前回は、司法書士がAIを使ううえでの注意点として、ハルシネーション、情報漏洩のリスク、守秘義務、個人情報保護法などのお話をいたしました。今回は、司法書士が具体的にどのようにAIを使えばよいのか、というお話をしたいと思います。
Xやnoteでも司法書士実務に関するAIの情報を日々発信しておりますので、よろしければフォローをお願いします。
X:https://x.com/yasui_judicial
note:https://note.com/ydaiju
第1回のコラムはこちら
司法書士のためのAI仕事術 ── 今さら聞けない基礎知識とはじめの一歩
第2回のコラムはこちら
司法書士のためのAI仕事術 ── 司法書士がAIを使ううえでの注意点
情報の洪水に飲まれない
世の中にはAIに関する情報が溢れています。次から次へと新しいサービスが出てきて、いろいろな人が「これが最強!」「最新のこれを使わなければヤバい」というようなことを声高に発信しています。
そのような情報の洪水に接していると、結局、自分は何をどのように使っていったらよいのか、よくわからなくなってしまいます。
ここでひとつ私が言いたいのは、決して最新の情報を追う必要はない、ということです。
最新のAI情報は今後もどんどん出てきますが、それを追うことで「結局どうしていいのかよくわからない」となってしまっては、本末転倒です。
私が思う一番良いAIの使い方は、
- まず「自分が何をしたいのか?」を考えて
- 今使っている「手元のAIでそれが実現できないか?」を試してみる
- 手元のAIで実現できないのであれば「実現できるサービスはないか」を探す
- 「実現できるサービス」がなければ、自分で作ってしまう
という順序です。これが、実務家として最も業務効率化に直結する使い方だと思っています。
AI時代には、これまでのような万人に共通の汎用的な考え方ではなく、いかにピンポイントで自分に最適な使い方ができるか、という視点が重要なのです。
そして、AIによって、それが実現できるようになったのです。
業務効率化のための使い方例
前述のとおり、業務効率化の第一歩として、まずは自分が何をしたいのかを考える必要があります。
つまり、普段の業務の流れを振り返って、何をやれば効率化につながるかを考えてみる、ということです。
とはいえ、普段からアンテナを張っていないと、なかなか思いつきにくいかもしれません。
そこで、私自身の事例で恐縮ですが、実際に業務効率化のためにどのようにAIを使っているのか、いくつかご紹介したいと思います。
メール返信の半自動化
業務効率化のためには、まずは頻度が高くて時間がかかっている作業から進めるのがよいと思います。
例えば、メールです。司法書士ですと、簡単な返信なども含めると、一日に相当な数のメールを送っている方も多いのではないでしょうか。これをある程度サポート(半自動化)してくれる機能があれば、とても楽になります。
私の事務所では元々Outlookを利用していましたが、私の事務所の環境では、なかなかAIとの連携がうまくいきませんでした。
そこで、事務所全体のメールをOutlookからGmailに切り替えました。
というのも、Gmailには「文書作成サポート」という、Geminiがメール文の作成をサポートしてくれる機能が搭載されており、Gmailの画面を開いたまま、半自動でメールを作成できるのです。
例えば、届いたメールに対して「承知しました」とだけ打っても、メール内容をGeminiが読み取って「〇〇様 いつもお世話になっております。□□の件につきまして承知いたしました。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。司法書士 安井大樹」のような文章を作成してくれます。
これで、メールのやり取りをかなりスピードアップできます。事務所全体で使うことで、より一層効率化が進みます。
(※たまにピントのズレたメールになることもあるので人間のチェックは必要です。)
また、スマホからでも簡単な指示を出すだけで、精度の高い返信案を自動で作ってくれるので、外出先でもPCを開くことなく仕事のメールのやり取りが可能になりました。
そして、スピードもさることながら、メール返信にあれこれと悩むことを軽減することにより、脳のメモリを温存できるのもありがたいです。
捺印指示ツールの運用
業務効率化として、もう一つ事例を挙げたいと思います。
司法書士業務で地味に時間がかかっているもののひとつが、捺印の指示ではないかと思います。
捺印の指示というのは、例えば「ここに認印」「ここに会社実印」「ここに署名」といった、押印・署名の箇所をクライアントに伝える作業のことです。
皆さまはどのようにされていますでしょうか。
私の事務所では、押印箇所に鉛筆で丸をつけ、印鑑の種類に応じて「個人実印」「会社実印」といった付箋を貼り、署名箇所には「署名」の付箋を貼って指示しています。修業時代から、ずっと変わらず続けてきたやり方です。
ただ、振り返ってみると、この捺印の指示にだいぶ時間を取られているのではないかと気づきました。ここを何とか効率化できないか、と考えるようになったのです。
実は以前にも、指示を印字してしまえばいいのではないかと思ったことはありました。ただ、クライアントとしては、指示が印字された書類が手元に残るのは嫌なのではないか。そもそも、どうやって印字するのか。その方法を所員に周知して、きちんと使ってもらうにはどうすればいいのか。そのあたりの答えがなかなか見つからず、結局は取り組まないまま、いつもどおり鉛筆での指示を続けていました。
とはいえ、AI時代になり、いよいよこういったことも見直していかなければならないのではないか。そう思って、何かいい方法がないか探してみました。ところが、かなりニッチな分野なので、少なくとも私が探した範囲では、そういった製品は見つかりませんでした。
ないのであれば、自分で作ってしまおう。ということで、捺印ツールを作ることにしました。
普段、議事録などの書面はWordで作ることが多いので、Wordのリボン(画面上部の、ボタンが並んでいる部分)に捺印ツールを入れてしまえないか、と考えました。AIに相談しながら作ってみたところ、無事にWordに組み込むことができました。
文章だけではわかりにくいので、実際の画面を以下に貼ります。

インストールは所員でも簡単にできる仕様にしたので、今は所員全員がWordに入れて使っています。手前味噌ながら所員からの評判も良く、捺印指示の手間がかなり減ったと報告を受けています。
心配していたクライアントからの反応ですが、「印字ではなく鉛筆で丸をつけてほしい」という声は、しばらく使っている中で今のところ一件もありません。
もしそういう声が出てきたら、そのクライアントに限っては鉛筆で丸をつける、という例外運用にしようと考えています。
なお、このツールは、Claude Codeでバイブコーディング(プログラムを自分で書かずに、AIに日本語で指示を出してツールを作ってもらう方法)で作ったものです。司法書士の皆さまにも、ぜひ、自分の事務所に合ったツールを自作できるようになっていただきたいと思っています。
ハードルが高いように感じるかもしれませんが、実際にやってみると、思っていたよりずっと簡単でした。
今回の記事ではそこまでたどり着けませんが、また機会があれば、どこかでお話ししたいと思います。
業務効率化だけじゃない?
売上アップのためのAIの使い方
AI活用の話をすると、ほとんどの場合「業務効率化」の文脈で語られます。それ自体は正しく、大切なことです。ただ、私がずっと気になっているのは、AIを使って売上を上げるという話が、あまり出てこないということです。
私自身の話で言えば、AIは業務効率化だけではなく、売上アップにも使えると実感しています。
皆さまにも、売上アップという視点で、ぜひAIを使ってみていただきたいと思っております。
私の事務所でやっていること
では実際に、私の事務所でどのようにAIを使って売上アップを図っているかというと、大きく2つの方向で動いています。
順にご紹介します。
クライアントからの
問い合わせを増やす ──
ホームページ記事の自動作成
私の事務所では現在、複数のホームページを運営しています。
そこからの問い合わせを増やすためには、SEO対策(またはLLMO対策)、つまり検索エンジンで上位に表示されたり、AI検索の回答で紹介されたりするための取り組みが必要です。
そのために欠かせないのが、継続的なコンテンツの更新です。
ただ、これが実務をやりながらだと本当に大変です。記事を書き続けることの難しさは、ブログやnoteなどをやったことがある方なら、誰でも実感されていると思います。
そこで作ったのが、ホームページ記事の自動作成システムです。
毎週決まった曜日に、AIが自動で記事を生成します。
このシステムには、今までにホームページに掲載した記事を全部読み込ませています。そのうえで、すでにある記事と重複しないテーマで新しい記事を書いてもらう。
さらに、記事内に内部リンク(サイト内の関連ページへのリンク)も自動で貼ってくれます。
記事が完成すると、自動でメールが私に届きます。私はそのメールを見て内容を確認し、問題がなければホームページに貼り付けます。
もちろん、貼り付ける前に、所員数人でファクトチェックや加筆修正をします。
ここは人の目が必要な部分なので、最終確認は必ず人間がやります。AIが書いた記事をそのまま出すのではなく、人の手を通して出す。この流れが大切だと思っています。
なお、「ホームページの更新が本当に問い合わせにつながるのか」という点については、試しに複数のAIに同じ質問をしてみたところ、答えが割れました。AIに聞いても意見が分かれるくらいですから、確かなことは言えません。ただ、更新され続けているサイトであることが安心感につながるのは確かだと思っていますので、まずはやり続けてみる。そういう結論に至っています。
クライアント一人当たりの
単価を上げる ──
提案書をAIで作る
次に、クライアント一人当たりの単価を上げる取り組みです。
単価を上げるためには、クライアントに「このサービスを受けたい」と思ってもらう必要があります。そのためには、何をどう提案するかが重要です。
私が最近取り入れているのが、AIを使った提案書スライドの作成です。
具体的には、打ち合わせにあたって、そのクライアントに合わせたオーダーメイドのスライド(提案書)をAIで作成して、それを見せながら説明するというやり方です。
スライド作成には、今はGensparkというAIエージェントを使っています。Claudeなど、ほかのAIでもスライドは作れますが、私の好みの仕上がりになることと、操作感が自分に合っているという理由でGensparkをメインにしています。
このAIスライドが特に威力を発揮するのが、公正証書遺言の作成サポート、家族信託、組織再編といった案件です。
これらに共通するのは、内容が複雑でわかりにくいという点と、1件あたりの単価が高いという点です。
内容が複雑だからこそ、クライアントは「よくわからないまま進めるのは不安」という気持ちを持ちやすい。その不安を解消できるかどうかが、受任に直結します。
わからないクライアントは、
複数の事務所を回る
ここで少し視点を変えて考えてみます。
家族信託や組織再編のような複雑な手続きの場合、クライアントは最初の相談で即決することは少ないように思います。「一度持ち帰って考えます」となるケースが多いです。
そのときに何が起きるかというと、よくわからないまま帰ったクライアントは、他の事務所にも相談に行きます。そして、自分が一番わかりやすいと感じた事務所に、そのタイミングで依頼する。
つまり、複雑な案件ほど「よりわかりやすく、納得感のある説明ができた事務所が受任する」という競争になっているのです。
逆に言えば、しっかりと理解し、納得してもらえた事務所が選ばれる、ということです。
スライドがあると、
家族への説明もできる
もう一つ、スライドならではのメリットがあります。
「家族にも相談してから決めたい」というクライアントは非常に多いです。ただ、相談の場に家族が同席していない場合、クライアントが家に帰って内容を説明しようとしても、なかなかうまく伝わらないことがあります。
スライドがあると、それが変わります。クライアントがそのスライドを家族に見せながら説明できるからです。
専門的な内容でも、視覚的にわかりやすくまとまったスライドがあれば、家族も内容を理解しやすい。家族全体で「この手続きをやろう」という合意が取りやすくなります。
また、クライアント自身も、共通の認識を持って打ち合わせに参加してくれるようになりました。スライドを見ながら話すので、こちらの説明がそのまま伝わりやすいのです。
次回の打ち合わせのときに内容が頭に入っていることが多く、話がスムーズに進みます。疑問点が次々と出てきて話が戻る、ということも減りました。
そして何より、自分事として捉えてもらえる感覚があります。汎用的な資料ではなく、そのクライアントの状況に合わせて作ったスライドなので、「自分のための提案だ」と受け取ってもらいやすい。
複雑な内容をわかりやすく伝え、クライアントとその家族に安心して前に進んでもらう。その部分をAIスライドが支えてくれているという実感があります。
20年の実務で、一段レベルが
上がった錯覚
少し大げさに聞こえるかもしれませんが、このAIスライドを使い始めてから、司法書士としての自分が一段レベルアップしたような錯覚を覚えています。
20年実務をやってきて、そう感じたのは初めてのことでした。それくらい、提案の質と手応えが変わった実感があります。
このAIスライドについては、あるAIセミナーでゲスト講師としてお話しする機会がありました。参加された方の反応が非常に良く、「導入したい」という方が多くいらっしゃいました。
作り方自体は難しくありません。提案内容をWordなどで簡単にまとめ、AIに指示を出すだけ。スライドができたら内容を確認して、必要なら修正する。それだけです。
特別なスキルがなくても、誰でも取り入れられるものだと思っています。


以上、私の事務所での具体的な取り組みをいくつかご紹介しました。ご紹介したのはごく一部で、ほかにもいろいろな使い方をしています。
今回の記事では書ききれませんでしたが、そのほかの取り組みは私のnoteやXで発信しています。ご興味のある方は、ぜひ覗いてみてください。
最後に
全3回の連載は、今回が最終回です。
最後にお伝えしたいのは、私たちはすでに「AI時代」という大きな変化の入り口に立っている(立たされている)、ということです。
これは司法書士業界に限らず、世の中そのものを一変させてしまうような大きな流れです。
私たち自身がそれに気づかずに立ち止まっていると、あっという間に置いていかれてしまうかもしれません。
しかし逆に言えば、うまく乗ることさえできれば、気づいたときには思いもよらないスピードで前に進んでいる可能性もあります。
この機会にぜひAIに触れ、少しずつでも業務に取り入れてみていただけたらと思います。
この連載が、皆さまにとってそのきっかけをつかむ一助になれば幸いです。
お付き合いいただき、ありがとうございました。













