目次
はじめに(自己紹介)
こんにちは。司法書士の川嵜(かわさき)です。
ここでは、「民事信託は儲かるのか?」というテーマで、お話したいと思います。
私は新潟市で司法書士事務所法人の代表を務めており、8年前から民事信託を扱うようになって、これまで2冊の書籍を執筆・出版しています。
また、「民事信託監督人協会」という団体(全国にメンバーがいます)の代表理事を務めさせていただいています。
現在、信託のご契約は約100件ほどいただいており、信託の設定だけでなく、不動産の購入など信託を使った売買、信託の終了まで、信託を使ったさまざまな業務に携わっています。
民事信託の業務は儲かるのか?
さて、今回のテーマ「実際、民事信託の業務は儲かるのか?」についてなのですが、結論からいうと……“微妙”というのが正直なところです。
まず、利益率が低いです。
結局、ほとんどの業務を本職(司法書士)が動かないといけないという現実があります。
ですから、一人事務所の司法書士さんが会社の登記や決済、相続業務などを行いながら、時々、信託の案件があるとアクセントになっていくのかな、と感じますが、「信託の案件で儲けるぞ!」というのは難しい、というのが私の考えです。
もちろん、お金の稼ぎ方は人それぞれですし、私もすべての司法書士事務所の状況を把握しているわけではないので、なかには信託で大きな利益を上げている司法書士事務所もあると思います。
しかし、私がこれまで見てきた限りでは、なかなか厳しいと言わざるを得ません。
民事信託が難しい3つの理由
では、なぜ民事信託は儲からないのか、そのデメリット的な部分のお話をします。
理由①正直なところ手間がかかる
決済とは違い、信託というのは案件によって条件がバラバラです。
たとえば通常の不動産の決済案件であれば、次のような流れ、手続きになります。
(1)不動産がある
(2)住所変更が必要かどうか、抵当権抹消・設定があるかどうかの確認
(3)売買の登記
このように、ある程度、型にはめることができます。
極端なことを言えば、売却を希望するご本人の意思確認を本職がやりさえすれば、それ以外の部分では書類の受け渡しから書類の作成まですべて、スタッフに任せることができます。
ですから、ある程度案件を集めることができれば、やはり決済というのは司法書士にとっては利益が上がりやすい業務だと言えると思います。
ところが信託の場合、「家族信託」というくらいで、クライアントの家族構成がすべて違います。
ご家族それぞれの事情や考えも全部違いますし、家族の仲が良かったり、悪かったり。
そうしたご家族のコンセンサスをとっていかなければいけません。
財産の内容も額も、それぞれのご家族で違います。
現金、不動産、会社の株……さまざまな事情があり、信託の内容も違うなかで、それぞれの信託を設定していかなければいけません。
家族のコンセンサスをしっかりとっておかないと、あとで「トラブルの火種」を残してしまうことになりかねません。私も、あとになって怖い思いをしたことが何度もあります。
ですから、最初にしっかりコンセンサスを取ることが非常に重要になってきます。
となると、打ち合わせの回数が増えるわけですが、これをあなたの事務所のスタッフに任せることができますか?ちょっと難しいと感じると思います。
結局、本職がほとんどすべての業務を行わなければならなくなってくるわけです。
理由②信託に関する専門知識が必要
信託契約書の作成も、なかなかスタッフには任せにくいと思います。
信託は「作ったら終わり」ではなくて、作ったあとにいろいろなアクションがあります。
たとえば、不動産の売却を目的とした信託であれば当然、最後に売却が待っています。
自分で売却の登記をするのであれば、自分の責任で行えばいいのですが、信託の場合は他の司法書士さんが担当することもあるわけです。
すると、ある日突然、その司法書士さんからこんな連絡が来ることがあります。
「先生、この信託の案件ですが、本当に売買しても大丈夫なんですか?」
スタッフに任せた場合、その担当者がプロである司法書士に説明しなければいけないわけです。
また、信託というのは必ず終了しますから、最後にしっかり終了できないといけません。
ときどき、「これ、どうやって終了させるの?」という信託を見ることもあるのですが、おかしな信託を作ってしまうと、あとで自分の首を締めることになる場合があるのです。
ですから、やはりそれなりの知識が必要になるわけです。
理由③民事信託の受任は簡単ではない
ある程度慣れてくれば、信託を上手に作れるようになると思いますが、じつはもう1つ根本的な問題があります。
それは、信託の受注(受任)は難しいということです。
私は今でこそ、ある程度スムーズな受任をいただけるようになりましたが、新人の頃などは何度もつらい経験をしました。
クライアントにヒアリングを重ね、たくさんの資料を拝見しながら提案書を何日もかけて作成したのに、その提案書を提出した後、パッタリ連絡が来なくなってしまったという経験は何度もありました。
不動産の決済であれば、相見積もりで競合に負けることはあるかもしれませんが、何日もかけて提案書を作成したのに受任できませんでした、ということは通常ないでしょう。
民事信託というのは、目先の受任金額は確かにある程度の金額になります。
なぜなら、何度も打ち合わせが必要だし、契約書の作成にも非常に手間がかかるし、信託登記も簡単なものではないからです。
そうした手間や労力、受任できないリスクを考えれば、それ相当の金額になるわけです。
つまり、営業コストもかかってくるということです。
となると、報酬金額が大きいからといって、「民事信託は儲かりますよ」などとは言えないのです。
民事信託の魅力とは?
民事信託は利益率が高い業務ではありませんが、いい面もあります。
たとえば、クライアントとのつきあいが長くなることです。
売買問題、親の認知症、相続問題など何かの問題があったときは、頼りにされて連絡をいただくことが増えます。
信託をきっかけに、クライアントご家族と顧問的な関係を築くことができます。これは大きな魅力です。
「ライフ・タイム・バリュー(顧客生涯価値)」などと呼ばれますが、そこまでを考えて、しっかり管理できるのであれば、民事信託はいい仕事だと思います。
関係が深まっていくと、「この人のためにがんばろう」という気持ちになりますし、感謝されますから、仕事のやりがいを感じられます。これは決済では味わえない感覚です。
ただし、クライアントを生涯にわたって管理していくというのは非常に難しいことです。
そこで、民事信託管理人協会では、クライアントのこれまでの案件を管理するためのカルテを作成しています。
私たちは、これを「法カルテ」=「人を大事にするシステム」と呼んでいます。
クライアントをしっかり管理して、長いおつきあいを築きたいという司法書士の方は、ぜひ民事信託管理人協会のホームページを検索してみてください。