この記事は、令和7年10月31日に兵庫県青年司法書士会で行った研修「DX対応司法書士か、DX対応司法書士以外か。~電子署名・しほうサイン・オンライン共同申請の実践研修~」の内容を文字起こしし、再構成、追記したものになります。
目次
電子署名の基本
まず、電子署名にどんなものがあるか、「発行者」と「ファイル形式」という2つの分け方で説明します。
電子署名の種類①「発行者」編
電子署名(のもとになる証明書)は「公的機関が発行したもの(実印相当)」「民間が発行したもの(認印相当)」に分類できます。
公的機関が発行するものは次の2つです。
✅個人向けの「公的個人認証電子証明書」、これがマイナンバーカードに搭載されているもので、市町村が発行します。
✅法人向けのものが「商業登記電子証明書」、法人本店の管轄法務局が発行します。(個人、法人それぞれの実印登録を行う機関と同じです。)
そして、民間企業が発行するものとして、クラウドサイン、アドビサイン、GMOサイン…などなど、多数の電子署名サービスが出ています。(司法書士や行政書士、公証人など資格者の電子署名の話は割愛します。)
電子署名の種類②「ファイル形式」編
電子証明にはファイル形式による違いもあります。
1つが「電子署名付PDFファイル」と呼ばれるものです。添付書類をPDFで作成し、電子書名を付与してもPDFファイルが1つのまま、というものです。次回のコラムに出てくる「しほうサイン」で電子署名を付与すると、「電子署名付PDFファイル」が作られます。
もう一つは「署名付PDFフォルダ」と呼ばれるものです。添付書類をPDFで作成し、電子署名を付与すると、PDFファイルとxmlファイルの2つが入ったフォルダが生成される、というものです。法務省の申請用総合ソフトで電子署名を付与すると「署名付PDFフォルダ」が作られます。
登記申請にはどの電子署名が使えるの?
どの種類の電子署名が登記申請に使えるのか?
これは不動産登記と商業登記で異なります。
「不動産登記」編
まず、不動産登記申請の添付書類をPDFで作成する場合に、使える電子署名は、公的機関が発行した2つに限られます。
個人は自分の公的個人認証、法人は自社の商業登記電子証明書です。これだけです。(不動産登記規則第43条1項。登記原因証明情報の特別委任方式を除く。)
「商業登記」編
商業登記申請は、紙で添付書類を作成する場合、実印が必要な書類とそれ以外の書類で、使える電子署名が異なります。
実印が必要な添付書類をPDFで作成する場合は、商業登記電子証明書か、代表者個人の公的個人認証による電子署名が必要です。
しかし、それ以外は、法務省のホームページ(第3 電子証明書の取得)に掲載された電子署名であれば、民間企業が発行した電子署名も使うことが出来ます。
その他
添付できるファイル形式の話をすると、登記申請では、「電子署名付PDFファイル」「署名付PDFフォルダ」のどちらの形式でも申請に使うことができます。
そして、令和8年から、定款認証でも「電子署名付PDFファイル」「署名付PDFフォルダ」が使えるように変わりました。
成年後見、供託の申請に使えるのは、今のところは「電子署名付PDFファイル」に限られます。
(参照:提出可能な添付ファイル情報)

電子署名と登記実務
電子署名したPDFを紙に例えると…?
さて、ここで電子書名を付与したPDFの仕組みについて、紙に例えて説明します。
(この例えは、司法書士の方々にイメージしてもらえることを優先した表現のため、正確なものではありません。)
電子署名付ファイルの中身を例えると、このような図になります。

電子署名とは、紙でいう「紙の原本1枚に押印する」ではないのです。
紙で例えると、次のようになります。
① 原本を2部用意し、実印で割印します
② 割印した原本をコピーします
③ 原本1部とコピー1部、印鑑証明書を紐付けます
④ 紐付けられた印鑑証明書の有効性を、オンラインですみやかに検証します
⑤ 検証時には、原本1部とコピー1部の内容を比較して、異なる点がないか(改ざんされていないか)も確認します
登記実務で起こり得る事態
これまで「どうやら本物らしい」と、外観だけで判断していた印鑑証明書について、オンラインで確認ができるような仕組みがありますので、非常に良いように聞こえますよね。
ところが、電子署名付ファイルを添付して申請すると、ファイルの改ざんがされていないか、つまり紙でいう「割印された原本」と、「割印の片割れのコピー」の内容が同じかどうかまで照合されます。そして「割印された原本」と「割印の片割れのコピー」の内容が違っていたら、印鑑証明書が有効だったとしても、エラーになる仕組みです。
つまり、登記実務において我々が当たり前のようにやっている追記…たとえば、
・日付を空欄にしたまま電子署名をもらい、追記する
・住民票上の住所表記が分からないので、丁目以下を空欄にしたまま電子署名をもらい、追記する
・内容に影響しないが軽微な誤記があったので、1字抹消や加入を行う
このような修正は、電子署名付ファイルではすべて出来ません。
また、電子署名付与日時もファイルに記録されます。
空欄のない正確な添付書類を作成しても、事前面談の際にあらかじめ電子署名をもらうこともできません。
(令和7年12月9日に公表された特別委任方式の登記原因証明情報に限り、依頼者から電子署名をもらわず、決済後から申請までの間に司法書士の電子署名を付与することで対応できる目途がたちました。)
条文上も電子署名の扱いは悪い
さて、実務上の扱いづらさだけでなく、不動産登記の添付書類をPDFで作成する場合、条文上も電子署名の扱いが悪いということを、委任状を用いてここで説明します。
実務では、全ての委任状に押印をもらう司法書士が多いと思います。しかし、不動産登記規則では、押印がいらない委任状があります。例えば、識別情報を提供する抵当権抹消です。 (不動産登記規則第47条三号ハ、同第49条1項二号)また、押印は必要だけど印鑑証明書がいらないものもあります。識別情報を受け取る登記権利者の委任状です。(不動産登記規則第48条四号、同第49条2項四号)
このように、紙の委任状の署名押印について、条文は、署名のみ、認印、実印と印鑑証明…と差をつけています。ところが、これがPDFと電子署名になると、識別情報のある抵当権者だろうが、所有権移転の義務者だろうが、すべて実印(個人なら公的個人認証、法人なら商業登記電子証明書)が要求されるのです。 (不動産登記規則第43条1項。登記原因証明情報の特別委任方式を除く。)
電子署名にメリットはあるか?
ここまで電子署名にはメリットが無いように聞こえますが、それでも、我々には電子署名環境を導入しなければならない理由があります。
個人が電子署名を付与するには、マイナンバーカードのICチップを読み取り、署名用パスワードの入力を行います。
犯罪収益移転防止法施行規則第6条第1項(カ)(※令和7年6月以前はeKYCワ要件と呼ばれていた方式)には、マイナンバーカードのICチップを読み取り、特定取引に関する情報に電子署名を付与して送信を受け、その署名を検証することによって、非対面の本人確認さえ完了するという条文があります。
そして、令和7年12月4日、警察庁が犯罪収益移転防止法施行規則の改正案を公表しました。令和9年4月を目途に、写真付き本人確認書類の提示を受ける現行の方法は使えなくなり、写真付き本人確認書類のICチップの読み取りが必須となる可能性が高いです。
つまり、電子署名環境を整備するというのは、今後必須となるであろうICチップ読み取りによる本人確認に対応した環境を整備することになります。
10月31日の研修では「身分証の外観を目視で確認するより強固な本人確認が出来るようになるので、添付書類は紙で作るとしても、委任契約書や本人確認記録のPDFに電子署名をもらう等、ICチップを読み取ることは、本人確認において非常に重要です。」とお伝えしました。
しかし、犯収法施行規則の改正が見込まれる今、ICチップ読み取りと電子署名に対応していくことは、必須になっていくと考えられます。
実は、日司連がすでに、ICチップ読み取りや電子署名の付与ができるシステムを公開していますので、次回は、これら2つのシステムについてお話します。











