目次
はじめに
皆さま初めまして、東京都墨田区で開業して約3年になる司法書士の富山です。
平成27年度の司法書士試験に合格し、都内の司法書士法人(三為売買を中心とする決済事務所)で2年ほど猛烈に働き 、その後3年半ほど東京都千代田区の法律事務所で働きました。その勤務経歴から、司法書士の勤務形態の一つとして、法律事務所に司法書士として籍を置くことについてのコラムを依頼されました。このような機会をいただき、ありがとうございます。
さて、東京にはいわゆる四大法律事務所や五大法律事務所と呼ばれるような事務所をはじめとする、弁護士の先生だけで何十名もおられるような大規模な事務所が複数あり、そのような事務所には、司法書士などの隣接士業もその資格者だけで複数名在籍していることが珍しくありません。
「法律事務所の司法書士という働き方」というタイトルからこのような大規模事務所での勤務をイメージされた方がいらっしゃいましたら申し訳ございません。私が働いていた事務所は弁護士2名・事務員1名、そして司法書士の私、という事務所のため、そのような大規模事務所とは事情が異なるかもしれません。
また、おかげさまで私も開業から3年を迎えることができましたので、この勤務経験も3年以上前のこととなりますので、もしかすると若干タイムリーではないかもしれません。これらの点につき、あらかじめご容赦くださいませ。
先述のとおり、私の在籍していた法律事務所は少人数の個人事務所、いわゆる街弁事務所というようなところで、扱う事件も企業関連から相続・後見、刑事まで多岐にわたっていました。
これらの事件に関連して登記・供託を要する場面も少なからず存在し、それらについては私が取り扱う、ということになっていました。弁護士の先生方も、「登記のことは初めから丸ごと富山さんに任せます」というスタンスでしたので、私自身も意気に感じ、大きく成長させていただき感謝しています。
では、以下に業務分野ごとの私の経験談を簡単にご紹介させていただきます。
登記業務
まずは、登記です。事務所で扱う案件や顧問先等で登記が必要となることが比較的多い、ということで事務所に迎えられているため、それなりに多くの登記に触れることができたと思います。
不動産登記
- ア いわゆる決済業務
意外に思われるかもしれませんが、私は法律事務所在籍時にも継続的に決済業務を行っていました。
ただ、これは事務所の顧問先に不動産仲介の会社が数社あったためだと思われます。
もちろん顧問先企業等の不動産売買等の際に私が登記手続きを行うこともありました。 - イ 裁判による登記
法律事務所ということで、不動産関係の訴訟や家事調停・審判で不動産の帰属を定めることも多々あります。その際に必要となる登記も扱いました。
このような案件では訴訟段階から弁護士に呼ばれ、依頼者や相手方の弁護士との打ち合わせに同席することや期日の際に裁判所へ同行し、登記に関する内容につき、期日後弁護士とともに書記官と協議することもありました。
このように、裁判に関する登記について、訴訟等の段階から関与しやすいのは法律事務所の中にいるからこそともいえるかもしれません。 - ウ その他の登記
その他、個人間の売買や通常の相続登記なども取り扱いがありました。
少し変わったところとしては代物弁済の登記などでしょうか。
第三者による弁済で、かつ不動産を代物弁済に供する、というのは実務では今後もなかなかお目にかからないかなぁ、と思っています。
商業登記
不動産登記についていろいろと書きましたが、件数として一番多かったのはやはり商業・法人登記だったろうと思います。株式会社や合同会社の設立から役員・目的等の変更登記、本店移転、解散、清算結了、会社継続と一通りの登記を扱いました。
ボスと付き合いのある行政書士の先生がいらっしゃり、その先生が定款認証を行った会社の設立登記を私の方で行うということがかなりありました。
手続き自体はシンプルな株式譲渡・役員変更でも、担保権の実行的に株式を譲渡して役員の総入れ替え行う(旧役員全員からは辞任届を取付ける:「全員が揃うのはこの1回しかないから必要な書類等は全部ここで取り切ってください」と念押される。)、といったような、会社登記であっても当事者間の利害が鋭く対立するような登記を扱うこともありました。
動産・債権登記
また、集合動産譲渡担保等による動産・債権譲渡登記も件数こそ多くはありませんでしたが、取り扱うことがありました。
供託業務
法律事務所在籍時には弁済供託に関する手続きに携わることもありました。
幸いにも供託の還付請求、供託申請それぞれ行うことができました。
ただ、ある法務局の窓口へ手続きのために行き、委任状を提示したところ、「弁護士の方ですか?」と言われてしまったので、もちろん地域によるのだろうとは思いますが、まだまだ司法書士が供託を行う機会が少ないのだろうなぁ、と感じた記憶があります。
刑事事件において被害弁償を行う際にその受取りを拒絶されたことから受領拒否を理由とする弁済供託を行った時には、こういう供託の使い方もあるんだなぁ、ともっぱら民事のみを扱っている私には新鮮でした。
裁判業務
事務所全体としてはもちろん裁判関係の業務が登記よりはるかに多くなります。
私は簡裁代理権を持っていましたので、弁護士と共同で簡裁事件の訴訟代理人になることも含め、様々な裁判業務に触れることができました。
簡裁訴訟ほか
上述のように簡裁民事訴訟について私も訴訟代理人となることがありました。
その際に私が訴状等を起案することももちろんありました。このような場合、登記申請書を事務所の他のスタッフのチェックにかけるのと同じように、私の作成した訴訟書類も事務所の弁護士のチェックが入ることになります。
ここが大きなポイントだと思っているのですが、自分の作った訴状等を弁護士に細かくチェックしてもらい、指摘を受けられるという機会はそうないため、ここで裁判書類の作り方をある程度身につけることができたと思っています。 現在も件数こそそう多くありませんが、裁判書類の作成等を行う際も、補正や訂正の指示を受けることがほぼありません。
弁護士と共同で原告代理人となって簡裁に提訴した事件で、被告も代理人弁護士を付けた事件があり、初回の口頭弁論期日であっさり地裁への移送が決まり、私だけ代理人を外れる、というちょっぴり寂しい経験もありますが笑。
また、地裁等の案件でも、事案によっては訴状等の文案作成を任されることもありました。
書類作成
その他の裁判所提出書類を作成する機会も多々ありました。
- ア 執行
執行については強制執行、担保権実行を問わず申立書の作成等を行いました。
強制執行では不動産競売も債権差押もそれぞれ申立書の作成を行い、これは司法書士では関係ありませんが、金融機関への弁護士会照会(弁護士法23条の2による照会)の手続き書類の文面作成などもあわせて行いました。
担保権の実行では抵当権の実行による不動産競売はもちろんのこと、特別法による先取特権の実行なども行いました。
また、執行証書による公証役場での送達証明書等の取得手続きも扱いました。 - イ 家事
家事関係では相続放棄申述書や放棄申述の有無の照会書、後見開始申立書の作成などを任される こともありました。
その他 (パラリーガル業務)
その他、事務員の方といわゆるパラリーガル業務を分担して行いました。
弁護士の作成した訴訟書類等の校正作業や裁判所への書類の提出・受領などを行い、特に裁判所へのおつかいは積極的に出かけました笑。
おかげで、訴訟の際の一連の手続きの流れ(訴状提出~確定証明書の取得)を体得できたと思っています。また、弁護士の先生の作成した訴訟書類を隅々まで読み込むことは大変勉強になったと感じています。
その他(個人事件、会務)
最後に、事務所の仕事を離れて個人の活動等についても簡単に触れておきます。
法律事務所だから、というわけではないかとも思いますが、私が在籍していた事務所では個人受託が許されていましたので、個人でも訴訟や登記の仕事を受けていました。この場合は事務所の機器等を使用させてもらっていることから報酬のうちあらかじめ決められている割合を事務所に納めます。
また、事務所の営業時間外ということもあり、研修をはじめとする司法書士会の活動にも参加ができました。支部での勉強会に参加したことをきっかけに支部総会などに出席するようになり、いつの間にか支部の委員に入るまでになっていました笑。
終わりに
以上のように3年半ほどの法律事務所在籍で登記・供託・裁判について各分野まんべんなく業務経験を積むことができました。また、個人で案件を獲得することも可能でしたので、最終的に独立を視野に入れている方の勤務形態の一つの選択肢として、法律事務所で働く、というのも非常に有用ではないかと思います。
しかし、私の場合がそうであったように、事務所内に他の司法書士がいなかったり、登記のことを一通り任せたいから採用している、という事務所側の事情もあるかと思いますので、未経験でいきなりというのは苦労するかもしれません。
そのため、司法書士事務所で、なんらか実務経験を積んだうえで、キャリアアップのために、事務所の移籍を考えている先生方にこそ魅力的な選択肢ではないかと思います。
このコラムが司法書士の先生方や受験生の皆さまの就職・転職活動の際の一助となりましたら幸いです。