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司法書士業務における提案・説明時のポイント【09/18】

手続き・解決方法の提示

相談を聴き、内容の整理と確認が終わったら、今度はみなさんから今後の手続きや解決方法を提案し、説明をしていくことになります。

手続きや解決方法を提案していくにあたってもいろいろなポイントがあります。

鵜呑みにしない

まず、初めの相談の時点で、クライアントが事前にいろいろと調べていて、例えば「自分の持っている不動産の贈与登記の手続きをやってほしい」などと手続きを具体的に指定してくることがあります。
 
そのようなときは、それを鵜呑みにして、クライアントに言われたとおりの手続きをとるのではなく、まずはその手続きの生み出す効果が、本当にクライアントの望んでいるものなのか疑ってみることが必要です。
 
そもそも、クライアントはどのような効果を望んでいるのかというニーズを考えるということです。
 
クライアントは専門家ではありませんから、インターネットや、一般書などの限られた知識で判断している可能性があり、その方法が望んでいる効果を生み出すのに間違っていることもありますし、間違っていなかったとしても後々クライアントが損失を受ける方法であることもあります。
 
例えば、前述の贈与の登記の場合も、クライアントは贈与税のことまで頭にないことがあります。
相続時精算課税制度や居住用不動産の配偶者控除などの制度を使って課税されないように考慮して贈与をしようと考えている場合などは別として、そもそも贈与税がかかる可能性があるけれど、それを承知の上で実行するのか、それとも売買などの他の手続きを行うかといったことを、こちらから他の選択肢を提示した上で、クライアントが真に望んでいる効果を達成するのに必要な方法を考えていくことが大切です。
 
もちろん、考えた上でクライアントが言う方法がベストならば、そのとおりの手続きを取ればばよいのですが、もし、異なった手続きの方がよいのであれば、そのメリット、デメリットも含めてクライアントに説明し、選択してもらう必要があります。

ポイントレッスン 相続人が持参した遺産分割協議書

ある日、私の事務所に、ホームページを見て相続登記の相談をしたいということで、クライアントがやってきました。

聴いてみると、本人(長女)の父が亡くなったそうで、相続人としては母、本人、弟(長男)の3名でした。
既に遺産分割協議書は自分たちで作成しているということで、戸籍等の収集と相続の登記手続きをお願いしたいとのことでした。
遺産分割協議書を見てみると、インターネットから書式をダウンロードして作成したとのことできちんとした体裁で出来上がっていました。
 
ただ、不動産の分割方法を見て、少し違和感を覚えました。

元々、父は、弟と自宅の土地建物を2分の1ずつ共有していましたが、今回の分割協議書の内容は、父の2分の1の持分を母4分の1、弟4分の1の割合で相続するというものでした。
結果として、弟4分の3、母4分の1の持分となります。更に詳しく聴いてみると、この家は現在弟と母が同居していて、将来は弟が受け継ぐ予定なのだということです。
 
また、父の財産総額は、相続税の基礎控除の範囲内で、相続税がかかる心配はまずなさそうでしたが、一方、母には他に自分名義の財産があり、現状で(父の相続財産を取得しなかったとしても)母に相続が発生した場合でも相続税がかかってしまう可能性があるという微妙なラインでした。
 
母も高齢でしたので、二次相続が発生するとまた母についての相続登記手続きが必要となることや、相続税がかかってしまう可能性も考慮すれば、この機会に弟の単独所有にしてしまえばよいのになぜこのような分割方法にするのだろうかと思いました。
 
たまにあることですが、母が持分を取得しないと、自分に自宅の権利がなくなってしまい不安なので、もしかするとそれを嫌がってのことなのかもしれないし、それとも他に何か事情があってのことなのだろうかと思い、クライアントに尋ねてみました。ところが、母は別にそんなことを気にしているわけでもでもなく、特にこれと言った事情もなく、単に、今実際に住んでいる弟と母で半分ずつ分けたら何となく平等だろうということで決めたのだそうです。
 
私は、それ自体は間違いではなく、その通りの分割方法も可能だが、二次相続でまた相続登記手続きが発生すること、相続税がかかってしまう可能性があることを説明し、もう一度分割方法を話し合ってみたほうがよいのではというアドバイスをしました。(もちろん、税金の相談は専門外なので、具体的な相談には乗れないこと、相続税に関する発言については責任を負うものではないこと、必要であれば税理士さんを紹介することも説明しています。)
 
クライアントはもう一度話し合ってみるということでその日の相談は終わりました。
 
数日後、クライアントから連絡があり、相続人全員で話し合った結果、今回母は持分を取得せず、弟のみが取得し、弟の単独所有にするとのことでした。
 
そして、「やっぱり専門家に相談して良かったです」というありがたい言葉をいただき、正式に登記手続きを受任させていただきました。

自分ならどうするかという視点

クライアントの相談に乗り、手続きや解決方法を選択していくとき、一度「自分だったらどうするか」という視点で考えてみましょう。
 
もちろん、クライアントと自分とでは、置かれている状況も違えば、生きてきた環境も考え方も違っている訳ですから、自分にとって最良と思われる手続きや解決方法がクライアントにとってそのまま当てはまるものではないかもしれません。
 
しかし、「自分だったらどうするか」という問いの答えが、おそらく、今自分の持っている知識と経験によって導かれる最高の答えなのだと思います。
 
つい、我々は司法書士として「一般的にはどうするか」という客観的視点から問題を解決しようと考えがちですが、クライアント側の主観的な視点から考えてみることが大切です。
 
また、手続きや解決方法の選択肢をいくつか提示する上で、クライアントからしてみれば、法律的な知識のない中で複数の選択肢を提示されたとしても、どうしてよいのか判断に困ってしまいます。
そこで、司法書士に対しては、客観的な一般論よりも「自分だったらこうする」という主観的な意見を求めていることが多いのです。
 
主観的な意見を述べる時に注意しなければならないのは、自分の考えを強引に押付けてはいけないということです。
ある程度実務経験を積んでくると、「この相談にはこの手続き」というような自分なりの確信が生まれてきて、クライアントにもそれを半ば強制してしまいがちです。
 
押付けられた解決方法では、後々クライアントの納得感が得られません。
 
あくまで選択するのはクライアントなのだということを忘れないようにしましょう。

付加価値を添える

誰でも、自分の負担を軽減してくれる人間を好ましく思いますし、余計な負担をかけてくる人間は敬遠したくなります。
 
我々も、具体的な手続きを進めていく上で、クライアントの負担になるようなことは、なるべくこちらで引き受けるということが、クライアントの満足度を向上させる付加価値になります。
 
例えば、クライアントとの打ち合わせの中で、次までに準備してもらう書類などを指示することがあります。我々にとっては何気なく指示しているつもりでも、クライアントにとってみれば、不慣れな書類を記憶することや、間違えずにメモを取ることは予想以上の負担になります。
 
クライアントにメモなど取らせることなく、後からファックスやメールで、こちらから案内をする旨を伝えて、その負担をこちらで引き受けることができれば、クライアントの負担は軽くなり、その分満足度も上がるでしょう。
 
逆に、手続きを進めていく上で気を付けなければならないのは、クライアントに余計な労力や時間をかけさせてしまうことです。
 
例えば、質問事項や確認事項をまとめて一回で聞けば済むところ、細切れで何度も聞くのは、クライアントの時間と労力を奪うことに他なりません。忙しい経営者の方などは、それだけ時間当たりの価値も高く、それを奪うことは専門家としてのスキルを疑われても仕方がありません。
 
私の事務所では、常日頃日頃から「一回で決める」ことを心がけて、できる限り初回相談後、一回に集約して打ち合わせをするようにしています。
 
このような少しの努力の積み重ねがクライアントの満足度を向上させ、ひいては事務所の付加価値を向上させるポイントにもなります。
 
新人のうちは、比較的一件あたりの案件にかけることができる時間もありますので、きめ細かいサービスで付加価値を提供していくことが司法書士間での差別化につながります。
 
「付加価値」といっても何も特殊な技術を提供するだけではありません。
このような微差の積み重ねがクライアントにとっての付加価値となるのです。

ポイントレッスン シュミレーションしてみる
 
新人のうちは、経験も少なく手続きの全体像が見えていないことも多いので、手続きをすすめていくうちにあれもこれも必要だったということになってしまいがちです。

このようなことを防ぐために、一度今手元にある情報だけで書類を作成し、手続きをシュミレーションしてみるとよいでしょう。

シュミレーションしてみると、不足している情報や、準備してもらう書類などがよく見えてきます。

手続きと費用

我々が手続きを行うにあたり、当然、クライアントに実費や報酬等の費用を負担してもらうことになります。
 
簡易裁判所訴訟代理業務や裁判所提出書類作成業務などにおいて、クライアントの資力が乏しく、費用の面で司法書士に依頼することが難しいと思われるような場合があります。このような場合は、民事法律扶助の利用も検討する必要があるでしょう。
 
※民事法律扶助については下記を参照

日本司法支援センター 法テラスHP
http://www.houterasu.or.jp/index.html

 
また、資力があるクライアントについても、そのクライアントがどこまで手続きについて費用をかけるつもりがあるのかという「費用感覚」の問題もあります。
 
我々が、クライアントにとって最良の解決方法を提案したとしても、その解決方法にかかる費用がクライアントの許容範囲外だとすると、現実的にいくら提案してもその解決方法をとるのは難しいでしょう。
 
ある程度クライアントの費用感覚を会話の中で掴みながら解決方法を考えて行くことも必要になってきます。
 
例えば、会社の登記手続きで「取締役を1人にしたい」という依頼があります。
 
登記事項証明書を見てみると、その会社が取締役会設置会社で、「当会社の株式を譲渡するには取締役会の承認を要する」といった譲渡制限規定が置かれていることがよくあります。
 
この場合、取締役を1人にするためには、取締役会設置会社の定めの廃止、監査役設置会社の定めの廃止、株式譲渡制限規定の変更、定款条項の大幅な変更等の手続きを取ることを余儀なくされます。
 
クライアントとしては、簡単に取締役を一人にできると思っていたのに、予想外の大手術と、高い費用の見積もりに驚くと同時に、これをどこまで実行するのかという選択を迫られます。
 
そもそも、そこまで費用をかけるつもりがなければ、手続き自体を見送ることもありますし、費用がかかっても実行する場合もあります。
 
更に、費用はかかってもよいので、この機会にできるだけ会社の定款規定も整備したいというニーズがあれば株券発行の定めを廃止する等、他の条項の整備にも着手することもあります。
 
これは、そのクライアントごとにこの手続きを取らなければならない理由と、費用感で異なってくるのです。
 
あまり費用をかけるつもりがないクライアントに、費用のかかる手続きをいくら進めても、それが実現することはありません。
 
クライアントの費用感覚を早めに把握しておくことが、そのクライアントニーズに沿った提案には欠かせないでしょう。

このコンテンツは『司法書士研修ノート~開業・業務・事務所運営 実務アシストプログラム~/司法書士安井大樹 著』の内容に若干の編集を行い、その内容の一部をご提供いただき公開したものです。
掲載している内容は、発刊当時(平成26年)のものとなります。現在の実務とは一部異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。
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