はじめに
仲良くしている司法書士の佐藤さんからコラムの執筆依頼をいただきました。
依頼内容は「働く司法書士のための障害年金の基礎知識」について教えて欲しいということでしたので、次の内容を書きました。
② そして障害年金は、従業員司法書士も事業主司法書士も使える。
ご参照ください。
障害年金の種類
就労していると、病気やケガ、障害を抱えてしまった際に、今後も働き続けることはできるのだろうか。
なんらかの社会保障がないだろうかと不安になる場合があります。
このように、病気やケガ、障害によって日常生活や仕事などが制限されるようになった場合、現役世代の方も含めて受け取ることができる公的年金として、障害年金という制度があります。
障害年金には、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があります。
まず、障害年金の申請においては「初診日」という言葉が必ず出てきます。
「初診日」とは、病気やケガで初めて医師の診察を受けた日をいい、確定診断を受けた日ではありません。
なぜ障害年金の請求に「初診日」が重要かというと、「初診日」に加入していた年金制度によって、請求できる障害年金の種類が変わってくるからです。
たとえば、初診日当時に自営業や主婦、アルバイトの方で「国民年金」に加入していた場合は「障害基礎年金」、初診日当時に会社員や法人の代表者などで厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」を請求できます。
障害基礎年金は、1級、2級まであります。
障害厚生年金は、1級、2級、3級まであります。
なお、障害厚生年金に該当する状態よりも軽い障害が残ったときは、障害手当金(一時金)を受け取ることができる制度があります。ちなみに身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳、療育手帳の等級と障害年金は、まったく別の制度ですので、障害等級はほとんどリンクしておりません。
心臓にペースメーカーを装着している人は、身体障害者手帳では1級に該当しますが、障害年金では3級相当に該当します。
加えて、障害年金を請求するにあたっては、初診日までにおける年金保険料の納付要件を満たす必要があります。保険料の納付要件には、直近1年要件と全体の3分の2要件があります。
全体の3分の2要件とは、初診日の前日において、初診日がある月の2か月前までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間を含む)と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あることが必要です。
上記いずれかの保険料納付要件を満たしていないと、障害年金は請求できません。
障害年金の対象となる傷病
障害年金を受給できるには、身体に障害を持っている人を想像することが多いようですが、実際のところ、うつ病や双極性障害、統合失調症、発達障害、知的障害といった精神障害を理由に、障害年金を受給している方が一番多いです。
他にも糖尿病が悪化して、腎不全からの人工透析を受けるようになった人や、癌、アルツハイマー病、交通事故による高次脳機能障害、脳血管疾患からの後遺症で肢体麻痺になった場合など、様々な病気やケガ、障害により、障害年金を受給することができます。
ほとんどの傷病が障害年金の対象となります。しかし、ある特定の病気と診断されたら、障害年金を受給できると考えている方も多いようですが、障害年金は傷病名で受給できるわけではありません。
あくまで、障害の程度が一定の基準以上にあって、日常生活能力や労働能力の程度によって認定されます。
例えば、癌と診断されただけでは、障害年金を受給することはできません。
癌の手術や抗癌剤治療、放射線療法などによる後遺症などが原因で、日常生活能力や就労するにあたって、どの程度の支障が出ているかによって受給できるかどうか判断されます。
このように、社会保障制度としては、非常に心強い制度ですが、請求手続きが非常に難しい制度でもあります。
障害年金と就労の関係について
障害年金の相談現場では、「現在働いているが、就労していたら障害年金を受給することはできないのですか?」と質問されます。
障害年金は働いているから受給できないわけでは決してありません。
障害年金はあくまで、障害の程度が一定の基準以上にあって、日常生活能力や労働能力の程度によって認定されます。
では、「日常生活能力や労働能力の程度」とはいったいどういうことなのか?
今回のコラムでは、障害年金の受給者の中でも一番多い「精神障害」の方の就労との関係について解説していきます。
労働は、多種多様であり、障害認定における「労働能力」とは、一般的な労働能力を指すものと考えられます。
社会の労働を「できる労働」と「できない労働」に分けて考えたとき、
「できない労働」が多くなるにつれて「労働に制限」→「労働に著しい制限」→「労務不能」というロジックが成り立ちます。
たとえば、うつ病等の精神障害のある方が、「座業はできるが、重労働は困難」と診断された場合、「労働に制限」または「労働に著しい制限」と判断することができます。
障害年金は社会保障制度の一つであり、所得保障をもって生活の安定を支える「共助」に位置づけられます。労働制限に対して障害年金が支給されるということは、「労働制限=所得の減少」であり、その所得減少分を年金給付でカバーするということです。
労務不能となれば、稼得能力の喪失であり、当然、障害年金がその所得を保障することになります。
障害年金制度における「労働能力」とは「一般的な稼得能力」を指しているといえます。
特に就労との関係が問題になる事が多い精神障害について、障害年金認定基準では、次のように判定方法が定められています。(障害認定基準 第8節「精神の障害」より)
では、実際のところ、精神障害の方の労働能力について、障害年金の等級に当てはめてみるとどうなるのか、一つの目安です。
障害年金1級:労働能力が完全に喪失している
障害年金2級:労働が困難な状態である(一般就労が困難)
障害年金3級:労働に制限あり
障害年金3級における「労働に制限あり」とは、軽微な労働、制限付きの労働に限られるというイメージです。
続いて、障害年金2級における「労働が困難な状態である(一般就労が困難)」とは、何をもって一般就労が困難な状態であるのか、少しでも就労できていたらダメなのかというと、決してそうではありません。
職場での声掛けや見守り体制、相談体制などがしっかりしているかなど、配慮がある職場環境下であるからこそ、継続して就労することが可能な場合も多いのです。
逆にいうと、配慮がない職場環境下においては、自力では一般就労が難しいといえます。
あくまで、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思の疎通の状況等を十分確認したうえでの判断となります。
したがって、「働いているから必ずしも障害年金を受給することができない」というわけではありません。
うつ病などの精神障害であっても、障害年金を受給しながらでも、働き続けることは可能なのです。
また、障害年金については、その制度自体を意外にも知られていなかったりします。
障害年金の請求については社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。