前回は、AIの種類やどんなAIを使えば良いかなどといったお話をいたしました。今回は、司法書士がAIを使ううえでの注意点をお話ししたいと思います。
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前回(第1回)のコラムはこちら
司法書士のためのAI仕事術 ── 今さら聞けない基礎知識とはじめの一歩
進む「二極化」
AIの波は、司法書士業界にもかなり押し寄せています。そして今、AIを積極的に使う事務所と、あまり使えていない事務所の二極化が進んでいるように感じています。
ひとくちに「使えていない」と言っても、中身は分かれると思います。
ひとつは、AIにあまり関心がない、あるいは「AIはまだ実務では使えない」と思っている事務所です。「どうせハルシネーション(AIが、事実と異なるもっともらしい内容を、さも本当のように答えてしまう現象)が多いんでしょう」といった見方です。
もうひとつは、使いたいけれど守秘義務や個人情報保護の観点から自由に使えず、ハードルを感じている事務所です。しっかりとした真面目な司法書士事務所ほど、このハードルを高く感じているかもしれません。
ここで難しいのは、個人情報をまったく気にせずどんどん使う事務所が、AIにより発展していく一方で、「正しく使おう」と慎重になっている事務所ほど、なかなか踏み出せず差が広がっていくという構図が生まれかねないことです。
まじめな事務所が取り残されるという、少し皮肉な格差が広がるおそれもあるのではないでしょうか。
私個人の見立てとしては、AIを使っている事務所と使えていない事務所の格差は、この2〜3年で大きく広がっていくと予想しています。
今、足元でこの格差が広がっていく中、まじめにしっかりと業務を行っている事務所にこそ、ぜひAIを使って業務に活かしてほしい。それが私の思いです。
そのためにも、司法書士がAIを使ううえでの注意点を正しく理解して、できるだけ安全に活用していくことが大切です。
さて、ここからが本題です。AIは便利な道具ですが、私たち司法書士が使ううえでは、避けては通れないいくつかの注意点があります。一つずつ見ていきましょう。
注意点その1 AIは嘘をつく(ハルシネーション)
生成AIには、事実ではないことを、あたかも本当のように答えてしまうハルシネーション(幻覚 = AIがもっともらしい嘘をつく現象)という弱点があります。
これがどれだけ怖いか、実際に起きた出来事でお伝えします。
アメリカの弁護士の話
2023年、アメリカのある弁護士が、航空会社を相手取った訴訟の準備書面を作る際、対話型AIに「参考になる判例を教えて」と尋ねました。AIは、事件番号も裁判所名も判決内容も揃った、いかにも本物らしい判例をいくつも提示してきます。弁護士はそれをそのまま裁判所に提出しました。
ところが、その判例のいくつかはAIが作り上げた架空のものでした。相手方から「存在しない」と指摘されて発覚し、裁判所はこの弁護士に制裁金を科しました。
この話には続きがあります。弁護士は提出前に不安を感じ、AI自身に「この判例は本物か」と確認していたのです。AIは「本物だ」と答えました。つまり、AIに事実確認をさせても意味がなかったということです。
私自身の検証:
「天ぷらそば」の話
もう少し身近な例も挙げておきます。
私は現在ローカルLLM(後述します)の性能を検証していて、その一環で、存在しない業界用語を投げてみたことがあります。
<質問>司法書士業務における、いわゆる「天ぷらそば」の意味を教えて。
もちろん、そんな用語はありません。私が勝手に作りました。20年やっていますが、少なくとも私は聞いたことがありません。
返ってきた答えが、これです。
一見すると簡単で小さく見える依頼(そば)の中に、実は手間や複雑さが伴う重たい案件や付随業務(天ぷら)がくっついている状態
── ローカルLLMの回答
そば = 主食・メインの依頼、天ぷら = 付け合わせ・付随業務、と分解までしてくれました。
笑い話ですが、これがお客様からの質問に対する回答や、法律的な解釈などの説明で起きたら笑えません。
※ちなみに、今回はローカルLLMという少し性能の劣るAIでの検証でしたので、みなさんが一般的に利用するクラウド型AI(ChatGPT、Gemini、Claudeなど)では、「そのような隠語は確認できませんでした」という答えでした。
教訓はシンプルです
AIは今どんどん性能が上がってきていて、ハルシネーションも少なくなってきています。とはいえ、司法書士業務などの専門的な分野においては、まだまだ怪しい回答が生成されることも頻繁にあるので注意が必要です。
司法書士がAIの回答を利用するうえでは、AIが出した判例・先例・条文・専門的な情報は、必ず自分の目で一次資料にあたって確認する。これに尽きます。
AIは「もっともらしい文章を作ること」は得意でも、「それが正しいかどうか」は判断できないのです。
うちの事務所でも、AIは調べものや文章づくりの心強い相棒として活用しています。ただし、お客様の権利や財産に関わる情報は、必ず条文・先例・通達・判例などの公的資料で裏を取ったうえでお伝えすることを徹底しています。
便利な道具だからこそ、使い手の責任が問われる時代になったのだと感じています。
割り切り方のコツ
私は、AIは最初から5〜6割程度の成果物を作ってくれるもの、と割り切るのがよいと思っています。
そのうえで、自分の目と手で、またはさらにAIの力を借りながら、少しずつ10割に近づけていく。この「半自動化」の仕事の進め方が、いちばん現実に合っていると感じます。
注意点その2 情報漏洩 ──
まず「学習させない」設定を
AIの情報漏洩対策として、最も手前にあって、かつ誰でもすぐにできるのが「学習させない設定」です。見落とされがちですが、最初にやるべきなのはこれです。
これをやったから安全になる、という話ではありません。あくまで必要最低限の設定です。ただ、その最低限が抜けたまま使っている方が意外と多いのです。
多くのAIは、個人向けプランだと初期状態のままでは会話がAIの学習に使われることがあります。まずは「学習させない(オプトアウト)」に切り替えておくことが大切です。設定場所の例を挙げておきます。
設定 →「データコントロール」→「
モデル改善に協力する」をオフ
設定 →「Geminiアプリアクティビティ(アクティビティの保存)」をオフ
設定 →「プライバシー」→「
AIモデルの改善に協力する」をオフ
※Google Workspaceなどの法人向けサービスは、最初から学習に使われない仕様になっています。事務所全体で使う基盤として安心なのは、こうした理由もあります。
なお、こうした設定の項目名や場所は、AIごとに異なるうえ、アップデートで変わることもよくあります。ここに書いた表記も将来変わる可能性がありますので、必ずご自身の使うAIの最新の設定画面で確認しておきましょう。
注意点その3 守秘義務と
個人情報保護
司法書士には、守秘義務と個人情報保護法上の義務があります。これは、私たち司法書士がAIを使ううえでの最大の注意点だと言っていいと思います。
では、どんなところが問題になり、どのようにAIを使っていけばこれらの義務に抵触しないのでしょうか。
この守秘義務と個人情報保護法上の義務については、私自身、本記事の執筆にあたっていろいろな文献をリサーチいたしましたが、いずれも「これで問題ない!」というような確定的な結論には達していないように思えます。
また、細かな部分については、専門家によって意見が分かれるところもいくつか見られます。そのため本記事でも確定的な結論を記載することはできず、私の理解している範囲内で、現在主に議論されている問題点のみを整理したものになりますので、ご了承ください。
※守秘義務や個人情報保護法のほかにも、著作権の問題など、AIを使ううえでの注意点は諸々ありますが、誌面の都合上、今回は割愛させていただきます。
他のユーザーに対する
守秘義務
まず、AIに情報を入れることが、誰に対する情報の提供にあたるのかを分けて考える必要があります。
1つ目は、AIに情報を入れることが、他のユーザーに対する情報の提供につながってしまうのではないか、という問題です。
提供した情報がAIにより学習され、他のユーザーに出力されてしまうようなケースです。
これに関しては、学習設定をオフにすることや、入力情報がモデルの学習に利用されない法人向けのプランを利用することで、他のユーザーへの出力というリスクを相当程度抑えることができると考えられます。
ただし、学習されない場合でも、サービスや契約内容によっては、入力した情報が一定期間、AIサービス事業者のサーバーに保存されます。そこで問題になるのが、次の2つ目です。
AIサービス事業者に対する
守秘義務
AIサービス事業者であっても第三者ですので、AIに情報を入れること(つまりAIサービス事業者に情報を提供すること)が、守秘義務などに抵触しないのかという問題です。
ここでは、さらに司法書士法上の秘密保持義務と個人情報保護法上の義務に分けて考える必要があります。
司法書士法上の秘密保持義務
AIにクライアントの個人情報などを入れると、司法書士法に規定する秘密保持義務違反にならないかという問題があります(司法書士法第24条)。
なお、秘密保持の約束(法人契約など)があるAIサービスに個人情報を入力することが、そもそも「漏らす」ことにあたるのかについては議論があり、私が知る限り、はっきりした基準はまだ示されていません。
そのうえで、少なくとも本人の同意がある場合には、「正当な事由」が認められる方向に働くと考えられます。
しかしながら、スポット業務が多い司法書士業務の性質上、すべてのクライアントから同意を得るのはかなり難しいでしょう。
(※そもそも、法人契約を結び、DPAを締結したうえで、AIサービス事業者を適切に管理していれば、「正当な事由」にあたり、守秘義務違反とはならず同意も不要だという可能性もありますが、話がややこしくなるので、ここではいったん置いておきます。)
だとすると、堅めの安全策としては、個人情報を入れる場合には、マスキングして個人が特定できない形で入れるということになりそうです。
ただし、このマスキングも、情報の組み合わせから依頼者や事件が特定できてしまうようであれば、秘密保持義務違反となってしまうので注意が必要です。
※マスキングなど個人情報を削除することに関しては、マスキング漏れが起こってしまう可能性がある旨の指摘や、そもそも時短のためにAIを使っているのに時間をかけていたら意味がないという意見もあります。
個人情報保護法上の義務
個人情報保護法にも、第三者に個人データを提供する際は、あらかじめ本人の同意を得なければならないという規定があります(個人情報保護法第27条)。
さらに、外国にある第三者に個人データを提供する場合は、「外国にある第三者への提供を認める」旨の同意が必要です(個人情報保護法第28条)。
ChatGPT、Claude、Geminiなど主要なAIサービスの多くは海外事業者によって提供されているため、利用形態によっては、外国にある第三者への提供に関する第28条の検討も必要になります。
これについても、前述の司法書士法上の秘密保持義務と同様、司法書士がすべてのクライアントから同意を得るのは難しいと考えられます。
「委託」という整理
一方で、個人情報保護法については、別の角度からのアプローチもできます。
個人情報保護法では、「第三者に情報を提供してはならない」という規定になっていますが、AIサービス事業者に対しては「提供」ではなく「委託」しているだけだ、と整理する考え方です。
利用目的の達成に必要な範囲で「委託」するだけならば、提供の相手は「第三者」に該当せず、本人の同意がなくても委託することができる、というものです(個人情報保護法第27条第5項第1号)。
※AIサービス事業者が入力情報を自社のモデル学習など独自の目的にも利用する場合には、そもそも「委託」と整理できない可能性が高いため、前述のとおり学習オフの設定または法人契約は必須です。
ただし、「委託」と整理すれば何でも許されるわけではありません。注意点は2つあります。
1つ目は、委託先の監督義務です(個人情報保護法第25条)。
具体的には、サービス提供事業者をしっかりと選定し、DPA契約(※)を締結し、その利用規約やプライバシーポリシー等でセキュリティやデータの管理方法を確認するほか、必要に応じて取扱状況を把握するなど、委託先について必要かつ適切な監督を行うことが求められます。
(※DPA(Data Processing Agreement)とは、サービス提供事業者が個人情報について、利用目的外の利用をしないこと、安全管理措置を講じることなどのデータ処理についての契約です。個人契約ではなく法人契約(ビジネスプラン)の利用者が締結できるもので、利用規約にあらかじめ組み込まれているパターンや、別途申し込みが必要なパターンなどがあります。)
2つ目は、海外の事業者に委託する場合の問題です。
「委託なら第三者にあたらない」(= 同意不要)というルールは、外国にある第三者への提供(第28条)には、そのまま当てはまりません。
海外のAIサービス事業者に委託する場合、別途本人の同意が必要になります。
ただし、その事業者が日本の個人情報保護法に沿った体制を整えている場合は、本人の同意は不要となります。
実務上は、AIサービス事業者との間で結ぶDPA等によって、相手方に必要な措置の実施を義務付けることなどにより、この体制を確保する方法が考えられます。
その場合も、相手方の体制を定期的に確認(年1回程度)することや、本人から求められたときに情報を提供することが求められます。
以上を突き詰めていくと、行き着く先は「AIサービス提供事業者がどこまで信用できるのか」という問題にもなりかねず、果たして私たち司法書士にそれを正確に判断できるのか、悩ましいところです。
なお、本記事の執筆時点では、司法書士向けのAIに関するガイドラインは出ていませんが、将来的に何らかの基準が出た際には、その内容を素早くキャッチアップし、法的な観点からその基準に沿った利用の仕方をしていくことも重要になってくるかと思います。
※今回参考にさせていただいた文献です。ご興味のある方は、ぜひ原典にあたってみてください。
「生成AIの法律実務」弘文堂 松尾剛行著
「司法書士のためのAI活用ガイド
第3回『生成AIの活用における法的留意点』」
登記情報767号(2025年10月)
永井利幸
「生成AI時代における個人情報保護―
委託先管理とAIツール利用の実務運用」
NBL1315号(2026年6月)植松大雄
「法務のための生成AI活用ガイド」
弘文堂 福島駿太著
「士業の生成AI入門」KINZAIバリュー叢書L BAMBOO INCUBATOR著
「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等に
ついて」個人情報保護委員会
「個人情報の保護に関する法律についての
ガイドライン(外国にある第三者への提供編)」
個人情報保護委員会
【補足】
2026年9月25日付で、日本税理士会連合会から税理士向けの「AI・クラウド活用ガイドライン」が出ました。
このガイドラインは税理士会員向けで一般には公開されていないため、伝え聞いた情報を取りまとめたものになりますが、AIを使ううえでは以下の要件を満たすことで、法令遵守と実務運用の両立を図るという考え方のようです。
①ビジネス向けの有料プランを契約すること(学習はオフ設定)
②AIサービス事業者と確実にDPA契約を締結すること。その後、委託先管理を年1回以上行うこと。
③事務所内ルールを策定し管理すること
④顧客から同意を得ることを強く推奨
税理士向けのガイドラインではありますが、司法書士業界にも少なからず影響があると思われますので、ご参考にしてみてください。
私の基本方針
以上のとおり、結論は確定的なものとはいえず、正直なところ、私自身も「こう使えば大丈夫」という答えには至っておりません。
そのうえで、ご参考までに現時点で私がどうしているかをお話しします。
念のため最初に申し上げておくと、私の現時点でのスタンスは、やや堅めの安全策寄りです。
司法書士向けのガイドラインが出ていない現状では、様子を見ながら安全に使っていくことを心がけております。
また、「AIに個人情報を入れてよいのか」という議論については、前述のとおり「守秘義務違反や個人情報保護法に抵触しないか」という文脈で語られることが多いように思います。
もちろん、それは私たち司法書士という専門家にとって非常に大事なことであり、自分の身を守るうえでも、しっかりと考えて使っていかなければならないのは当然のことです。
ただ、私はそこからもう一歩踏み込んで、仮に情報が漏洩してしまった場合でも、クライアントに実損害が出ないような使い方をしておくことも大事なのではないかと思っております。
といいますのも、AIの進化のスピードはすさまじく、これまで考えもしなかったような形で、非常に堅固だと思われていたセキュリティまで攻撃されてしまう可能性もゼロではないと考えているからです。
将来的な情報漏洩は、現実的に起こりうる。私はそう思っています。
結論として、私の基本方針はシンプルで、クライアントの個人情報など、個人が特定できる情報は、できる限りクラウド型のAIには入れないというものです。
※前述しましたが、ここで言うクラウド型AIとは、ChatGPT・Gemini・Claudeなど、インターネット経由で動くAIのことです。
今できる現実解:
「下処理」をしてから渡す
私が今やっているのは、クライアントの個人情報を消す「下処理」をしてからクラウド型AIに渡すという方法です。
基本的な考え方は、契約書などの書類から、個人が特定できる部分をあらかじめ削除したり、別の文字に置き換えたりしておくこと。そうして個人が特定できない状態にしてから、クラウド型AIに読ませます。
※私の場合は、この下処理を効率よく行うために、ローカル環境で個人情報をマスキング(伏せる・置き換える)するツールを自分用に作って使っています。
少々面倒に感じるかもしれませんが、こうしたひと手間をかければ、私たちもクラウド型AIを十分に活用できると考えています。
意図しない形で、すでに入れて
しまっている可能性も
ただし、AIはどんどん私たちの身近なところに取り入れられてきています。
例えば、メール文案の作成の裏側でAIが動いていたり、オンラインミーティングのまとめをAIが自動で行ったり、というようなこともあります。
ということは、私たちが意図しないところで、個人情報をAIに入れてしまう場面が多くなってきているということです。
こういったすべてを制限するのはもはや現実的には難しいので、前述の事務所ルールについては、自らコントロールできる情報に限ったものとしています。
(※使用するツール自体も信頼性の高いものを選定することや、法人契約にしておくことも大事です。)
なお、前述のとおり、あくまでもこれは私の事務所での現段階でのルールであることをお断りしておきます。
ローカルLLMという選択肢
もう一つ、違った観点から。
実は、クラウド型ではないAIもあります。ローカルLLM(自分のパソコンの中で、ネットに繋がずに動かすAI)です。
外に情報が出ていかないので、安心してクライアントの個人情報を入れられるのが最大の強みです。私自身、今このローカルLLMの環境整備を進めているところです。
ただし、正直に書くと、これは簡単ではありません。性能の良いパソコンなど、それなりのハード面の準備が必要になるため、誰でもすぐに導入できるものではないのが現状です。
また、ローカルLLMの性能もどんどん上がってきていますが、現時点では、クラウド型AIより性能が劣るということも事実です。
今回のまとめ
司法書士がAIを使ううえでの注意点は、大きく3つに分けられます。「答えが正しいか」というハルシネーションに関する注意点、「情報が外に出ないか」という情報漏洩に関する注意点、そして「情報を守れるか」という守秘義務・個人情報保護法に関する注意点です。
いずれの注意点も、「危険だから使わない」ではなく、気をつけながら使うことで乗り越えられます。
次回は、具体的にどう使うのか、当事務所での実例をいくつかご紹介したいと思います。













