目次
はじめに
はじめまして、司法書士法人あかしの笹野と申します。
この度、私が所属するスタートアップ支援の専門家団体「BAMBOO INCUBATOR」内の有志が主体となり「スタートアップ向けモデル原始定款」を開発公開しましたので、ご紹介いたします。
「専門知識は力なり Expertise is Power.」を合言葉に、誰もが専門知識を活用でき、自己実現の一助とすることができる世界を目指しています。
簡単な自己紹介
平成25年に司法書士試験に合格し、個人司法書士事務所、士業グループ司法書士事務所(司法書士法人役員)を経て、令和2年に司法書士法人あかしを設立(共同代表)しました。
事務所の取り扱い業務は、商業登記が4割、不動産登記が4割、その他が2割となります。
所内では、私が主に商業登記を担当しており、普通株式、みなし優先株式、種類株式、新株予約権(J-KISS)、新株予約権付社債等を利用した資金調達、ストックオプション、資産管理会社、組織再編など、起業前の段階(シード期)からエグジット(IPO(上場)やМ&A)に至るまでに関連する登記法務を中心に業務をしております。
お客様は、他士業の方や既存の起業家の方からのご紹介のみでネット集客等は行っておりません。
シリーズA(ビジネス開始後、数億円から数十億円の規模で資金調達をするフェーズ)等の種類株式での資金調達やストックオプションを発行するタイミングで、お客様が依頼していた既存の司法書士が対応できないため、公認会計士や弁護士からご紹介いただくことが多いです。
スタートアップを支援するきっかけ
スタートアップを支援するきっかけは、2つあります。
1つ目は、2018年に同期の司法書士が常勤監査役に就任している会社の手続きを受任したことです。
当時は、スタートアップの登記法務に精通している司法書士が少なかったため、相談がありました。スタートアップ支援の場面では、①ストックオプションや種類株式の資金調達等の登記はもちろんのこと、②株主総会の運営、③投資契約書や株主間契約の規定に基づく契約の履行等、登記法務以外の面で経験の差がでる業務だと実感しました。
私は、独立する前に、複数の他士業が在籍するワンストップ型の士業事務所に勤務しており、その当時に、1社上場まで登記手続きを関与した案件があったため、スムーズに対応できたと思います。
2つ目は、2020年に母校である立教大学の起業部(起業コミュニティ)に参加したことです。
大学生や20代前半の世代の起業家が多く、気軽に相談できる専門家として、スタートアップの支援を始めました。
スタートアップを支援するやりがい
私は、スタートアップ支援には多くのやりがいがあると思います。
単なる法的支援にとどまらず、ビジネスの成長や社会への貢献を実感できる充実した業務であることが魅力だと考えています。以下に、そのやりがいについて詳しく述べます。
1. 起業家との密接な関わり
会社設立(ビジネスの初期段階)から関与することで、クライアントの成長を見守りながら支援できる点。
2.臨機応変な対応が必須
法律の枠内で柔軟に対応する必要があり、個々の事例ごとに異なるアプローチが求められます。
適切な解決策を提供することで、自身の専門知識やスキルを高めることができる点。
3.社会的なインパクト
スタートアップは、革新的なアイデアや技術を持っており、社会に新しい価値を提供する存在です。そのようなスタートアップを法的にサポートすることで、間接的に社会に良い影響を与えることができます。
特に、私が支援したスタートアップが成功し、その製品やサービスが広く利用されるようになると、社会的なインパクトを実感し、やりがいを感じることができます。
スタートアップ支援に携わることは、法律の専門家としてのスキルを活かしながら、クライアントと共に成長し、社会に貢献できる貴重な機会です。その中で得られるやりがいは、他の業務では得られない特別なものです。
「スタートアップ向けモデル原始定款」の特徴(後編)
<松本光平先生による「スタートアップ向けモデル原始定款」の解説【前編】はコチラ>
今回公開しました「スタートアップ向けモデル原始定款」では、スタートアップが株式の法務周りでスムーズな運営ができるよう条文を工夫しております。
その中でも、「特定の株主からの自己株式の取得」、「募集株式の割当ての決定又は総数引受契約の承認」の2点を解説いたします。
特定の株主からの自己株式の取得(モデル原始定款第14条)
中小企業と異なりスタートアップは、複数人の創業者で共同創業したり、エンジェル投資家等の外部株主が入ってくるため、株式の取り扱いに気を配る必要があります。
具体的には、創業メンバーや経営メンバーが退職したり、外部株主が撤退する場合に、残った創業者による買取りができず、自己株式として退任者が保有していた株式を買い取る必要が生じたときに、定款に売主追加請求権排除の規定がなければ、他の株主にも売主追加請求権に関する通知をしなければなりません。
また、株式の発行後に、売主追加請求権排除の規定を設けるためには、株主全員の同意が必要になります。そのため、当該株主からの買取をスムーズに進める点を考慮して、モデル定款では、特定の株主からの自己株式の取得の定め(売主追加請求権排除の規定)を設けておくことを推奨しています。
募集株式の割当ての決定又は総数引受契約の承認 (モデル原始定款第15条)
募集株式の発行の際に、投資家との交渉やバーンレート(企業が1か月あたりに費やしているコストを示す指標)の関係で同一のラウンドで複数回に分けて調達するケースがあります。
その際は、株主総会で募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類お呼び数。)の上限及び払込金額の下限を定め、募集事項の決定を取締役(取締役会非設置会社の場合)に委任する方法が合理的です。
しかし、会社法の原則は、株主総会で割り当てが必要なため、さらに株主総会を開催する手間がかかり、資金調達に時間を要してしまいます。
そのため、モデル定款では、募集株式の割当て及び総数引受契約の承認を取締役が決定できるようにすることを推奨しています。
以上2点について解説をしました。
その他「スタートアップ向けモデル原始定款」では、松本先生と私が解説した以外にも種々の工夫をしております。[前提・簡易解説付き]の定款をご参照いただければ幸いです。
なお、より詳細な内容を「月刊 登記情報」にて執筆予定ですので、ご参照ください。
最後に
BAMBOO INCUBATORでは、日々スタートアップのために情報交換や勉強会等を企画しております。全国で活躍されている他士業の方とも交流ができますので、ぜひ参画いただけると幸いです。