相談を受ける
アイスブレイク
クライアントの相談を受ける際に、いきなり本題に入るよりも、本題とは関係のないちょっとしたコミュニケーションをとってから入った方がスムーズに相談が進む場合があります。
天気の話、クライアントの仕事の話(名刺を見て)、クライアントの住んでいる地域の話、最近のニュースの話などいろいろな話題が考えられます。
共通の話題が見つかれば一気に距離が縮まります。
初めてのクライアントなどは、相談を受ける際に緊張している場合もありますので、その緊張を解き、心を開いて相談してもらってこそ、より一層クライアントのニーズに叶ったサービスが提供できるのです。
特に、簡裁訴訟代理関係業務の相談などは、クライアントから真実や本音の部分を聞き取ることが必要になってきますので、距離を近づけるためのコミュニケーションは重要です。
ちなみに、私の場合はきっかけとして、「今日は暑い(寒い)ですね」とか「雨はもうやんでいましたか?」といったような天気の話しや、「事務所の場所はすぐおわかりになりましたか?」などといった事務所までの道のりの話しなどをよくします。
こちらから話しかけることが重要で、これがコミュニケーションの誘い水となります。ここから話が共通の話題に進んで一気に距離が近づくこともよくあります。
ただし、コミュニケーションが大切だといっても、ダラダラと長い雑談はお勧めできません。本題がおろそかになってしまいますし、クライアントもそのような長い雑談を望んでいないことが多いからです。
「話が長い」という理由で依頼する司法書士を変えたという話しも聞いたことがあります。特に、忙しくてなかなか時間がとれないクライアントなどにとっては、司法書士事務所に行く度に、長い話で時間をとられるというのは、かなりの負担になってしまうでしょう。
あくまでも、クライアントの緊張を解き、距離を縮め、心を開いて相談できる環境を作り出すという目的を持ってコミュニケーションを図ることが大切なのです。
クライアントは、みなさんの全てを細かいところまで見ています。
その中には、みなさんの他人に対する態度も含まれています。
例えば、クライアントに対しては丁寧に接しているのに、部下に対して横暴だったり、たまたまかかってきた営業電話への断り方があまりにも乱暴だったら、クライアントはみなさんに対して、二面性を感じてしまい、心の底からは信頼できなくなってしまいます。
誰しも、弱い立場に立たされることはあると思います。
弱い立場の人間に対してきちんと接することができる人に対してこそ、皆、本当の意味で心を開くのではないでしょうか。
仕事においても、プライベートにおいても、誰に対しても変わらない態度で接することが、本当の信頼につながるのです。
しっかりと受け取る
「会話のキャッチボール」などと言われますが、相談もこれと同じで、しっかりとクライアントのボールを受け取って、投げ返さなければなりません。
ただ、ここで重要なのは、「投げる」ことではなく、しっかりと「受け取る」ということです。
業務に慣れてきて、忙しくなってくると、クライアントが相談内容を話している途中で、結論づけてしまったり、クライアントの考えを否定するような発言をしてしまいがちです。そうすると、クライアントはそれ以上話しづらくなってしまいます。
まずは、クライアントの投げたボールをしっかりと受け取ることだけに意識を集中しましょう。
できる営業マンは口下手だという話を聞いたことがあります。できる営業マンはこちらから話すのではなく聴くことに徹して、顧客のニーズを把握し、その顧客の求めているものを提供するのだそうです。
いわば、ボールを投げることではなく、受け取ることに徹しているのです。
司法書士もサービス業であり、これと変わるところはありません。
クライアントの話を、全てをしっかりと受け取った時に、初めてこちらの手元にボールがやってくるのだということを忘れずに相談を受けましょう。
傾聴・相槌・共感
クライアントの話を全てしっかりと受けとることが大事だと言いましたが、そのためにも、クライアントが話をしやすいような聴き方をする必要があります。
まず、聴き方で大事なのは、「傾聴する」ということです。傾聴とは、クライアントの話をただ聞くのではなく、注意深く、丁寧に耳を傾けることです。
そして、自分の聞きたいことを聞くのではなく、クライアントが話したいことや、伝えたいことを、受容的・共感的な態度で真摯に聴くことです。それによって、みなさんのクライアントへの理解を深めると同時に、クライアントも自分自身に対する理解を深め、納得のいく判断や結論に到達できるようサポートするのです。
傾聴するというのは、慣れないうちは、やってみると意外と難しいものです。
クライアントが話している間、次に自分が話す内容を考えてしまったり、共感できない話は耳に入ってきにくかったりします。
まずは、純粋にクライアントの話に耳を傾けることが大切です。
ただ、傾聴すると言っても、だまってじっと聴いているだけでは、クライアントも話しにくいので、相槌を打ったり、うなずいたりしながら相手が話しやすいようにしましょう。
相槌も「はい、はい、はい・・・」ばかりでは、機械的な印象を与えてしまいますので、「はい」「ええ」「なるほど」「そうですか」などいろいろなパターンでうなずきながら聴くとよいでしょう。
クライアントの言ったことをそのまま繰り返すのも有効です。
例えば「手続きはかなり急いでいるんです・・」と言われたら「分かりました。手続きはかなり急いでいらっしゃるんですね。」と繰り返せば、クライアントにきちんと伝わっていると知らせる効果もありますし、こちらもしっかりと頭に入ってきます。
また、クライアントの相談内容に共感することも重要です。
クライアントは自分の気持ちを理解してもらえると安心して心を開くことができます。ただ、中にはどうしても共感できない内容の相談もあるかも知れません。
そういった場合に、正面から「それは間違っています」とか「私はそうは思いません」と言った言い方をすると、きっとクライアントはその瞬間に心を閉ざしてしまいます。
たとえ理解が違っていたり、共感できなかったりしても、クライアント自身がそのように考え、そのように感じているのだという事実そのものは承認できるはずです。
「なるほど、○○さんは、そのように感じて(考えて)いらっしゃるのですね。良く分かりました」という承認によって、クライアントは心を閉ざすことなく相談することができるのです。
傾聴し、相槌を打ち、共感しながらも、みなさんはプロフェッショナルとして、クライアントの話の中から手続きの要点や、要件事実を抽出して、不足している部分を聞き取り、手続きや解決方法の着地点を探っていかなければならないのです。
整理・確認
クライアントの話を聴き終わったら、最後にその内容をまとめて整理し、確認しましょう。
この時のポイントは、クライアントの気持ちや考えを考慮しつつも、手続きの要点や要件事実を中心に、整理し、確認することです。
手続きや解決方法を検討し、提示する前に、疑問点の確認や、聞き違い・認識違いが無いかの確認をしましょう。
少しでも疑問点が残っていたり、聞き違い・認識違いがあると、正確な着地点に到達することはできません。
この最終確認で、認識のズレなどが発覚する場合も少なくありませんのでしっかりと確認することが必要です。
基本的に、疑問点や認識の確認は、クライアントの話している途中で行うと全体像が見えず、横道にそれてしまう場合もあるので、どうしても途中で確認しないと先々の相談に影響が出てきそうなこと以外は最後にまとめて行うのが良いでしょう。
例えば、会社分割(新設分割)の相談を受ける際に「分割型」を「分社型」と聞き違えて、公告を省略する(分割会社が新設会社の債務を重畳的債務引受する)パターンでスケジューリングや見積りをしてしまうと、後から取り返しのつかないことになってしまいかねません。
このような言葉の聞き違いは十分に気をつけたいところですが、エンドクライアントの使う言葉も注意が必要です。
例えば、よく言われるところですが、「自宅の名変をお願いします。」という依頼をされたら、司法書士であれば、所有権登記名義人住所(氏名)変更が頭に浮かびますが、実際は、所有権の移転を「名義変更」、略して「名変」と言っていたりします。
そうかと思えば、本当に所有権登記名義人住所(氏名)変更のことだったりしますので、きちんと確認しなければなりません。
「相続の放棄をしたい」と相談をしてきた場合も、よくよく聞いてみると本当の意味の「相続放棄」ではなく「遺産分割」で不動産を取得しないことだったりします。
こういった点をふまえて、確認は一つ一つ、少ししつこいと思われるくらいの方が良いでしょう。