な経営スタイルがあることを理解し、最終的にどのようなスタイルになりたいのかを意識しつつ、自分にあったキャリアパスを選ぶことが大切です。

そこで、本コラムでは、いくつかのスタイルの司法書士事務所で勤務した後に独立した経験をもとに、そこでの取り組みや得てきたものを紹介します。

ごあいさつ 

皆様はじめまして、大阪の長居公園のほど近くで事務所を開業しております石本憲史(いしもと・けんじ)と申します。
かくいう私は、現在自宅とは別で事務所を構えてはいるものの、パートさんを雇用せず自分1人で事務所を営んでいます。

平成24年に司法書士試験に合格し、今年で10年になります。大学卒業とともにこの業界に入りましたので、恥ずかしながら、民間企業での社会人経験などは一切ありません。

「司法書士業界のみでの社会人経験しかない司法書士」です。

大学卒業後すぐこの業界に入った私は、民間企業での社会人経験がないというコンプレックスからか、様々な経験を求め比較的特殊なキャリアを選択してきました。

そこで、これまで選択してきたキャリアを振り返りつつ、そこでの取り組みや得てきたものをお伝えいたします。
司法書士業界に興味がある方や、すでに働いている方にとって、このコラムが少しでもお役に立てば幸いです。

これまでについて

さて、これまでのキャリアを述べる前に、そもそもなぜ司法書士を志したのかについて少しだけお話しします。

なぜ司法書士になったのか

私は、就職活動というものがとんでもなくイヤでした。

みんなと同じような黒髪にしてみんなと同じように黒のスーツを着て、みんなと同じように合同説明会に参加する。
そして、面接では、その日初めて会う人に「自分という人間の社会的価値」を値踏みされる。

面接までの過程では同じような姿形であることを求められるのに、面接の段階まで進むと、突然その中で差別化を求められる。
今考えると、当たり前のことなのですが、どうしてもそれに抗いたかったのです。

そこで、私は資格を取得して社会に出ることを考えました。
また、高知県という地方都市の出身でしたので、

「資格を取れば最終的に地元で開業することもできるのではないか?」

という考えもありました。

資格を得てから社会に出ることを決めた私は、まず、どの資格試験に挑戦するかの検討を始めました。

数学に苦手意識があったことから、なんとなく数学が得意でないと仕事で苦労しそうな税理士・公認会計士は候補から外れました。

小さい頃から法律資格への憧れがありましたので、目指す資格は、弁護士・司法書士・行政書士の三択に絞られました(誠にお恥ずかしいのですが、当時は社会保険労務士・弁理士・不動産鑑定士・土地家屋調査士などといった資格は存じ上げず、選択候補には入りませんでした..)。

もともと争いごとが苦手な性分だったので、交渉事や裁判をその本分とする弁護士はやめておこうということに。

そして 「行政書士として独立開業してやっていくには、とんでもない営業力が必要だよ」というまことしやかな噂をどこからともなく耳にして、行政書士を目指すこともやめました。結果として選択したのが、司法書士でした。

よりくわしく調べてみると、合格率も3%と低く、こんな狭き門の試験に合格できたら自分でもなんとか食べていけるのではないかと思ったのです。

大学2年生の夏に勉強をはじめ、それ以降の大学生活のおよそ全てを試験に捧げ、運良く大学を卒業した年の司法書士試験に合格することができました。

司法書士法人での勤務時代

司法書士資格を得た私は、最初に大学のゼミの先輩の紹介で、都内の比較的大きな司法書士法人に入所しました。

今風に言うと、リファーラル採用とでもいいましょうか。
そこは、以前、その先輩が勤務していた法人でした。

ファーストキャリアの選択にあたり、私は、大規模法人をいくつか見学しました。
給与や福利厚生が個人事務所より良いことが多いという情報を耳にし、それに釣られたのも事実です。

しかし、それ以上に、様々な人達や様々な司法書士とともに働いてみたかったということが大きかったです。

それまでは、アルバイトでファミリーレストランのウェイターとしてしか働いたことのなかった私にとっては、入所する事務所が「はじめての社会」でした。

そこで、代表司法書士のみや、代表に加えて事務員さん1人だけのような事務所に入ると、見て学べるスキルの量がどうしても少なくなってしまうのではないかという懸念があったのです。

社会人経験のない私は、やはり仕事で現場に出てからは、知らないことばかりに直面しました。

名刺交換の仕方やメールのマナーなど、試験には出てこないけれども社会人として当たり前に身につけておくべき「常識」は世の中にたくさんあります。

色々な考え方がありますが、私は初めて入った事務所が比較的大きな法人で良かったと思っています。

というのも、様々なバックグランドをお持ちの先輩方が(司法書士に限りません)、何人も所内にいらっしゃったからです。

「この人のこうゆうところは素晴らしいな、マネしてみよう」と思える方が、何人も同じ職場にいらしたのはすごく良かったです。

その法人で2年ほど勤めたころ、これから先の司法書士人生について思い悩むようになりました。

もともと、地元での独立開業も念頭に置いて取得した資格でしたので、このまま東京で働き続けることに少し違和感を覚え始めたのです。

そこで、地元である高知へUターンして司法書士事務所に勤めることを検討しはじめました。

しかし、いくつかの事務所に尋ねてみても「高知帰ってくるなら独立しいや。」という回答ばかりで、勤務司法書士として働けそうな事務所は見つけられませんでした。

まだ、司法書士として働き始めて2年ほどで、このタイミングで地元に戻り独立開業する勇気もなく、そのまま半年ほど悶々とした日々を過ごしていました。

そうしたところ、ある日、Twitterのとある先生のリツイートで、とある離島の司法書士事務所が勤務司法書士を募集しているページを発見しました。

私はそのページを見た瞬間に
「これだ!!!」と感じました。

その日のうちにHPから問い合わせをしました。
その後、トントン拍子に話は進んでいき、当時は一般的ではなかったTV電話での面接を経て、無事、私は離島の司法書士事務所に内定しました。

当時、友人などから「なんでいきなり離島?」「縁もゆかりもないところなんて絶対しんどいよ?」と言われることもありました。

しかし、私自身直感的に強烈に面白そうだと思ったため「今この選択をしなければ絶対に後悔する」という確信めいた気持ちがありました。

そのため、他の人に何と言われようがその気持ちが揺らぐことはありませんでした。

ちなみに、両親に言うと絶対反対されることは分かっていましたので、内定まで出て全てが確定した後、事後報告しました(笑)。

最初報告した時は、かなりビックリしていましたが、特にとめられることはありませんでした。

私が親なら同じように対応できる自信は正直ありません。私の決断を寛容に受け入れてくれた両親には、とても感謝しています。

離島での勤務時代

私は、当時幸いにもまだ26歳と若く、冒険ができる年齢でした。

東京で働いている時にも「ライセンスがあるということは、日本全国どこでも働けるはずなのになぜ自分は東京に縛られているのだろう?」と感じていました。

当たり前ですが、「日本全国適用される法律は同じ」です。

しかし、このことを肌身で感じられている司法書士はそんなにいないのではないのでしょうか?

私は、離島での勤務経験を通し、そのことをまさに肌をもって感じることができました。

また、離島で勤務していた事務所は、代表司法書士1名とパートさん3名ほどの比較的小さな事務所でしたので、ボスの背中から多くのことを学ぶことができました。

細かなところで言えば条文の引き方から文章作法、大きなところで言えば、どのようにお客様と関係を構築しお仕事をいただくかということや、そもそもどのようなスタンスで仕事やお客様と向き合うのか、といったことです。

大きな事務所では、組織の権限分掌や役割分担が進んでいますので、個別のことは学べても、事件処理や実務知識など以外の営業や経営については、なかなか自分の独立に直結するような内容を学ぶことは難しいかもしれません。

しかし、小規模の事務所では、ボスとの距離が近いので、ボスから薫陶を受けることができます。

司法書士業界の中で、自分で事務所を立上げ現在まで事務所を維持しているそんなボスの背中から学ぶことは非常に多かったです。

独立後

結果的に、私は、離島での勤務を経て、妻の生家のある大阪で独立開業することになりました。

学生時代は東京で過ごしましたので、大阪は住むのも初めての土地でした。

しかし、縁もゆかりもない離島で勤務した経験が「あそこで司法書士として頑張れたのだから大阪でもなんとかなるだろう。」という根拠のない自信を、私に与えてくれました。

もちろん、独立後も辛いことや苦しいことはありましたが、それ以上に「自分でやりたいことを自分のやりたいようにできる」という幸せのほうが大きく、日々楽しくお仕事させていただいています。

また、独立後に専門としている商業登記分野についても、なにか商業登記専門の事務所で勤めた経験があるわけではありません。

しかし、大規模法人勤めや離島勤務で学んだ実務経験や執務姿勢があれば、たとえその分野の専門事務所での経験がなくとも「独立後に自分自身の興味ある分野をその専門として事務所を営んでいくことも可能である」と強く実感しています。

これから

私は、結果的に縁もゆかりもない地である大阪で独立開業しました。

受験生の時に描いていた自分の理想の姿とは、いま現在の私の姿はかけ離れているかもしれません。

しかし、今とても幸せです。自分の学びたいと思う内容を学び、自分がこの人のために頑張りたいと思う人達のために頑張れています。

私たち士業は、1自営業者・1事業者でありながら「公益的な存在」でもあります。

これまで先輩方が積み重ねてきた信頼の上に業務を行っている。この事実は、決して忘れてはならないと思います。

ただ、私は「士業ももう少しワガママになっても良いのではないか?」と思います。士業が士業らしく振る舞おうとすればするほど、市民の方々から話しやすい士業になるという目標からは離れてしまうのではないでしょうか。

もちろん、士業としてプライドを持った仕事をするのは大事ですが、「新しい士業のあり方」というのも、私は追い求めていきたいと思っています。

さいごに

少し長くなりましたが、私のこれまでの取り組みやそこで得てきたものなどをお伝えいたしました。

今までの全ての経験が、今の私の糧になっています。
 
最後にみなさんに1つだけお願いしたいのは、「自分のワクワクを大事にして欲しい」ということです。

「事務所の紹介HPを見てワクワクした。でも、今住んでいるところから離れているし..」「代表と話してみるとすごくワクワクした、でも条件面とかを見るとちょっと..」というだけで断念するのは勿体ないのではないでしょうか。

もちろん、ご家族のある方は自分の気持ちだけで住む場所を決めることはできないでしょうし、給与などの条件面についてもきちんと精査すべきでしょう。

しかし、みなさんがどこかの事務所の情報に触れて、もしワクワクを感じたのであれば、それは間違いなく「その事務所には、みなさんの心に刺さる何かがある」ということだと思います。
 
もう一度いいますが、条件面や福利厚生を比較・検討することはもちろん大事です。
しかし、私個人としては、同じくらい「自分自身のワクワクする気持ち」も尊重してもらいたいと思います。

よくいう話ですが、やらなかった後悔は仮にやった結果失敗して生じる後悔よりも深く心に残ります。

私自身は、「自分自身が感じたワクワク」というものを大事にして行動して、いま後悔なく過ごせています。

司法書士JOBサーチには、たくさんの事務所が登録されています。
事務所紹介だけで分からなければ、事務所HPを見てください。

もっと知りたいと思ったら、HPからでもTwitterなどのSNSからでも、直接問い合わせされてみてはいかがでしょうか。礼儀正しく熱い思いを伝えれば、無下にされるようなことはないはずです。

みなさんが後悔のない司法書士ライフを過ごされることを心よりお祈りしております。

そして、私は1人でもこれから出会う方々に「ここで働いてみたい」「この人と働いてみたい」と、ワクワクしてもらえるような事務所を作り、お客様にも「この人に依頼したい」と思っていただける司法書士になれるよう日々過ごしていきたいと思います。

【執筆者紹介】

いしもと司法書士事務所
司法書士 石本憲史

1989年高知県高知市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。大学卒業と同時に司法書士資格を取得。都内の司法書士法人に就職し約4年間勤務。
主に、不動産取引・相続に関する業務の経験を積む。
その後、司法過疎地と呼ばれる離島の司法書士事務所に約5年間勤務。登記業務のみならず、総合的な経験を積む。
2021年1月大阪にて独立開業。2022年4月に長居に事務所を移転。

独立後は、登記を通じたスタートアップ支援を専門として、商業登記特化型の司法書士事務所を営んでいる。
執筆実績:スタートアップ支援業務の教科書(共著、Kindle)

HP:https://www.ishimoto-legal.com/

Twitter :https://twitter.com/ishimoto_legal

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Instagram:https://www.instagram.com/ishimoto.legal/

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