報酬、見積もり、費用の精算に関して
具体的な手続きや解決方法が定まったら、その実費と報酬を算定し、クライアントに説明しなければなりません。
報酬の決め方
実費は手続きごとに実際にかかる金額を計算すればよいのですが、報酬については、現在自由化されていますので、事務所の報酬基準によることになります。
もし、開業する場合は、事務所の報酬基準を定めておかなければなりません。
事務所の報酬基準を定める上で参考になるのが、①旧報酬基準、②日司連報酬アンケート、③「改訂版報酬のひろば―司法書士報酬のあれこれ―」の3つです。
① 旧報酬基準
司法書士の旧報酬基準は、平成15年1月1日をもって廃止されました。
それ以降、司法書士の報酬は自由化されていますが、周りの司法書士事務所を見ていると、報酬基準撤廃後もしばらく旧報酬基準に近い価格で業務を行っていた事務所が多かったように思います。(旧報酬基準については以下を参照)
今でも旧報酬基準に沿って業務を行っている事務所も少なくないと思いますが、司法書士業界全体を見てみると、事務所により報酬の価格帯がバラついてきているように思います。
参入障壁の高い専門的な業務を行う事務所は付加価値を高めていくと同時に報酬価格も高めに設定をしていますし、インターネットを中心に集客をしている事務所は価格競争が激化していて、どんどん薄利多売の傾向を強めているようです。
② 日司連報酬アンケート
平成25年2月に日本司法書士会連合会が全国の司法書士に対し、報酬に関するアンケートを取った結果が公表されましたが、その結果は、非常に興味深いものでした。
参照はこちら→日司連報酬アンケート(日本司法書士連合会HPより)
地域によって報酬の差が異なっている点と、同じ地域の中でも低額者と高額者の差が大きいことがよく分かります。
例えば、売買を原因とする土地1筆及び建物1棟(固定資産評価額の合計1000万円)の所有権移転登記手続の代理業務の場合、地方別に見てみると、近畿地方の平均価格が最も高く5万4800円なのに対し、最も安いのが北海道地区の3万3058円となっていて、2万1742円の開きがあります。
また、同じ近畿地方の中でも、低額者が約2万9000円で、高額者が約10万3000円と、実に7万4000円もの大きな価格差があります。
このアンケート結果は大変参考になりますので、みなさんも事務所を開業して報酬基準を作成する場合には、一度目を通しておくとよいでしょう。
③ 報酬のひろば
そのほかに、報酬設定の参考になるのが、東京司法書士協同組合の発行している「改訂版報酬のひろば―司法書士報酬のあれこれ―」という冊子です。
これも参考にしてみてもよいでしょう。
但し、私の周りの司法書士の話を総合すると、この冊子に記載してある報酬価格は、若干高めに設定してあるというのが共通した意見ですので、そのようなことも踏まえた上で参考にしてみて下さい。
旧報酬基準、日本司法書士会連合会のアンケート結果、改訂版報酬のひろばといった、報酬設定に参考となるものを挙げてきましたが、最終的には、開業する場合、自分自身がどの地域でどのような業務を行っていくかによって違ってくるものです。
事務所の報酬設定は、事務所のスタンスを決定することでもありますので、自分の事務所に合った報酬基準を検討し、設定しましょう。
見積もりの提示
積もりを提示する時に、気をつけなければいけないのが計算間違いです。
1度計算間違いして見積もりを提示してしまうと、その後これを訂正し、クライアントに納得してもらうのは至難の業です。
登録免許税など高額になることも多いので注意が必要です。見積もりを提示する前に、もう一度計算が間違っていないか入念にチェックすることが大切です。
計算間違いの他にも、手続の項目自体に漏れがないかも気をつけるようにしましょう。
例えば、抵当権抹消登記手続きを依頼されたのでその見積もりをしたところ、後から所有者に住所移転があったことが判明して、所有権登記名義人住所変更登記手続きの費用も追加で請求しなければならない場合などがあります。
このような場合も、一旦見積りを提示すると、クライアントはその金額で手続きできるものと思っていますので、後から費用の追加が発生してしまうと、納得が得にくいといえます。
このような漏れを防ぐためにも、事前にクライアントに手続きの内容を確認しておくことが必要です。
もし、仲介者などが間に入っていて、直接本人に確認しにくい状況であれば、見積書の備考欄に「所有者の住所移転がある場合は別途費用が加算されます。」といったような注意書きをしておき、後から手続きが追加になった場合には別途費用がかかることをアナウンスしておくとよいでしょう。
また、新人司法書士がやってしまいがちなのが、クライアントから「この手続きをお願いした場合報酬はいくらかかりますか?」という質問に、実費を除いた司法書士報酬のみの金額を答えてしまうことです。
ここでクライアントの聞いている「報酬」の意味は、実費を含めた全ての金額であることがほとんどです。
そもそも、登記にかかる費用の実費部分と司法書士の報酬部分の区別を意識しているクライアントは少ないと思ってよいでしょう。
司法書士の報酬部分のみ回答してしまうと、請求の段階になって、クライアントが思っているよりも大幅に高額な請求をされて驚いてしまいトラブルになってしまう恐れもあるのです。
クライアントから聞かれる「報酬」や「費用」などの言葉には、十分に気を付けて回答するようにしましょう。
概算での見積もりを出す場合、ある程度の下限と上限の幅をもたせて金額を提示する場合があります。
例えば、みなさんが「大体20万円から25万円くらいですね。」と言われたら、実際にかかる費用はどちらの金額に近い印象を持たれるでしょうか。
20万円でしょうか?25万円でしょうか?
人によっても異なると思いますが、一般的には、自分の都合のよい方の金額が印象に残るのではないでしょうか?司法書士からすると、「25万円までは提示した金額の範囲内」という考えになりがちですが、クライアントは「大体20万円くらい」ということが頭に強く残っているかもしれません。
にもかかわらず、司法書士が実際に25万円に近い金額の請求をすると、クライアントから「高い」という印象をもたれてしまいます。
ですから、私の場合は、「大体25万円くらいかと思いますよ。」となるべく上限の金額のみをとって、お知らせするようにしています。
安くなる分にはクライアントから不満が出ることはまずありません。
実務を行っていると、よく「費用は大体どのくらいになりそうですか?ザックリでいいので、教えてくれませんか?」と聞かれることがありますがこれにも注意が必要です。
「ザックリ」といえども、一度これを提示してしまうとあまりにも違った金額を後から出すことは難しく、ある程度これに拘束されると思った方がよいでしょう。
また、エンドクライアントとの間に、仲介者などが入っている場合も気を付けなければなりません。
たとえば、不動産の決済の場合など、仲介業者が直接売主、買主との細かなやり取りをしていることがありますが、「ザックリ」ということで伝えた金額が、売主や買主に、正式なお見積りのようなイメージで伝わってしまっていることがあり、後から説明するのに大変な思いをすることがあります。
費用に関しての行き違いはトラブルの元です。トラブルを防ぐためにも、口頭で概算を伝えるより、見積書を発行して、ある程度正確な金額を出すことが必要です。
時々、手元になにも資料がない状態で「ザックリと見積もりをだしてほしい」といわれることもありますので、この場合は、資料がなければ検討がつかない旨を伝えて、早めに資料をもらうようにしましょう。
私の場合、原則的に「ザックリ」費用を教えてほしいといわれた場合、「後から金額が変わってしまうとご迷惑をおかけしてしまうので、資料を拝見してから正式なお見積をさせていただきます。」というようにしています。
ただ、それでも「後から金額が変わっても文句は言わないので、大体の金額を教えてほしい」と食い下がってくるクライアントもいますので、このような場合は、全く費用の検討もつかない場合は別ですが、大よその金額が出る場合は、「後から金額が大きく変わる可能性があります。」ということをしっかりと伝えた上で金額を提示しています。
尚且つ、見積書の備考欄やファックス送信書にも、見積りの前提とした条件(例えば「固定資産評価額は○○万円として計算しています」など)や「金額の増減が見込まれます」といったような記載をしておくようにしています。
請求書、領収書
司法書士の発行する領収書に関しては、司法書士法施行規則第29条に、報酬額の内訳を詳細に記載した領収書に職印を押印し、依頼者に交付しなければならない旨の規定が置かれています。
一般的に、請求書と領収書は同一の書式で、A4またはB5の用紙に各手続き項目別に、報酬部分と実費部分を分けて記載していることが多いかと思います。
請求書・領収書のフォーマットは、エクセルで自作のものを利用している事務所もありますし、司法書士用のソフトを利用している事務所もあります。
司法書士用のソフトは、PCで検索すると無料のものからソフト会社の有料のものまで数多くあります。事務所を開業する場合には、自分の利用しやすいものを使うとよいでしょう。
請求書・領収書は、できれば売上のデータの蓄積や、未収金の管理と連動できるようにするのがベターです。案件が多数になってくると、売上の管理や未収金の管理といった経理事務が大変になってきますので、請求書・領収書と一元管理できれば二度手間にならず、時間短縮になります。
また、税務調査が入ったときなどは、売上のデータの提出が必要になる場合もありますので、請求書を発行したら自動的にそのデータの保管ができていれば、あとから困らなくて済むでしょう。
司法書士事務所にも税務調査は入ります。私の事務所も開業6年目で初めての税務調査を受けました。
税務署からは調査官が2名事務所にきて、まず入念に確認されたのは「売上を抜いてないか」ということです。つまり、実際には売り上げがあるのに、計上せずに低めに申告していないかということです。
もちろん、私の事務所ではきちんと経理処理や申告を行っていたので、全く問題はありませんでしたが、過去数年分の通帳、請求書控え(紙での控え)、請求書データ一覧(プリントアウト)、司法書士会への事件数の報告書控え、総勘定元帳などの提出を求められました。
膨大な量でしたので、調査官がそれを税務署に持ち帰り、数週間に渡って内部で調査したようです。
その間、いろいろな質問を受け、それに全て回答してようやく不備が無いことを理解してもらいました。通常業務を行いながら調査に対応するのはなかなか大変な作業でした。(調査官の方も大変だったと思いますが。)
過払いバブルの頃は、司法書士が「狙い撃ち」されているというようなことも聞いたことがありますが、何となくまだその名残があるような気がしました。
税務調査でもスムーズに資料を提出できるように、普段からきちんと経理処理を行っておくことが重要なのだと身をもって感じました。
費用精算のタイミング
司法書士業界では、クライアントの支払うべき実費を立替えて負担しておき、案件完了後に精算するということが多く行われています。
特に登記業務などでは、「登録免許税の立替えで事務所のキャッシュフローが苦しい」といったような話も聞きます。
業務の流れによってはその方がスムーズにいくこともあるのかもしれませんが、個人的にはあまりよくない風習だと思っています。
本来クライアントが負担しなければならない実費を立替えるということは、無利息でクライアントにお金を貸しているようなものです。
金融機関から借入をして開業している司法書士にとっては、自分は金融機関に利息を支払い、一方でクライアントに無利息でお金を貸しているような状態では、それだけで損失が発生することになってしまいます。
また、資金の限られている新人司法書士にとっては、営業に使えるはずの資金が、立替のための確保で足りなくなってしまい、身動きが取れなくなる可能性もあります。
費用はできる限り、実費の発生前に精算した方がよいでしょう。