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司法書士業務のリスクマネジメントに関して【05/18】

司法書士のリスクマネジメントの必要性

クライアントの支持を受け、順調に事務所運営ができるようになったとしても、たった一つの行為が懲戒事由に該当し、業務を一定期間停止しなければならなくなったり、場合によっては業務禁止となり司法書士登録を抹消されてしまうことがあります。

また、クライアントに損害を与えてしまうと、多大な損害賠償責任を負担することになることもあります。
 
懲戒や損害賠償責任は、他人事ではなく、誰にでも起こりうる事務所存続に係るリスクです。
 
事務所を永続させていくためには、これらのリスクについてもしっかりと回避していかなければなりません。
 
ここでは、事務所のリスクマネジメントという観点から、司法書士の懲戒と損害賠償責任について見ていきたいと思います。

懲戒

懲戒リスクをマネジメントするためには、懲戒制度をきちんと知ることと、過去の懲戒事例を具体的に見ていくしかありません。
 
それを基に適正な業務を行っていくことが、懲戒リスクの軽減につながるのです。
 
ただ、過去の懲戒事例の中には、首を傾げなくなるものもあったり、同様の行為が地域によって懲戒処分の軽重が異なったりと、分析してもよく分からない部分もあります。
 
このようなことから、新人司法書士のみならず、既存の司法書士も「明日は我が身」とばかりに、どのような行為が懲戒事由に該当するのか分からないまま、身動きが取れにくくなってしまっているという話しもよく聞きます。
 
では、実際に数値としての推移はどのようになっているのか見てみましょう。
 
平成19年からの懲戒件数を見てみると、平成20年度の84件をピークに、平成21年度は50件と激減し、平成25年度に再び増加し平成26年度には減少に転じた。

(単位:件)
(司法書士白書より)

平成26年の全国の司法書士会員数は2万1366名で、それを平成26年度の懲戒件数の39件で割ると、およそ550人に1人の割合で懲戒を受けていることになります。
 
これが多いか少ないかは別として、実際の懲戒件数より我々が受ける印象は大きいのではないでしょうか?
 
これは、業務停止以上の懲戒が事務所存亡の危機と直結していることの他、懲戒事例が氏名も含めて公表され、その後の司法書士業務に大きな影響を与えるからなのではないか思います。
 
懲戒制度が司法書士の適正な業務を保持するためのものであることを考えると、過度に懲戒を恐れて身動きが取れなくなってしまうのは本末転倒ですが、懲戒を意識しながらも、実際の実務現場で適正な業務を行っていく心構えは大事なことには変わりありません。
 
司法書士の懲戒は、司法書士法47条及び48条に規定されており、司法書士法、司法書士法施行令、司法書士法施行規則、会則に違反する行為が懲戒事由になります。
 
懲戒処分の種類は、以下のとおりです。

司法書士
① 戒告 
② 2年以内の業務の停止 
③ 業務の禁止

司法書士法人
① 戒告 
② 2年以内の業務の全部又は一部の停止 
③ 解散

懲戒権者は、事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長ですが、司法書士法人の場合、違反行為が従たる事務所に関するものであるときは、従たる事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長も懲戒処分を行うことができます。
 
実は、この懲戒権者が法務局及び地方法務局長とされていることにより、問題が出てきました。

それは、懲戒の基準や、懲戒処分の軽重に、地域ごとのバラつきが出てしまうということです。
 
こういったことを解消するため「司法書士等に対する懲戒処分に関する訓令」(平19・5・17民二訓1081号訓令)が発せられました。

(注)令和2年8月1日から「司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律(令和元年法律第29号)」が施行され、司法書士及び司法書士法人に対する懲戒処分の権限が「法務局又は地方法務局の長」から「法務大臣」に変更されています。

参考資料:司法書士及び司法書士法人に対する懲戒処分の考え方(処分基準等)
https://www.moj.go.jp/content/001325581.pdf

法務省民二訓第1081 号

法務局長
地方法務局長

司法書士法(昭和 25 年法律第 197 号)第 47 条又は第 48 条の規定に基づく司法書士又は司法書士法人に対する懲戒処分に関する訓令を次のとおり定める。
平成 19年5月 17日

法務大臣 長勢甚遠

司法書士等に対する懲戒処分に関する訓令

(目的)
第 1 条 この訓令は、司法書士法第 47 条又は第 48 条の規定に基づき司法書士又は司法書士法人(以
下「司法書士等」という。)に対する懲戒処分を行う場合の基準及び同法第51条の規定による公告をする場合における懲戒処分の公表に関し、必要な事項を定めることを目的とする。

(懲戒処分の公正かつ適正な実施)
第 2 条 法務局又は地方法務局の長は、この訓令の定めるところにより、司法書士等の懲戒処分を公正かつ適正に行わなければならない。

(懲戒処分の基準)
第 3 条 司法書士等が行った行為が別表の違反行為の欄に掲げるものに該当するときは、同表の懲戒 処分の量定の欄に掲げる処分を標準として、懲戒処分を行うものとする。ただし、司法書士法人に対して懲戒処分をする場合には、次のとおりとする。

一 主たる事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長が懲戒処分を行う場合において は、別表の懲戒処分の量定の欄中「2年以内の業務の停止」とあるのは「2年以内の業務の全部又は一部の停止」と、「業務の禁止」とあるのは「解散」と読み替えるものとする。

二 従たる事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長が懲戒処分を行う場合において は、別表の懲戒処分の量定の欄中「2年以内の業務の停止」又は「業務の禁止」とあるのは「当該法務局又は地方法務局の管轄区域内にある当該従たる事務所についての2年以内の業務の全部又は一部の停止」と読み替えるものとする。

(情状等による加重及び軽減等)
第 4 条 前条の規定により懲戒処分を行う場合において、司法書士等が行った行為の態様が極めて悪 質であること、その行為の件数が多数であること等の相当の事由があるときは、同条の規定において行うものとされる懲戒処分より重い懲戒処分を行うことができる。

2 前条の規定により懲戒処分を行う場合において、司法書士等に特段の情状が認められるときは、同条の規定において行うものとされる懲戒処分より軽い懲戒処分を行うことができる。

3 司法書士等が行った行為が別表の違反行為の欄に掲げるものに該当する場合において、当該違反行為の態様その他すべての事情を勘案し懲戒処分を行わないことが相当であると認められるとき
(原則として同表の懲戒処分の量定の欄に掲げる処分に戒告が含まれているときに限る。)は、懲戒処分を行わないことができる。

(別表に掲げられていない違反行為の量定)
第 5 条 司法書士等が行った行為が司法書士法又は同法に基づく命令に違反する場合であって、別表の違反行為の欄に掲げるもののいずれにも該当しないときは、同欄に掲げる違反行為のうち当該行為に類似するものに準じて当該行為に対する懲戒処分を行うものとする.。

(公表)
第 6 条 法務局又は地方法務局の長は、司法書士法第 51 条の規定に基づく公告をする場合には司法書士等の個々の懲戒処分について、懲戒処分を受けた者の氏名又は名称、所属する司法書士会の名称、登録番号、事務所の所在地並びに処分の年月日、処分の量定及び処分の対象となった違反行 為を公表するものとする

附 則
この訓令は、平成19年7月1 日から施行する

 

更に、この訓令第4条で情状により、懲戒処分を加重または軽減できることを定めたものの、その基準を定めていなかったので「司法書士等及び土地家屋調査士等に対する懲戒処分の運用について」(平22・9・9民二2237号通知)が発せられました。

平成22年9月9日付法務省民二第2237号通知

法務省民二第 2237 号
平成22年9月9日

法務局民事行政部長 殿
地方法務局長 殿

法務省民事局民事第二課長

司法書士等及び土地家屋調査士等に対する懲戒処分の運用について(通知)

司法書士等及び土地家屋調査士等に対する懲戒処分については、平成19年法務省民二訓第1081号及び第1082号(以下「訓令」という。)の別表を標準として行うものとする(訓令第3条)が、具体的事案における情状等により加重及び軽減等をすることができるものとしています(訓令第4)。
ところが、具体的事案における情状等を考慮せずに訓令の別表をそのまま適用するなど、懲戒処分の運用が硬直的な事案も見受けられますので、懲戒処分を行うに当たっては、具体的事案の個別事情を十分に踏まえた柔軟な運用をする必要があります。
ついては、訓令第4条の情状等による加重及び軽減等を行う際には、例えば、下記の点を考慮要素とするのが適切と考えます。
なお、懲戒処分を行うに当たっては、客観的資料等により認定することができる事実を処分の対象となる事実とし、懲戒処分書においては、その事実及びどのような情状を加味して量定がされたのかを明らかにすべきことは当然のことですので、この点についても留意願います。

1 当該非違行為による関係者及び社会に与える影響の大きさ(例えば、当該非違行為が原因で関係者に経済的な損失が生じたか否か、生じた場合はその多寡)

2 当該非違行為の動機及び態様の悪質性(例えば、当該非違行為が反復継続されてきたものか、一回限りのものか)

3 被処分者が非違行為の調査に当たって自らの行為を申告する等調査に協力したかどうか

 
そして、上記訓令のもう一つの問題点として、訓令第4条3項の中で、懲戒処分を行わないことが相当であるときは、懲戒処分を行わないことができる旨の規定を置いていますが、これは「懲戒処分の量定の欄に掲げる処分に戒告が含まれているときに限る」ことになっていて、懲戒事例の多い「登記申請意思確認義務違反又は本人確認義務違反」などについて、懲戒処分に戒告が含まれておらず、処分を行わないことができなくなってしまっていました。
 
そこでそれを補うために出されてと考えられているのが、土手連絡(平24・4・25法務省民事局民事第二課事務連絡)です。
 
これによって、上記「登記申請意思確認義務違反又は本人確認義務違反」なども、懲戒処分を行わないことが相当であるときは、懲戒処分を行わないことができるようになったと解されています。

平成24年4月25日付法務省民事局第二課事務連絡(土手連絡)

事  務  連  絡
平成24年4月25日

法務局民事行政部総務課長 殿
地方法務局総務課長   殿

法務省民事局民事第二課 土手補佐官

司法書士等又は土地家屋調査士等に対する懲戒処分関係業務について

司法書士若しくは司法書士法人又は土地家屋調査士若しくは土地家屋調査士法人に対する懲戒処分については、司法書士等に対する懲戒処分に関する訓令(平成19 年法務省民二訓第1081号法務大臣訓令)及び土地家屋調査士等に対する懲戒処分に関する訓令(平成19 年法務省民二訓第1082号法務大臣訓令) (以下「各訓令」という。)により、その基準等が定められ、「司法書士等及び土地家屋調査士等に対する懲戒処分の運用について」

(以下「平成22 年通知」という。)により、各訓令の第4条の規定による情状等による加重及び軽減等を行う際の考慮要素等が示されているところです。
平成22年通知は、具体的事案における情状等を考慮せずに各訓令の別表をそのまま適用するなど、懲戒処分の運用が硬直的な事案が見受けられたことから、具体的な事案の個別事情を十分に踏まえた柔軟な懲戒処分の運用をするように、その考慮要素等を例示する等したものですので、標記の事務を行うに当たっては、再度、下記の点を確認願います。

1  各訓令の別表において懲戒処分の量定が2 年以内の業務の停止又は業務の禁止となっている違反行為について、平成22年通知の記1から3までに掲げた考慮要素を総合的に勘案すれば、量定を軽減すべき特段の情状が認められる場合には、各訓令の第4 条第2 項の規定により、戒告にすることができること。
2  1 の場合において、戒告にするのではなく、そもそも、懲戒処分を行わないことが相当であると考えられるときは、各訓令の第4 条第3 項の規定により、懲戒処分を行わないこととすることができること。

 
また、懲戒以外にも、司法書士法61条で、司法書士会の注意勧告処分が規定されています。
 
注意勧告は、所属会員が懲戒処分を受ける恐れがあると認めるときに、司法書士会がその会員に対して違反行為を未然に防ぐための指導として、注意勧告を行います。 注意勧告を受けた会員には、それに従わなければならない義務が課せられています。

それでは、具体的な懲戒事例をいくつか見ていきましょう。
 
尚、本来であればできるだけ数多くの懲戒事例を見ておいた方がよいのですが、紙面の都合上、今回は新人司法書士が遭遇しやすい実例を5例掲載します。
 
他にも、具体的な事例は、日本司法書士会連合会のホームページ、月報司法書士各号、日本司法書士会連合会発行「司法書士倫理解説・事例集(改訂版)」が参考になります。
 
また、懲戒事例と分析に関しては、「司法書士の責任と懲戒(石谷毅・八神聖著/日本加除出版)」(以下「責任」と記載します。)が非常に分かりやすくまとまっていますので、こちらも参考にしてみるとよいでしょう。

事例1 懲戒処分 1週間の業務停止
月報司法書士 2011年7月号 124項

1.事実
司法書士Xは、不動産仲介業者から、買主株式会社甲と売主A間の土地売買に係る所有権移転登記申請の依頼を受け、売主Aの自宅において本件土地の売買契約に立ち会った。同席者は、売主A、同人の二男とその妻であった。
 
司法書士Xは、売主Aが高齢であることから認知症の疑いがあると考え、二男に対し、Aの日常生活に支障がないか尋ねたところ、二男からは特に問題ない旨の回答を受けた。
 
そして、Aに対して「Aさんですね。」、「田を売るんですね。」と質問したところ、同人から「はい。」、「うん。」と返答があったので、意思能力に問題はないものと判断した。
尚、住所や生年月日は尋ねることはしていない。
 
後日、司法書士Xは、本件登記申請の委任状を作成するため、売主Aが入所していた施設を訪ね、同人に対して、売買契約に立ち会った司法書士である旨告げ、覚えているか尋ねたところ、「はい。」という返事があった。

そして、委任状への署名を促したが、Aの書く文字が判読できない状態であったので、二男が委任状に代筆した。実印の捺印も二男が行った。
 
司法書士Xは、管轄法務局に本件登記申請を行い、登記が完了した。
 
数日後、売主Aの長男が、本件土地の所有権が移転していることを知った。

長男は、売買当時のAの意思能力に疑問を持ち、同人の判断能力に関する医師の診断書を取り寄せたところ「高度の認知症を認め、自己の財産を管理・処分することは不能」と記載されていた。
 
長男は、司法書士Xに対し、Aの意思確認を尽くさなかった過失があるとして、管轄裁判所に損害賠償請求訴訟を提起し、裁判所は司法書士Xに対して損害賠償の支払いを命じた。

2.処分の理由
司法書士Xは、売主Aが高齢であることから認知症の疑いがあると考えたにもかかわらず、2度の面談においてAが単に「はい。」、「うん」と答えたことをもって意思能力を有していると判断し、施設や入院先の医療関係者等への問い合わせや掘り下げた質問をする等の必要な手続きを怠った。

コメント
本事例は、不動産売買の義務者が高齢者で、その意思確認の程度に問題があったと判断されたものです。
 
実際に実務を行っていると、このような事例に遭遇することは数多くありますので、決して他人事ではありません。
 
ケースによっては、意思確認が本当に微妙な判断となってくることもありますので慎重に行なわなければならないでしょう。
 
本事例から明らかなのは、単に「はい。」「うん。」という返答があったとしても、それをもって意思能力を有しているという判断の基準にはならず、もっと掘り下げた質問が必要だということです。
 
少なくとも住所、氏名、生年月日を尋ねることが必要になってくるでしょう。
 
また、施設の関係者や医療関係者などの話を聴き、意思能力の有無を判断していかなければならない場合もあります。
 
また、どうしても意思確認が取れないときは、一旦手続きを延期し、成年後見人の選任の可能性なども検討することが必要になってくるでしょう。

事例2 懲戒処分 3カ月の業務停止
月報司法書士 2009年5月号 108項

1.事実
司法書士Xは、乙株式会社からC所有の土地・建物について、乙株式会社を抵当権者、Cを債務者兼抵当権設定者とする抵当権設定登記の依頼を受けた。

ところがこの案件は、Cの妻(当時)とD(Cになりすまし)による詐欺事件であり、Cの妻が、Cの実印・印鑑証明書・健康保険証を持ち出し、運転免許証コピーを偽造してDがCに成り済まして登記申請を行わるものであった。
 
司法書士Xは、Dから登記済証が紛失したため提出できないとの虚偽の申告を信じ、本人確認情報提出のため、本人確認及び登記申請意思確認を行った。

この時面談したのは、CになりすましたDであり、偽造された運転免許証コピーとCの妻が持参した(真正な)健康保険証の提示により、本人確認をした。
 
司法書士Xは、運転免許証の原本の提示を求めて確認をしなかったにも係わらず、あたかも原本を確認したかのような記述をした本人確認情報を提供して、法務局に登記申請し、登記は完了した。
 
後日、Cの妻とDに対し、有印私文書偽造、同行使並びに詐欺罪による実刑判決が言い渡され、登記された抵当権は抹消された。

2.処分の理由
司法書士Xが、本人確認の際に、健康保険証については原本を確認したものの、運転免許証については原本を確認しなかったにもかかわらず、運転免許証の原本を確認したかのような記述をした資格者代理人による本人確認情報の提供を行ったことについて、なりすましの発覚を遅らせる大きな要因になっており、特に重大な責任があると言わざるを得ない。

コメント
この事例は、抵当権の設定登記の義務者になりすました人物を見抜けず、また、運転免許証のコピー(偽造)の確認のみで原本を確認しなかった事実が、本人確認義務違反に該当すると判断された事例です。

運転免許証以外の実印、印鑑証明書、健康保険証は真正なものであり、また、真正な所有者の妻(当時)も共謀していたことから、なりすましを見抜くには相当の注意を要する事案だったと言えます。
 
本事例では、資料からなりすましを見抜く唯一の手掛かりが運転免許証だったと思われますが、損害賠償の項でも述べたとおり、本人確認資料は全て原本の提示を求め、その外形も入念に確認することが重要です。
 
また、資料などの外形面のみでは限界もありますので、住所・氏名・生年月日・干支や、不動産を取得した経緯・権利証を紛失した経緯・その他本人しか分からないと思われるような情報を聴きとり、実質的な面からもひとつひとつ裏付けをとっていくことも必要だと言えるでしょう。

事例3 懲戒処分 1か月の業務停止
月報司法書士 2012年10月号 95項

1.事実
司法書士Xは、相続による所有権移転登記の依頼者から、司法書士の資格に基づいて処理すべき事件または事務に関する業務ではない預金等の相続手続きのために銀行に提出する戸籍謄本または住民票の写し等の取り寄せの依頼を受けた際、職務上請求書を使用して、戸籍謄本または住民票の写し等を請求し、その交付を受け、依頼者の依頼に応じていた。

2.処分の理由
司法書士が、戸籍の謄本もしくは抄本または戸籍に記載した事項に関する証明書及び住民票、戸籍の附票を職務上請求する場合には、当該司法書士が受任している事件または事務に関する業務を遂行するために必要があることを定めており、この「受任している事件または事務に関する業務を遂行するために必要がある」とは、司法書士が特定の依頼者からその資格に基づいて処理すべき事件または事務の依頼を受けて、当該事件または事務に関する業務を遂行するために必要がある場合とされている。

司法書士Xが、預金等の相続手続きのために銀行に提出する戸籍謄本等の取り寄せの依頼は、司法書士の資格に基づいて処理すべき事件または事務に関する業務ではない。

コメント
この事例は、職務上請求書を司法書士業務以外で使用してしまい、職務上請求用紙の不正使用等に該当すると判断された事例です。

職務上請求書の誤った使用による懲戒は、数多く見受けられますので、注意が必要です。

職務上請求書の使用前に、それが司法書士業務であるのかもう一度検討してから使用するようにしましょう。
 
尚、職務上請求書の具体的な使用方法については、日本司法書士会連合会発行の「司法書士のための戸籍謄本・住民票の写し等の交付請求の手引き(平成25年6月)」にも掲載されていますので、目を通しておくことをおすすめします。

事例4 懲戒処分 3カ月の業務停止
月報司法書士 2008年10月号 116項

事実
司法書士Xは、消費者金融会社から、債務整理事件をあっせんする対価として、司法書士Xが得る報酬の中から一定金額を紹介料として支払うよう要求され、破産事件1件につき約10万円、任意整理事件1件につき約5万円を支払うことを約し、継続的に紹介料を支払った。

尚、司法書士Xは、消費者金融会社に、「破産(予定者)より、返したい意向の人(任意整理予定者)をやらせてくれ」と依頼したり、夫婦の一方が破産予定者である場合は、その者に対しては貸付をせず、他方に貸付けて任意整理予定者とすることを教示するなどしていた。

コメント
この事例は、案件の紹介者に対する、バックマージンを支払った事例で、不当誘致行為に該当します。
 
今までの事例は過失的な要素があり、同じ司法書士として同情する余地もありましたが、このようなバックマージンは故意によるものであり、過去の事例を見ても懲戒は必然といえるでしょう。
 
本事例は、債務整理によるものですが、不動産業者に対するバックマージンの事例も多くあります。
 
私も、実際に事務所を経営していて、未だ不動産業者からバックマージンを要求されることが度々あります。(もちろん一切お断りしています。)
 
司法書士の中にはバックマージンを支払うことで継続的に業務を受託している事務所もあるという噂も聞きます。
 
もし、そのような事務所があるのだとしたら、その事務所はいずれ淘汰されるでしょう。なぜなら、クライアント(ここではエンドクライアントのことを言っています)の満足度を向上させ、支持されるという司法書士の本分から大きく外れている行為だからです。

事例5 3カ月の業務停止
月報司法書士 2011年2月号 102項

1.事実
司法書士Xは、自宅兼事務所において飲酒をした後、自家用車を運転し、誤って電柱に衝突した。司法書士Xは、危険回避のため車を移動させようとしていたところ、通報により現行犯逮捕された。

司法書士Xは、本件以外にも、酒気帯び運転による罰金刑及び自動車運転過失傷害罪による罰金刑に処せられている事実が判明した。

2.処分の理由
酒気帯び運転に対する厳罰化が行われた昨今の社会情勢において、司法書士Xの複数回にわたるこのような行為は、国民の権利保護に寄与すべき責務を有する司法書士としての自覚を欠き、司法書士に対する国民の信頼を失墜させ、司法書士の品位を害するものである。

コメント
本事例はいままでとは異なっていて、業務を行う上での行為ではなく、私生活上の行為が業務外非違行為(私生活上の非行)に該当し、懲戒となった事例です。

本事例は、複数回に渡る道路交通法違反があったという事情はあるにせよ、司法書士である以上、一般市民より高度な遵法精神が求められますので、私生活上でも刑事罰に該当するような行為はしないよう肝に銘じましょう。

損害賠償

懲戒と並んで、事務所存続の危機となり得るのが、司法書士の民事責任が肯定された場合の損害賠償の負担です。
 
司法書士の民事責任に関する判例は102件あります。(前掲「責任」85項参照)
 
このうち、責任が肯定されたのが54件で、否定されたのが48件です。
 
内容は、登記手続代理業務に関する判例がほとんどです。
 
不動産の登記手続きに関しては、一般的に不動産の金額が高額な故に、司法書士の責任が肯定された場合の損害賠償額も高額となっている事例も複数見受けられます。
 
このような事態にならないためにも、普段から基本に忠実に、本人確認、意思確認を行うとともに、疑わしいと思った取引に関しては、より入念に確認を重ねるべきでしょう。
 
また、万が一の時に備えて、司法書士の業務賠償責任保険の補償金額を上げておくことを検討する必要もあるかもしれません。
 
それでは、司法書士の損害賠償責任が肯定された事例をいくつか見てみましょう。

判例1 債務不履行による損害賠償 金1億1728万9560円
東京地判平13.5.10(判例タイムズ1141号198項)

本判決は、登記済証の偽造(運転免許証の偽造も)を看過して登記手続きを行ってしまったものです。

判旨において、司法書士は登記済証等の資料を調査確認する義務を負っており、偽造を看過したのは債務不履行であるとして、取引の損害額の6割を過失相殺し、司法書士に対して損害額の4割相当にあたる1億1728万9560円の支払いが命じられました。
 
判旨で、登記済証の偽造について、東京法務局管内の登記所における登記済印の下部のコード番号が記載されていなかったこと、登記済印が「平成壱壱年」と記載されていたことをもって、司法書士であれば、見破るのがさほど困難ではなかったと判断されています。
 
みなさんはこれを読んでどのように思われるでしょうか?
 
私個人の感想といたしましては、上記の偽造を見破るのはなかなか難しいように思います。
 
各法務局管内の取扱いを全て把握するのは困難ですし、特に新人司法書士が、決済現場でこれを判断するのは至難の業ではないでしょうか?
 
もちろん、決済現場で書面の偽造を見破ることができれば良いのですが、事前の確認や、書面以外の事実などから総合的に取引の真正を判断していくことが必要になってきます。
 
例えば、登記済証や運転免許証等の必要書類は事前にファックスやメールなどで、ひととおりコピーを入手し、入念に確認しておくなどの準備が大切です。
 
事前にコピーなどがもらえないような場合は、特に気を付けて確認しながら進めていかなければなりません。
 
本件では、事前に登記済証のコピーなどを入手できていませんでした。
 
また、一度司法書士の事務所で面談の予定でしたが、突然都合が悪くなったということで代理人と称するコンサルタント業者が来所するなど不自然な事実もありました。
 
このような点から、総合的に判断して、疑わしい取引は徹底して確認できなければ進めることができないという強い心構えが大切です。
 
司法書士の民事責任の判例には、このような偽造事件によるものが多数ありますので、特にまだ実務に慣れていない新人司法書士は注意が必要です。

1.事件の概要
不動産業者であるAは、平成11年7月20日ころ、Bの所有する本件土地を、分譲用地として購入することとした。そこで、Aは、顧問司法書士であるXに対して、本件土地の所有権移転登記手続きを依頼した。
 
司法書士Xは、同年8月9日、Aの取引金融業者であるCの事務所にて、本件土地の売買契約に立会い、自称Bの本人確認を持参した運転免許証(偽造のもの)で行い、同人が持参した本件土地の登記済証(偽造のもの)等の登記申請に必要な書類の提示を受け、その記載内容を確認した上で、Aに対し、添付書類に不備がない旨を告げた。
 
そこでAは、自称Bとの間で本件土地を3億円で買い受ける旨の売買契約を締結し、Cから借り受けた金員の中から、自称Bに対して売買代金を支払った。
 
Xは同日、東京法務局○○出張所において、本件所有権移転登記及び、Cの債権担保のため極度額3億6000万円の根抵当権の設定登記手続きを申請し、翌日に登記が経由された。
 
Xは、同月24日、東京法務局○○出張所に、補助者をして登記済証の受領に赴かせたところ、本件登記済証が偽造されたものであることを告げられ、金員を騙取されたことが発覚した。 

真実の所有者であるBは、A及びCに対してそれぞれ所有権移転登記、根抵当権設定登記の抹消登記手続きを求める訴えを提起し、すべて請求を認容する判決が確定し、いずれも抹消された。
 
そこでAは、司法書士Xに対し、登記済証が偽造されたものであること及びこれを提示した者が真の所有者ではなかったことが判明しなかったためであるとして、債務不履行に基づく損害賠償として約3億円を求めた。
 
なお、東京法務局所管内においては、平成8年12月1日をもって登記済印が改刻され、その際、登記済印の下部に7桁の数字による整理番号(コード番号)を記載する取扱いがなされるようになったが、本件登記済証にはコード番号が記載されておらず、また、登記済印の受付年が「平成拾壱年」であるべきところ、「平成壱壱年」と記載されていた。

2.判旨
司法書士が不動産登記の申請手続きを受任した場合、あくまでもその職責を遂行するうえで収集しうる資料に基づいて調査をすれば足りると考えられる。
その反面、不動産登記手続を適正に行うことをその本来の職務とするからには,申請手続を行うに際して取り扱う各種資料については,その体裁や記載内容を調査すれば、不合理な点があるか否かを知り得るはずであるし、また、手続きに関与する者に不自然な点があるか否かも経験上比較的容易に判明するはずである。

したがって,司法書士は,依頼された登記手続を遂行する過程において,申請添付書類,殊に登記義務者の権利に関する登記済証のように重要な書類が真正に成立したものであるか否かについては慎重に検討し,その職務上の知識及び経験に照らして、一見して直ちに分かるような記載内容について不合理な点があれば、これを調査して依頼者に告げるべき義務があるというべきである。

 
東京法務局管内の登記所においては平成8年12月以降登記済印の下部に7桁のコード番号が付記される取扱いがされており、本件登記済証にはこのような取扱いに反してコード番号が記載されていない。

また、真正な登記済証には登記済印の受付年として「平成拾壱年」 と記載されていることが認められるところ、本件登記済証には「平成壱壱年」と記載されている。これらは、いずれも被告が原告からの委任に基づき所有権移転登記手続を行う上で、申請添付書類として取り扱った資料の記載内容に存する不合理な点であり、偽造であることを窺わせる徴惣であるとみることができる。

そして、本件登記済証の登記済印の下部にコー ド番号が付記されていないことは一見して明らかであるから、前記のような調査義務を要求される司法書士がこれを確認した場合に、本件登記済証が偽造されたものであることを認識することはさほど困難でなかったとみることができるし、また、受付年の表示についても、該当欄を子細に観察すれば、その記載に疑念を抱くことができたと考えられる。

しかるに、被告は,本件売買契約に立ち会い、本件登記済証の記載内容を確認したにもかかわらず、前記の偽造を窺わせる事情を看過してその偽造に気付かず、原告に対して本件登記済証に不備がないと告げたのであるから、前記注意義務に違反し償務の本旨に従った履行をしなかったということができる。

判例2 不法行為による損害賠償 金1億7038万2500円 
東京地判平20.11.27(判例タイムズ1301号265項)

本判決は、登記義務者本人になりすました者を、本人であると誤認し、資格者代理人による本人確認情報の提供による登記申請を行ってしまったものです。
 
司法書士が本人確認した際、ケースに入ったままの運転免許証(偽造)を確認したことが、外観・形状の確認として不十分だったと判断され、司法書士及び当該司法書士が社員となっている司法書士法人に対し、不法行為による損害賠償として、請求金額の8割に相当する1億7038万2500円の支払いが命じられました。
 
前述した 懲戒の項では、本人確認資料(運転免許証)のコピーのみの確認で、原本の提示を受けなかったことが問題とされていましたが、本判決では、提示を受けた原本の確認方法が問題となっています。
 
本人確認資料は、その記載内容を確認するのと同時に、原本の提示を受けて、それを手に取り、外観・形状を確認し、不審な点がないか調査することが司法書士の義務とされています。
 
本事件での運転免許証は「本物と見間違うほどのものであった」(別件刑事事件にて他の司法書士が供述とのこと)ようですので、実際に偽造だと判断できるかどうかという問題もありますが、少なくとも原本を手に取り、外観・形状までを確認することを怠った場合には、司法書士の過失と判断されることになるでしょう。

1.事件の概要
Y司法書士法人の社員である司法書士Xは、知人の紹介によりBと会い、Bから新規事業のために現在父A名義の土地を担保に金を借りる予定である、A名義の土地は相続の前倒しでBが取得することになっておりAの協力も得られることになっている、権利証はない、との話を聞きAからBへの所有権移転登記を依頼されたため、Aの本人確認をすることになった。

司法書士Xは、平成18年11月15日、喫茶店において、Aと称する氏名不詳者(以下「D」という。)と面談をし、Dから印鑑証明書及び運転免許証の提示を受けた。
 
なお、本件本人確認の際、司法書士Xは、本件免許証がケースに入っていたため、ケース入りのまま確認をしただけで、ケースから取り出して手に取って材質、厚みを確認することなどはしていない。
 
平成18年12月6日、BとCは公証役場において、Bを売主、Cを買主として、本件土地について買戻特約付の売買契約を締結し、司法書士Xは立会人となった。
 
CはBに対し、翌7日、東京法務局○○出張所において、売買代金として2億円を支払った。
 
同日司法書士Xは代理人として、AからB、BからCへの所有権移転登記申請を行った。
 
AからBの登記申請には、司法書士X作成の本人確認情報が提出されていた。
 
ところが、Aからは平成17年11月10日付で「不正登記防止申立書」が提出されていたため、登記官においてAと面談をしたところ、Aは「本件登記申請の委任行為をしたことは一切ない。」「Xとも面識がない。」「押印されている印鑑も自分所有のものではない。」と申立て、更に登記官から調査を受けた司法書士Xも、A本人かの運転免許証と、Xが本人確認した際にDから提示を受け確認した運転免許証とは異なることを認めた。
 
その結果、AからBの登記申請は却下され、BからCへの登記申請も却下された。
 
そこで、Cは、本人確認情報を提供した司法書士Xと同人が社員となっているY司法書士法人に対し、過失があると主張して損害賠償を求めた。

2.判旨
司法書士X、Aとは面識がなく、平成18年11月15日の本人確認の際にAと称するDと会ったものであるところ、本人確認のための客観的な手掛かりとなる資料はDが提出した運転免許証のみであったことが明らかである。

そして、運転免許証に基づく本人確認が適正に行われるためには、その前提として運転免許証そのものが真正なものであることが必要であることは明らかなのであるから、本人確認を行う司法書士Xとしては、最低限本件免許証の外観、形状を見分して不審な点がないことを確認した上で、貼付された写真とDの容貌の照合等、本件免許証に記載された情報とDとの同一性を確認すべきであったというべきである(なお、本人確認のための証明書について、その外観、形状に異常がないかどうかを確認すべきこと、司法書士Xが所属する日本司法書士連合会においても、司法書士の義務と考えていることがうかがわれる。)。

ところが、司法書士Xは、Dからケースに入ったままの本件免許証を手渡され、中身をケースから出すこともしないまま、本件免許証が真正なものであると判断し、本件免許証に貼付された写真とDの容貌を照合して同一人物であると判断したものであるところ、ケース入 りのままでは運転免許証の外観、形状に異常がないかどうかを十分に確認することができないことは明らかである一方、中身の確認は容易に行うことができる事柄であることからすると、このような司法書士Xによる本件免許証の外観、形状の確認は、本人確認を行う司法書士に求められる確認としては不十分なものであったといわざるを得ない。

そして、司法書士Xが、本件免許証をケースから取り出して,その外観、形状を確認していれば、それが偽造運転免許証であることを発見できた可能性は十分にあったものということができるから、結局、司法書士Xは、過失によってDをAであると誤信して本人確認情報を作成し、それを信じた原告に本件売買契約を締結させたものというべきである。

判例3 司法書士が支払った和解金1014万3466円(このうち保険会社に支払い義務があるとされた金額金667万8450円)
名古屋地判平17.12.21(判例タイムズ1221号299項)

本判決は、前述の2例とは少し毛色の違ったものです。
 
司法書士(補助者)が相続人の調査を誤って、相続関係図に相続人でない者まで入れてしまい、税理士がそれを信用して顧客の相続税申告を行ったため、顧客に対し、過少申告による加算税及び延滞税が賦課されたという内容です。
 
本判決では直接司法書士の責任が問われたものではなく、既に税理士との間で司法書士が損害の一部を負担するという和解が成立しており、その賠償金を加入していた司法書士賠償責任保険契約の保険会社に求めたものの拒否されたため、保険金の支払いを求めて訴えを提起したものです。
 
本判決の中で、税理士にも相続税申告を誤ったことの過失はあるものの、それは司法書士が相続人の調査を誤った行為に由来するものであり、司法書士の相続人調査の過誤と過少申告による加算税及び延滞税の間には相当因果関係があり、司法書士に不法行為による損害賠償義務があると判断されました。
 
本件では、養子縁組前に生まれた養子の子が民法887条1項但書により養子を代襲して相続人にはなれないということを見逃して、誤って相続人と認定して相続関係説明図を作成したというものであり、新人司法書士としても十分にあり得る過誤ですので、気をつけなければなりません。

1.事件の概要
司法書士Xは、税理士Aを介してBの相続登記申請手続に必要な事項全般(遺産分割協議成立前においては相続人の調査・碓定及び相続関係図の作成、遺産分割協議、成立後においては相続登記手続)の依頼を受けた。
 
原告補助者は、遡って除籍謄本などを取寄せて相続人の調査を行ったが、本来、養子縁組前に生まれた養子の子Bは、民法887条2項但書により、養子を代襲して相続人となることはできないところ、誤ってB及びCを相続人として相続関係図を作成し、司法書士Xの確認を得ることなく、それをAに交付した。
 
上記相続関係図をもとに、C及びBが相続人として遺産分割協議を行い、遺産である複数の不動産の分割を行い、その結果を受けて、平成13年12月25日、同人らから依頼を受けたAが相続税の申告書を○○税務署に提出した。
 
司法書士Xは、平成14年1月9日、Aを通じてC及びBから各相続登記の委任状を受け取り、上記相続関係図をもとに登記申請用に作り直された相続関係図(遺産分割協議による遺産の取得者を特定した相続関係図を確認したが、相続人の記載の誤りに気づかないまま、 同年1月11日、同相続関係図を添付して各相続登記申請書を○○法務局に提出しその相続登記がなされた。
 
平成15年11月下旬ころ、税務署による税務調査の結果、相続関係図に誤りがあることが 判明した。そこで、Aは、平成15年12月17日、C一人を相続人とする相続税の修正申告書を提出し、また司法書士Xは、同月18日、C及びBの代理人として、 B名義になっている不動産の所有権抹消登記、同不動産のCへの相続あるいは真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記の各申請を行った。
 
Cは、修正申告により、過少申告加算税1335万1600円と延滞税372万1900円の合計1707万3500円 の財産的損害を被った。
 
また、上記のとおり登記申請を誤ったことにより、C及びBが再度登記申請を行うこととなり、余分な登記費用が発生した。
 
AはCに対して1521万5200円の和解金を支払い、Aと司法書士Xは、平成16年1月下旬頃、司法書士Xが和解金のうち3分の2である1014万3466円を負担する旨の和解をした。
 
司法書士Xはその和解金のうち一部につき保険金の支払いを求めたところ、保険会社から「相続関係図の作成はAが委任を受けた相続税申告に関する業務である」として保険金の支払いを拒否されたため争いとなった。

2.判旨
相続人の調査・確定は、主として被相続人の相続税申告のため、相続人を確定するためになされたものではあるが、将来、遺産分割協議をして遺産分割協議書を作成し、遺産である不動産につき相続登記申請手続をする上で不可欠な作業でもあり、法務局若しくは地方法務局に提出する書類である遺産である不動産についての相続登記の申請書類の作成に関して行う相談業務であるということができる。

したがって、司法書士Xの補助者が受任した相続人の調査・確定は、司法書士特別約款(保険金を支払う場合の業務)の「前号に関して行う相談業務」に当たると解される。
 
司法書士Xの補助者が、相続人の調査を行った際に相続人を間違えたことは、司法書士として業務上要求される相当な注意義務に違反するもので、過失があると解される。

そして、Aが相続税申告書の作成に当たり、相続人を間違えたのも、補助者が相続人の調査を行った際に相続人を間違えたことに由来するものと認められるから、補助者が相続人の調査を行った際に相続人を間違えたこととCが相続税申告を誤り過少申告加算税及び延滞税を負担せざるを得なくなったこととの聞には相当因果関係があるというべきである。
 
税理士Aについても、Cとの委任契約から相続税申告書作成に当たり相続人を調査・確認すべき義務があったにもかかわらず、これを怠った債務不履行があり、Cに対し、司法書士Xと連帯して損害賠償支払義務があったと言うべきである。
 
上記連帯支払い義務の内部的負担割合は、XとAの過失割合によりこれを定めるべきであるが、その過失割合は、X:1、A:1、と認めるのが相当である。
 
以上からすると、保険会社は司法書士Xに対し、保険契約に基づき、保険金の一部の支払い義務があると言うべきである。

業務賠償保険

前記判例3でありましたが、司法書士は司法書士業務賠償保険に加入することができます。

業務賠償保険は、司法書士であれば必ず加入しなければならない、強制加入部分と、任意で加入できる部分があります。
 
任意加入部分は最高で2億円までの保障を受けることが出来ます。
 
前記判例などからも分かるように、1億円を超える損害賠償の事例も複数あります。
 
高額な不動産などの登記手続きを扱う場合には、損害賠償も高額になり、万が一の場合に事務所を存続することが出来なくなる程のダメージを受けることになってしまいます。
 
少なくとも任意加入の保険には入っておいた方が良いように思いますが、金額の大きな案件を扱っていくのであれば、上限金額までの保険に加入しておくことをお勧めします。

このコンテンツは『司法書士研修ノート~開業・業務・事務所運営 実務アシストプログラム~/司法書士安井大樹 著』の内容に若干の編集を行い、その内容の一部をご提供いただき公開したものです。
掲載している内容は、発刊当時(平成26年)のものとなります。現在の実務とは一部異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。
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