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えっ!司法書士資格の将来性に不安がある?

私の社会人としてのキャリアは、司法書士の資格に対して、可能性を追求した歴史といえます。
今となっては、事業承継や廃業あたりを主とした経営コンサルティング業務に特化し、登記については1年間で1件も申請していません。

なのに、司法書士登録は継続しているので、毎月2万円以上の会費を納めています。
そろそろ登録をやめてもいいのかもしれませんが、司法書士会への寄付は続けています。
(誰からも感謝してもらえません……)

そんな私は、事業承継デザイナーの肩書を名乗っている奥村聡と申します。
これまでのキャリアと司法書士の資格について思うところを語らせていただきます。

はじまりは、クレサラで濡れ手に粟

私は2003年に司法書士事務所を開業しました。
当時の司法書士の仕事はまだ、“ほぼ登記だけ”という時代でした。

仕事の発生源は不動産業者と金融機関です。
司法書士はその仕事だけで十分食べていられたことも意味しています。

でも私は、そこに浸ることを恐れました。
基本的にビビりです。自分の営業力や馬力にはまったく自信がありません。

そんな私が生き残るためには「とにかく他の事務所との差別化をしなければいけない」と思い込んでいました。

他の人にはできない仕事はないか。他の人が気づいていないやり方はないか。いつも焦り、狂ったように探していました。
本当にありとあらゆるものに手を出したと思います。

まだほとんどの士業事務所がホームページを持っていない時代、私は先駆け的にそれを作りました。

開業当時、仕事を取るための方法を先輩の司法書士に質問したら
「不動産業者や金融機関の担当者と飲みに行けばいいだけ」とアドバイスをもらいました。

でも私は酒を飲めないうえに、接待飲みなんて大嫌いです。
そこで苦し紛れにホームページを作ってみたら、これがヒット。金脈を掘り当てました。

消費者金融等による多重債務者が、水面下にものすごくたくさん存在していたのです。
後にクレサラ問題として大きく取り上げられる現象です。

なにげなくホームページを作ったら、意図せず、過払い金の請求や自己破産書類の作成の依頼がバンバン流れ込んできました。

おかげで、お金は稼がせていただけたのですが、またすぐに不安になりました。
こんなおいしい商売が長く続くはずがありません。

また、開業したての若造の自分が、濡れ手に粟で利益を得ることに対する罪悪感のようなものもあった気がします。そこで、

「人をどんどん雇用して大きな事務所を作って社会貢献をしよう」
「債務整理以外の収益の柱を何本も作ろう」。

こんな方向を目指して進んでいくことにしました。

ストレスMAXで事務所を譲渡 

この判断が、自分の首を絞めることになりました。
事務所が大きくなるにつれて、ミスは増えるし、利益率は悪くなっていきました。

私の役割は現場から離れて、マネージメント業ばかりをするようになっていました。
こういえば聞こえはいいかもしれませんが、結局やっていたことは、ミスのフォローとクレーム処理ばかり。

強いストレスを抱えるようになり、「自分がやりたかったのはこんなことじゃない」と、後悔をする日々を過ごしました。

思えば、人や組織を育てることに志があったわけではありません。
自分の性格にも全然向いてもいません。
ただ見栄で、大きな事務所を作りたかっただけでした。

結局、事務所を他の大手グループに事業譲渡させていただき、私は一人になって出直すことになりました。

運よくリセットすることができました。その後は、中小企業の仕事をしたいと思い、紆余曲折ありながらも事業承継の分野に乗り出すことになりました。

ありがたいことに、本を出したり、NHKに出させていただいたこともありました。
受信料を払っていてよかったです。

定型業務を超えるために

私はいつも、司法書士の資格を活用して「新しいサービスを作れないか?」ばかり考えていた気がします。かつて、うちの事務所では「相続手続全般のおまかせサービス」を確立できました。

今となっては目新しさがないかもしれませんが、当時としては革新的なサービスだったと思います。
これもそんな姿勢が生んだ成果でした。

もちろん、チャレンジのすべてが成功することはなく、失敗のほうがはるかにたくさんあったのが現実です。私が新しいサービスを作るパターンを公開しましょう。

たとえば、会社分割の登記の話がやってきたとします。
もちろん登記の仕事はちゃんとこなすのですが、同時に「会社分割を使って何かできない?」「会社分割が求められる場面はどこ?」と考えます。

で、そんなアンテナを張って生活していると、アイデアが降ってくることがあります。

「親父がさぁ、引退したいから早く社長になれって迫るんだよ。でも俺、小売部門しかわかんないから、貿易部門まで面倒見たくないんだよねぇ」

こんな会社のあとつぎ息子のふと漏らした声を聞いたら、私には「ピン!」とくるわけです。

「会社分割を使って。会社の継ぎたい部分だけを継げるようにするサービスが作れる!」と。

あとはサービスの内容を整えて、告知するだけ。
このとき、登記の報酬だけでなく、コンサルティング部分の価値を堂々と請求させていただくことが大切ですね。

こんな要領で、会社分割が活躍する場面を広げていきます。
同様に、会社分割以外のネタでもサービスを増やしていきます。

場数を踏めば、顧客となる会社や社長のことがよく理解できます。
こうなればどんな相談がきても怖くありません。

私はこうして、事業承継などの分野を開拓しました。
会社をたたむ指導をすれば、M&Aで売却するときもあります。
社内での承継策を講じることもあれば 、社長の相続対策を担うときもあります。

社長に“よき社長のおわり”を迎えてもらうことを、私が仕事で貢献しなければいけない使命に設定しています。

やっぱり司法書士資格はありがたい

技の提供できっかけをつくり、そこからグイっと顧客に向かって踏み込んだ感じです。
事業承継に限らず、こんな「踏み込んでいける隙間」は、まだまだいたるところに眠っているはずです。

顧客に向かって踏み込んでいったその先に、何が待っているでしょうか?

自分だけの仕事のスタイルがあります。独自な存在になれます。想像したらワクワクしませんか?

司法書士の資格は、こんな未来を拓いてくれる鍵になり得ます。

「この資格で食べていけるの?」という不安は、痛いほどわかります。
私もずっとこの不安を抱え、いつも焦っていました。(今も不安や焦りが、完全になくなったわけではありませんが)

世の中は変わっていきます。資格の効用だって変わります。
こればっかりは、私たちにはどうしようもありません。

であれば、変化があることを前提として受け入れてしまってはどうでしょうか。
そして、資格とのかかわり方を変えてみましょう。
環境は変えられないけれど、自分を変えることはできる、というやつです。

資格に食べさせてもらうのではなく、資格を活用してみる。こんな姿勢の変化が、あなたの未来を変える気がしてなりません。

ふりかえると、活用するための資格として、司法書士はすごくありがたい資格でした。
接することができる場面が広く、たくさんありました。

手続という、ゴールに向かって事を運ぶ術を身体で学べました。信用だってあります。よその方から見たら、のどから手が出るほど欲しい独占業務だってあるのです。

ここまでお膳立てしてもらったら、もうやるしかないですね!

【執筆者紹介】

奥村 聡(事業承継デザイナー・司法書士)
ホームページはこちら

【プロフィール】
事業承継や廃業、M&A,資金繰りの危機、社長の相続対策など『中小企業の着地』を実現するコンサルタント。支援実績は、北海道から沖縄まで1000件を超える。
NHKスペシャル『大廃業時代』では、“会社を看取るおくりびと”として、会社と社長の終末を支援する活動が取り上げられた。社長に寄り添い、安心と納得のゴールを創造することを使命とする。
著書に『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?(翔泳社)』や『0円で会社を買って、死ぬまで年収1000万円(光文社新書)』等。

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