検索
検索画面を閉じる

司法書士事務所の運営について【15/18】

事務所運営

せっかく一生懸命営業をして依頼を受けることができたとしても、事務所運営がうまくいっておらず、クライアントに満足のいくサービスを提供できなければ、クライアントは離れて行ってしまいます。

そのようにならないためにも、しっかりとした事務所運営をしましょう。

理念

事務所をしっかりと運営していくためには、まず、理念を持つことが大事です。

理念とは、「何のためにこの事務所が世の中に存在するのか」ということです。

いわば、事務所の根本的な存在意義であり、全てのサービスの土台となります。

この土台が揺らいでしまっては、安定したサービスはできず、その場凌ぎの対応になってしまいます。

何か迷うようなことが起こった時は、理念に立ち返って考えれば、決して誤った方向には行かず、クライアントに対しても一貫した揺るぎないサービスが提供できるのです。

ポイントレッスン 事務所理念
参考までに、私の事務所の理念を掲載いたします。

自分の事務所なりの理念を作ってみてください。

<安井事務所理念>
われわれは、司法書士業務を通じて依頼者の問題を解決し、安心と笑顔と感動を捧げ、全所員の物心両面の幸福を追求し、もって社会の幸福循環に貢献します。

開業後の自己評価基準

適正な事務所運営を維持するためには、良い点は伸ばしていき、改善すべき点は直ちに改善していかなければなりません。

しかし、開業すると周りには自分を評価してくれる上司も先輩も同僚もいません。自分を客観的に評価するのは、クライアントしかいないのです。クライアントから良い評価を受ければリピートという形になって現れますが、悪い評価を受けてしまうとクライアントはただ黙って去っていくのみです。
 
クレームを受けるのはある意味で反省点が分かりやすくまだ改善のしようがありますが、黙って去っていってしまうと、自分のどこが悪かったのか分かりませんし、そもそも自分が悪い評価を受けていること自体に気づかない可能性もあります。

そこで、常に適正な自己評価をし、改善していく心構えが必要になってきます。
 
その自己評価の1つの基準としたいのは、「自分なら自分に頼むか」という自分自身に対する問いかけです。

つまり、もし自分がクライアントの立場で、司法書士に依頼しなければならなくなった場合、世の中に数多く存在する司法書士の中で、あえて自分に依頼するかどうかということです。

答えがNOであれば、サービスのどこかに良くない部分があるということです。

厳しい言い方ですが、自分が頼みたくないようなサービスを、他人が頼みたいと思うはずがありません。

どうして、自分に頼みなくないのかを徹底的に分析して、改善していく必要があります。

常に「自分なら自分に頼むか」ということを意識して業務にとりくむようにしましょう。「自分なら自分に頼む」と言いきれたときに、クライアントにとっても嘘のない最高のサービスが提供できるのです。

タイムマネジメント

開業したての時間があるうちはよいのですが、リピーターが多くなり、仕事量も多くなってくると、どうしても時間が足りなくなってしまいます。

それ自体は嬉しいことなのですが、同時に、クライアント一人一人にかける時間も少なくなってきて、ミスも出始めてきます。これでは、クライアントの満足度を低下させてしまいかねません。
業務を効率化し、時間を有効に活用することが必要です。
 
時間を有効に活用するためには、意識的にタイムマネジメントすることが大切です。やらなくてもよいことや、優先順位の低いことに時間を割いてしまうと、本当にやらなければならない事をする時間が無くなってしまいます。
 
タイムマネジメントの基本は、自分のやるべきことを明確にして、それに優先順位をつけていくことです。そして、その優先順位を基に一日のスケジュールを組んでいきます。

原則的に優先順位の高いものから着手していきますが、優先順位の高いものが、ボリュームが多くて重たいもののようなときは、あえて時間がかからず簡単にできるような仕事から着手して、勢いをつけてから取りかかるのもよい方法です。
自分なりのタイムマネジメント術を身につけましょう

ポイントレッスン 簡単なメール術
 
メールも効率的に処理していく必要があります。業務を行っていると、クライアントとのやり取りのメールや新規問い合わせのメール、営業メールや迷惑メールに至るまでいろいろなメールが来ます。

メールの量が多くなってくると、必要なメールが埋もれてしまって、緊急のメールを放置してしまったり、返信しなければならないメールに返信を忘れてしまったりするリスクが生じます。

メールを受けたらできるだけ早急に、必要なメールと不要なメールを区分けする必要があります。

私の場合は、メールソフトを開いたらまず受信トレイを見て、不要なメールをどんどん削除していきます。
これだけで受信トレイが大分すっきりします。
 
不要なメールをすべて削除し終わったら、今度は返信が必要なメールにフラグを立てていきます。

こうしておくと、一目瞭然で、メールの確認漏れや返信忘れを、かなりの確率で防ぐことができます。
 
また、定期的に送られてくるメールは自動的に受信トレイとは別フォルダに入るように設定しておくと、さらにスッキリします。
ぜひ、参考にしてみてください。

雇用

また、自分だけでできる仕事量にも限界がありますので、仕事量が限界を超えるようであれば、人を雇用して仕事を手伝ってもらうことも考えなければならないでしょう。

人を雇用する具体的なタイミングは、自分の処理できる仕事量が限界に達する前がよいでしょう。

人を採用しても即戦力ということはなかなか無く、まずは事務所の業務内容や業務の流れといったことを覚えて慣れてもらうことが必要だからです。

たとえ実務経験者を雇用する場合でも、事務所によってやり方やシステムが違っていることも多いので、慣れるまである程度の時間を要するものと考えておいたほうがよいでしょう。

売上的な側面から言えば、一般的な登記中心の事務所だと、年間800万円~1000万円程度の売り上げになったら1人目を採用している事務所が多いようです。

良い人材を確保できるかどうかは、採用でほぼ決まります。
もちろん、採用後のトレーニングでよい人材に育てていくという要素もありますが、事務所の求めている能力とその人材の持っている能力や、事務所とその人材との根本的な考え方や方向性が異なっていたら、教育ではカバーしきれません。
 
採用前に、①どのような人材に②どんなことをやってもらいたいのか、明確にしておく必要があります。
 

①どのような人材に

どのような人材を採用するかを考える上で、自分に性格が合うか合わないかということが非常に重要です。

性格の一致、不一致は、一見仕事とは関係ないように思うかもしれませんが、これから、大部分の時間を共有するわけですから、性格の不一致は大きなストレスになり、結果として仕事の効率を落とすことにつながります。

例え採用してその人材が、仕事ができるようになってきたとしても、ゆくゆくは性格の不一致がもとで、事務所を辞めてしまうかもしれません。

そうすると、今までの教育にかけた時間や労力はすべて失われて、もう一度新しい人材を採用するところからやり直しになってしまいます。

そのようなことを防ぐ上でも、自分が求めている人材はどういった性格なのか、「明るい人」なのか「真面目な人」なのか「落ち着いた人」なのか、年齢はいくつくらいがよいのか、男女どちらが良いのかといったように具体的に考える必要があるでしょう。

また、事務所と人材の求めているものが合致しているかということも大事です。

例えば、事務所側が「給料は多く出せないけれど、いろいろな実務経験を積める事務所」という価値を提供し、人材を採用しても、人材の方で実務経験より「高額な給料」を求めていたとしたら、長くは続かないでしょう。

また、資格者を雇い、将来はパートナーとしてともに運営しようとしても、資格者の方で独立志向が強く、自分の事務所を開こうと考えていれば、それは叶わないでしょう。

このようなミスマッチをなくすためにも、面接時に入念なヒアリングをして、人材側の求めているものを聞き出す必要もあるのです。

そして、次の「②どのような仕事をやってもらいたいのか」によってもどのような人材が良いのかは変わってくるでしょう。

②どのような仕事をやってもらいたいのか

どのような仕事をやってもらいたいかということも、きちんと考えておく必要があります。

それには、自分の事務所の業務内容を見直してみて、どの部分を手伝ってもらえば、負担が軽減されるのかを明確にしなければなりません。

例えば、法務局や各役所への書類の提出であったり、クライアントへの書類のデリバリーや簡単な文章の作成であればパートやアルバイトを雇えば足りてしまいます。

申請書の作成や議事録等の作成のような、法律的な知識が必要となる業務を手伝ってもらいたい場合は、ある程度勉強の進んでいる司法書士受験生などである必要があります。

また、クライアントの法律相談を直接受けてもらいたいということであれば、司法書士の資格者を雇って、司法書士登録してもらうことも考えなければなりません。

思ったような採用効果を得るためには、以上のような事を踏まえて採用していくことが大切なのです。

所員トレーニング

人材を採用したら、事務所のルールや、業務内容、仕事の流れなどを知ってもらい、いち早く戦力になってもらわなければなりません。
 
新規採用した所員のトレーニングは、最初の一週間が非常に重要です。この一週間のトレーニングが、その後の所員の事務所での行動に大きく影響を及ぼします。

その中でも1番大事なのはルールです。やってはいけないこと、やってほしいことなどをこの一週間で身につけてもらいます。
 
そのためにも、トレーニングに入る前にガイダンスなどを行い、事務所のルールをきちんと説明しておくことが大事です。
 
この一週間のトレーニングを通して、新入所員のルールから外れた行動や、気になる行動は、一つ一つきちんと指摘して修正していく事がポイントです。
いちいち指摘することは、こちらにとってもストレスのかかる事ですが、指摘しなければ新入所員も気づかずにいつまでたっても変わりようがありませんし、こちらが我慢して後から耐えきれなくなってしまうよりは、お互いにとって早い段階でこのような芽を摘んでおくのは良い事なのです。
 
事務所のルールという共通の認識を持つことができれば、結果として後から注意することも少なくなりますし、ルールに沿って気持ちよく仕事ができるようになるのです。
 
最初の一週間のトレーニングが終わり、ルールを共有できたら、後は実際に業務を行いながら、具体的に一つ一つ教えていけばよいでしょう。
 
その中で、また新たに問題が出てきたら、その都度話し合わなければなりませんが、その際に気をつけたいのは、新入所員に対してこちらから一方的にものを言ってしまうことです。

新入所員も一生懸命仕事をしようとしてのことですし、慣れない仕事を行う中での認識のズレというものがほとんどですから、その理由をきちんと聞き、理解するよう努めましょう。そうやって業務を行う上での認識を、更に少しずつ共有していくのです。

また、時には強く指摘しなければならないような場面もあるかもしれません。

例えば、怠慢な勤務態度だったり、中途半端な仕事ぶりのような場合は、クライアントに迷惑をかけることになってしまいますので、強く指摘し、修正をしていかなければなりません。

このような場合でも、人前で指摘するのは避けましょう。
人前で指摘するのは、その所員のプライドを傷つけることになってしまい、また別の問題に発展してしまいます。
できる限り、個別に呼び出して、他の所員に聞こえないところで話をするようにしましょう。一方、ほめる場合は人前でほめるのが良いでしょう。

ポイントレッスン 新入所員向けガイダンス例

私の事務所では、初日に1時間程度、新入所員にガイダンスを行います。
以下は、実際にガイダンスで説明する事項を簡単にまとめたものですので、参考にしてみてください。

<はじめに> 
安井事務所で働く上で大切なこと
・司法書士の仕事は細かくて、責任が重大。信頼が大事。
・安井事務所は信頼、誠実さがモットー。
・ひとつひとつの行動で信頼を重ねることも失うことも。→靴の揃え方、言葉遣い、整理整頓など
・細かい注意点を一度に説明不可→気づいたときにその場で指摘、指示。
・指摘、指示は前向きに捉えて積極的に業務に励んでほしい。
・指摘、指示したことはすぐに直せば問題なし。

<実務的な注意事項>
○資格者特有の注意点
・法律知識は既にあるという前提 
・実務のやり方はゼロから教える →業務は知識が有るのみでは× 謙虚に学ぶ姿勢で
・実務の考え方は安井、ソフト操作などは先輩から

○心構え
・できなくても折れない。腐らない。
・できてもいばらない。天狗にならない。

○守秘義務について
・お客様が安心して相談できるように 
・損害賠償の対象

○細かい部分に注意を払い、何度も確認すること
・一文字のミスが命取り

○書類の取り扱いは丁寧に
・絶対に無くさない  
・折り曲げたり、汚したりしない

○プロとしての仕事をする
・このくらいでよい× 中途半端な仕事はしない  
・お客様はプロとして見ている
・業務に妥協はない。完全な仕事でなければ何度でもやり直ししてもらう

○分からないことがあった時はどんどん聞くこと
・まとまって教わる時間は少ない

○ホウレンソウ(報告、連絡、相談)は必ずする

○職場環境について。先輩との関係
・お互い誠実に働きやすい職場つくりに配慮すること。

<連絡事項>
○掃除について
・原則的に毎日行う→机、棚、台所、洗面所などの水拭き、トイレ、掃除機、窓拭き、玄関など  
・その他気づいたところは気づいたときに

○昼食について
・自分でとってもらう 
・原則12時~13時が昼休憩、但し業務の状況によりずれる場合あり

○携帯電話の使用について
・業務以外の使用は禁止 
・通話及びメールのみ使用、WEB等には接続しないこと
・通話、通信明細は毎月取得

○PCメールについて  
必要なときは内容を見るときもある

○持参物  
スリッパ、コップ、飲み物、書籍、筆記具など

○定期券、交通費について  
・私用は禁止 
・スイカは一定期間ごとに履歴提出

<主にやってもらいたいこと>
①書類作成
・申請書類、添付書類、封筒、送付書類、その他
・理想は案件を渡して全て完成してもらうこと

②法的判断、調べ物、リーガルチェック

③電話対応
・基本スタンスは笑顔、明るい声、丁寧に。
・当面はその場で法律的な判断はしない。→「確認して折り返します。」
・安井の外出中は電話があったことのメモをとる(何時何分、誰から、相手の電話番号、こちらから電話をかけるのか先方からの電話を待てばよいのか)
・「先生」×  「安井」○
・ビジネスマナーはしっかりと
 「はい、安井事務所でございます。」
 「いつもお世話になっております。」
 「少々お待ち下さいませ。」
 「申し訳ございません、只今安井は外出して(席を外して、他の電話にでて、接客中です)おります。戻り(終わり)次第こちらからお電話致しましょうか?」

ESがCSを生む

ESとは、Employee Satisfactionの略で、従業員満足のことで、CSとは、Customer Satisfactionの略で、顧客満足のことです。

ESとCSは対比して語られることが多いですが、ESを向上させていくことが、CSの向上につながると言われています。自分自身が満足していない従業員が、自ら積極的に顧客満足を向上させていくことはできないからです。

平成25年度新入社員の「働くことの意識」調査結果(公益財団法人日本生産性本部調査研究)によると、新入社員への「会社を選ぶときにどういった要因を重視したか」という質問に対して、最も多かった回答は「自分の能力、個性が活かせるから」が35.8%で、以下「仕事が面白いから」が22.3%、「技術が覚えられるから」が8.9%という回答でした。

一方、「給料が高いから」という理由は2.3%、「労働時間が短く、給料が多いから」が0.4%と低い割合になっています。

また、就労意識の調査では、「社会や人から感謝される仕事がしたい」という結果が第1位で、95.7%の人がそう思っているということです。

このことから見えてくるのは、ESは、給与や待遇面というよりも、その会社で自分は何をできるのか、自分がどのように成長できるのか、その会社が社会に対しどのような価値を提供するのかという内面的要因によって左右されるということです。ESを向上させていくためには、会社はこのような価値を従業員に提供し続けていかなければならないのです。

もちろんこれは、司法書士事務所においても当てはまります。所員を雇うようになったら、その所員たちが活き活きとモチベーションを高く働ける環境を整備することが、結果としてクライアントの満足度を向上することにつながるのです。

では、具体的にどのようにして所員満足を向上させていけばよいのでしょうか。それには、大きく分けて以下の4つの重要な要素があります。
 
① 理念の共有
② コミュニケーション
③ 「やりがい」
④ 職場環境・労働環境の整備

① 理念の共有

まず、理念を共有することは非常に大事です。前述したとおり、事務所理念は、全てのサービスの土台となります。
所員がそれぞれクライアントにサービスを提供する上で、土台となっている考え方が分からなければ、案件ごとに場当たり的なサービスになってしまい、一貫した良いサービスは提供できません。これでは所員のフラストレーションになってしまいます。
 
事務所の理念を理解し、共有してこそ事務所の方向性と一体化した心からのサービスができるのです。

また、そもそも事務所の理念と所員の向かう方向性が大きく違っていたら、その所員にとって事務所にいること自体がストレスになってしまいます。
採用の段階で、その所員と事務所の理念が共有できるのかどうかということから確認が必要なのです。理念が共有できないのであれば、採用自体見送ることも必要でしょう。
 
また、理念とともに、行動指針を共有することも大切です。行動指針は、理念に基づいて、具体的にどのような行動をすればよいのかということを明文化したものです。

これを共有することによって、事務所理念から大きく外れることなく具体的な行動をとることができるのです。

ポイントレッスン 行動指針
私の事務所でも、理念に基づいた行動指針を掲げています。参考にしてみてください。

<行動指針>
1.われわれは、一人一人がプロフェッショナルです。法律能力を駆使して依頼者の問題を解決し、完全な書類を作成し、妥協のない徹底した仕事をします。
2.われわれは、プロフェッショナルであるとともにサービス提供者でもあります。依頼者に対して誠実で感じのよい対応をします。
3.われわれは、他の所員にサポートが必要な状況のときは、自らそれに気づき、率先して協力し、所員が一丸となって業務に取り組みます。
4.われわれは、業務を通して自己の限界を突破し、人間力を高め、人格を磨き続けます。

② コミュニケーション

事務所内でのコミュニケーションは大きく2つに分けられます。

一つ目は、所長と所員とのコミュニケーションです。
所員にとって、事務所の所長というのは近くて遠い存在です。もちろん使用者側と被用者側という関係性もありますが、司法書士事務所においてはそれだけではなく、所員が所長の下で「修行」をし、プロフェッショナルとしての知識や実務経験を身につけるといった徒弟制度的な要素が大きいのです。

そのような中で、所員にとって所長とコミュニケーションをとるというのは、こちらが思っている以上にハードルが高いことなのです。
ですから、所員からのコミュニケーションを期待せず、こちらから積極的にコミュニケーションをとるように心がけるようにしましょう。
コミュニケーションといってもそう難しいことではありません。
まずは、所員の話に耳を傾けることです。

所員が、何を思っているのか、気になっていることはないか、問題を抱えていないかなど、仕事上のことかプライベートにかかわらずありとあらゆることに耳を傾けるのです。

そのためには、日ごろから所員に声をかけ、コミュニケーションをとり、正直に話ができる関係を築いていくことが大切です。
場合によっては、きちんと時間を取って個別にミーティングをするなどしても良いでしょう。
 
二つ目が、所員同士のコミュニケーションです。
所員同士のコミュニケーションは、職場を明るくし、業務を円滑にします。
もともと、育った環境も価値観も異なる所員同士が同じ職場で働くのですから、コミュニケーションが希薄であれば、思わぬ誤解も生じかねませんし、意思疎通の面で支障が出かねません。

このようなことが起こっては、ESの低下を招いてしまいます。
 
事務所の経営者としても、所員同士がコミュニケーションをとれる環境を整えることが必要です。

ポイントレッスン コミュニケーションがとれる環境作り

私の事務所では、業務の性質上、昼休憩の時間は各自バラバラにとっていて、ある所員は仕事をしているときにある所員は昼休憩を取っているといった状態で、なかなかコミュニケーションが取りづらい環境でした。

ミーティングでそのことを議題に上げて話し合い、昼の休憩時間を所員全員同時にとることにしました。
さらに、3時から15分間の休憩も導入して、コミュニケーションの場を拡大しました。

結果的に、コミュニケーションが取りやすくなり、仕事と休憩のメリハリもでて、職場の環境が改善されました。

③ やりがい

そして、次に大事なのは、「やりがい」をもってもらうということです。「やりがい」は、社会貢献、自己成長、評価からもたらされます。
 
社会貢献とは、自分の仕事が、いかにクライアントの役に立っているかということです。まだ、司法書士事務所に入所して間もない所員は、業務全体を俯瞰して見る事が出来ませんので、一つ一つの業務について何のためにそれを行っているのか分からないことがあります。
 
我々が所員の行う業務について、その業務にどのような意味があるのか、その業務がどのようにクライアントの役に立っているのかを教えていかなければなりません。
そのことによってはじめて、一つ一つの業務が意味を持ったものに変わっていくのです。
 
自己成長とは、仕事を通して新しいことにチャレンジし、自分の可能性を広げていくということです。今までやってこなかったことや、できなかったことを達成したときの充実感はESにつながります。
 
そのためにも、所員の成長に合わせてどんどん仕事を任せていくことです。所員に仕事を任せるということは責任を伴いますが、その裏返しとして所員の「やりがい」も生まれます。
 
いつまでたっても重要なことは任せないでいるということは、所員の成長の機会を奪うということになり、結果としてやる気を失わせてしまいます。
 
ただし、任せるといっても、慣れないうちは致命傷を負うような転び方をしないように注意を払い、サポートすることも必要となるでしょう。
 
クライアントに貢献し、自己成長したとしても、誰からの評価もされないのであれば、やはり「やりがい」を感じにくいでしょう。
クライアントからの「ありがとう」という感謝の言葉は、所員にとって最高の評価になります。
 
しかし、司法書士事務所では(特に個人事務所では)、所長が評価を受けることがほとんどで、所員がクライアントから直接評価を受けることは少ないのではないかと思います。
 
我々は、クライアントからの感謝の言葉や、ほめていただいたことなどを、我々だけに留めておくのではなく、所員に対してきちんと伝えることが大事なのです。
 
また、クライアントからの評価だけではなく、我々自身の評価も適正に伝える必要もあります。
仕事での成長を感じる点を見つけたらほめる、改善すべき点があればフィードバックして改善していくなど、所員はそのような客観的な評価により自己の成長を感じられるのではないでしょうか。

職場環境・労働環境の整備

以上のほかにも、ESには職場環境や労働環境の整備といったことも関係してきます。
 
例えば、長時間労働や残業が慢性化してくるとミスが多発したり、生産性が上がらなくなってしまったり、精神衛生上もよくありません。
適切な労働時間を保つことが大切です。
 
また、当たり前のことですが、残業や休日出勤にはきちんと手当を出すことです。「労働環境に関しては、法律関係の事務所が一番法律を順守していない。」といった笑えない話を聞いたこともありますが、サービス残業やサービス出勤は所員のモチベーションを著しく低下させますので、そのようなことのないようにしましょう。
 
他にも、育児休業制度の充実など労働環境の整備をして、所員が永続的に働きやすいようにするのも良いでしょう。
 
そして、職場の環境を整える工夫も大切です。
まず、職場はきちんと整理整頓されていることが基本です。
雑然とした職場では、気持ちよく働くことなどできませんし、業務効率も落ちてしまいます。
 
所員が働きやすい職場環境を整えるためにいろいろな工夫をしてみるとよいでしょう。

業務の「一般化」「見える化」

新入所員のトレーニングは大切ですが、そればかりに時間を使っているわけにはいきません。
所員トレーニングの間にも、クライアントにきちんとしたサービスを提供し続けなければならないのです。
 
業務繁忙のために雇い入れているのですから、新入所員にもなるべく早めに戦力になってもらわなければなりません。
 
そのためには、業務を「一般化」して、「見える化」することが効果的です。
 
業務の「一般化」とは、マニュアルにできるものはマニュアルにしてしまうということです。業務ごとに共通の手法をマニュアルにしてしまえば、いちいち指示を出さなくても、ある程度マニュアルを見ながら、仕事をすることができます。
新入所員がマニュアルを覚えることにより、実務を覚えるスピードも格段に速くなります。

また、マニュアル化することによって、所員が多くなってきたときに、バラつきのない仕事の成果が挙げられるようになってきます。
 
マニュアルの他に、業務フローも作成しておくとよいでしょう。業務フローは、業務ごとに共通の手順を抽出して、誰が業務に着手しても同じ手順で進めていけるように作成します。
 
業務フローをチェックリスト方式にしておけば、新入所員でも漏れがない仕事を行うことができます。私の事務所では、受託票に業務フローをチェックリストにして載せて「見える化」しています。
 
また、前述したとおり、案件ごとに資料をクリアファイルにまとめて、その一番上にこの受託票を入れています。
この受託票も、例えば相続、立会い、会社設立といったように、業務ごとに異なるフォーマットを作っておき、それぞれの業務ごとフローをチェックリスト方式にしておきます。
 
クリアファイルは、期限のある案件は赤、期限のない案件は青、申請等が終わったものは黄色、その他は透明に色分けし、受託票の表題部分は、不動産登記が青、商業登記が黄色、その他が赤にして視覚的に分かりやすくしています。
 
こうして「見える化」することによって、誰が見ても、どの案件がどの工程まで進んでいるのか一目瞭然となります。
 
もし、業務フローのどこかにチェックが入っていなければ、手順が抜けていないか、それともチェック漏れなのかと言った確認をすれば、抜けのない確実な仕事ができるのです。

(※受託票の例はこちら)

 
また、所員の人数が多くなってきて、案件の量も膨大になってくると、案件ごとの進行状況が分かりにくくなってきます。
こういった状況は注意が必要で、案件の中で行うべき事がすっかり抜けてしまっていることがあります。
 
所員同士で「誰かがやっているだろう」と思って、結果として放置してしまうこともあります。期限のある案件などは、その期限を過ぎてしまうと、後で大変な問題になります。

各所員の担当している案件の進行状況を、相互に把握しておくことが必要となるのです。
 
私の事務所では、エクセルで共有の案件管理表を作成して、動きがある度に逐一それに書き込むようにしています。
 
そして、それを誰でも見ることができる共有フォルダに配置し、更に、数日ごとに全員でそれを読み合わせするようにして、進行状況を確認し合う形にしています。これによって、重要事項の漏れはほぼ防ぐことができます。
 
スケジュール管理もしっかりとするようにしましょう。
 
それぞれの所員のスケジュールを把握しないと、事務所全体の動きが効率的に組めなくなりますし、予定を忘れて飛ばしてしまう恐れもあります。
 
私の事務所では、クラウドソフトを使い、各自のスケジュールをそこに打ち込むようにしています。
インターネット環境があればどこでも見ることができますし、スマートフォンからも予定を打ち込むことができ、なかなか便利です。
 
これに加えて、数日ごとにそれぞれの予定を確認し合うために、スケジュールの読み合わせをするようにしています。

※以下をクリックすると別窓でPDFが開きます

改善し続ける

事務所は常にその時々の状況に合わせて、改善していかなければなりません。
 
自分一人では見えにくい部分も、所員からはよく見えていて、改善すべき問題に感じていることもあります。
そういった所員の意見をよく聴き、改善していきましょう。
 
私の事務所では、月に一回、全体ミーティングをしています。
所員が持ち回りでファシリテーター、書記となり、ミーティングを進行していきます。
 
そこでは、パートさんも含めて所員全員が積極的に参加しています。
普段の業務の中で、改善点だと感じたことや、全体で話し合いたいことは、専用のボードにまとめておき、それをファシリテーターが進行表にまとめて、議題に上げます。
そして、その改善方法を皆で話し合い、決定します。
ここで決定した事項は、全員で話し合った結果ですから、所員全員にスムーズに浸透します。
 
ここで話し合われた内容は議事録にまとめておき、誰もがいつでも閲覧できるようにしておきます。

こうすることによって、常に最適な事務所運営を行うことができるのです。
また、所員一人一人も、経営者的な視点から事務所運営に参加する事ができます。

このコンテンツは『司法書士研修ノート~開業・業務・事務所運営 実務アシストプログラム~/司法書士安井大樹 著』の内容に若干の編集を行い、その内容の一部をご提供いただき公開したものです。
掲載している内容は、発刊当時(平成26年)のものとなります。現在の実務とは一部異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

【執筆者紹介】
安井 大樹(やすい・だいじゅ)
司法書士 安井事務所代表。

1975年(昭和50年)東京生まれ。明治大学経営学部経営学科卒業。
2002年(平成14年)司法書士試験合格。2007年(平成19年)東京都新宿区に司法書士安井事務所設立。
会社に関する登記業務、不動産に関する登記業務を中心に、成年後見業務、裁判業務、遺言書作成支援等幅広い業務を行っている。
中でも上場企業から中小企業に至るまでの企業の法務支援業務を得意とし、高い評価を受けている。
HP http://www.yasui-office.net/

PREV
クライアントに支持され続ける司法書士であるためには?【16/18】
NEXT
司法書士はどのように営業をしていったらよいのか【14/18】
あとで見る