クライアントの来所
相談を受ける前に
司法書士がクライアントから相談を受ける場合、いろいろな場所で相談を受けることが多いかと思いますが、ここでは、事務所で相談を受ける場合を考えてみます。
まず、クライアントが事務所に来る前に、そもそもクライアントを受け入れる準備がきちんと出来上がっているのか事務所の中をもう一度よく見てみましょう。事務所はきちんと整理整頓できていますか?応接の机は指紋などで汚れていませんか?ゴミは落ちていませんか?
事務所の中が整理できておらず雑然としていたり、汚れていたりすると、クライアントによってはそれだけで不安感を持ってしまうこともあります。
事務所が綺麗に整っていて、ゴミひとつ落ちていないような状態であれば、クライアントも気持ちよく安心して相談できるでしょう。
そのためには、日常的に整理・整頓や清掃をし、事務所をきれいに保つことが大事ですが、クライアントを迎え入れる前に念のためもう一度事務所を整えておく心がけも大切です。
また、クライアントの目線に立って事務所を見渡してみるのも一つの方法です。
実際にクライアントが事務所に入ってから応接に座るまでの動作を行ってみるといろいろなことが見えてきます。
応接までの通路にゴミが落ちていたり、置いてある観葉植物が邪魔になって歩きにくくなっていたり、クライアントの座る位置から、余計な段ボールが見えていたり、壁にかけてある絵が少し曲がっていたり、本棚に入っている本が整っていなかったり、とクライアントの目線に立って初めて見えるものもあります。一度試してみるとよいでしょう。
事務所の準備が整ったら初めてクライアントを迎え入れることができます。
整理整頓、清掃はクライアントを迎え入れるための基本ですが、開業して自分の事務所を持つ場合は、その他にも、クライアントの満足度を高めるために、事務所の雰囲気をどのようにしたらよいか考えながら、自分の事務所なりの工夫をしてみましょう。
参考までに、私の事務所は、応接スペースと執務スペースがパーテーションで仕切られていて、あまりに静かすぎると、クライアントは声が漏れるのを気にして話しにくいので、クラシック音楽などを少し大き目にかけるようにして相談しやすい環境を作っています。
また、クライアント用にドリンクメニューを用意していて、相談前にクライアントに好みのドリンクを選んでもらっています。
好みのドリンクを提供することによって、満足度を高めるということもありますが、最初に声を出してドリンクを注文してもらうことにより、少しリラックスしてもらう効果も狙ってのことです。
本棚にもちょっとした工夫をしています。
クライアントが座った時の目線の位置には、専門的な書籍でありながら、法律知識のないクライアントでもタイトルを見て何となく内容が分かるような書籍を置いてあり、ブックケースのついているような、分かりにくい加除式の専門書などは少し見えにくい、本棚の上段と下段に置いてあります。
そのような配置にしているのは、クライアントは、待っている間、本棚を見ることが多く、その本棚に置いてある書籍のタイトルが自然と事務所の業務案内になるからです。
「先生のところは、こんな相談もできるのですね。実はうちでも・・」と言ったように、それをきっかけに新規案件の相談を受けることもたまにあります。こういった工夫もクライアントの潜在的なニーズを拾い、満足度を高めることにつながります。
第一印象が大事
事務所の準備が整ったら、いよいよクライアントを迎え入れ、クライアントとの初対面となります。
でもちょっと待ってください。クライアントと対面する前に一つ重要なことを言っておかなければなりません。
実は、この初対面で、クライアントのみなさんに対する今後の評価がほとんど決まってしまうのです。
初対面、つまり第一印象が非常に大事なのです。
第一印象は、心理学で言う「ハロー効果」を生みます。
ハロー効果とは、その人の持っている特徴的な一面(第一印象)に、その他の側面の評価も影響を受けるという効果のことです。
簡単に言えば、第一印象でクライアントに良い印象を与えることができれば、その良い印象に引き上げられて、その後の仕事の評価は実際よりも良い評価を受けることができるのです。
逆に悪い印象を与えてしまうと、いくら完璧な仕事をしたとしても、その悪い印象に引きずられて、仕事までもが低い評価になってしまうということです。
悪い第一印象を後から挽回しようとしても、このハロー効果で全体的に評価が低くなってしまうので、これを覆すのはなかなか難しいといえます。
また、司法書士はスポットで仕事の依頼を受けることが多く、挽回するチャンスも必然的に少ないといえるでしょう。
そう考えると、第一印象で、クライアントの司法書士に対する評価がほぼ決定づけられてしまうと言っても過言ではないのです。
これは、少々怖いことですが、逆にいえば、この第一印象をマネジメントし、クライアントに良い印象を与える技術を身に付けることができれば、信頼を勝ち取るための大きな武器を手にすることができるということです。
第一印象が大事ということは、サービス業といわれる業界では当たり前のように論じられていることですが、司法書士業界で論じているのをあまり耳にしたことがありません。
新人司法書士にとって、第一印象をマネジメントし味方につけることが司法書士業界で成功するための大きな一歩となるでしょう。
見た目が9割
①身だしなみ
では、どうすればクライアントに良い印象を与えることができるのでしょうか?
まず、その第一歩は「見た目」をきちんと整えることです。
これは、普段から気を遣っている人にとっては当然のことのように感じるかもしれませんが、司法書士業界において「見た目」が疎かになってしまっている人も意外と多いように思えます。
以前、「人は見た目が9割」という本がベストセラーになりましたが、その本の中で、人が他人から受けとる情報は、
① 顔の表情、身だしなみ、仕草といった視覚情報が55%、
② 声の質(高低)、大きさ、テンポといった聴覚情報が38%、
③ 話す言葉の内容といった言語情報が7%
という割合で構成されているそうです。
これは、アメリカの心理学者アルバート・メラビアン博士の実験結果(メラビアンの法則)を基にしているそうですが、なんと、人に伝わる印象は、話す内容がたったの7%で、あとは視覚情報や聴覚情報などの表面に現れる、いわゆる「見た目」が及ぼす影響がほとんどだということなのです。
この、「見た目」が大事ということは、どうしても法律知識や法律構成といった「話す内容」を重視してしまいがちな我々司法書士にとって、大きな落とし穴になる可能性があります。
我々司法書士がどんなに立派な法律知識や法律構成を披露したとしても、クライアントからみれば話した内容そのものよりも、「見た目」によってその司法書士がどんな司法書士であるかという印象を形成している可能性が高いのです。
この「見た目」を整えるためには、まずは身だしなみからです。
身だしなみと言っても、高級ブランドのスーツや流行のファッションというようなものではありません。
不快感を与えないような、清潔で、きちんとした身だしなみをするように心がけることが基本です。
例えば、スーツはよれよれになっていないか、ワイシャツはきちんとアイロンがかかっているか、髪は整っているか、爪は切っているか、靴は磨かれているかなどといった、ビジネスでは当たり前の身だしなみができていなければ、良い印象を与えることはできないでしょう。
基本的な身だしなみができれば、後は、TPOにあわせて自分なりの身だしなみを研究して、実践していけばよいでしょう。
ビジネスでの身だしなみについては、書店に行けばたくさんの本がでていますので参考にしてみるとよいでしょう。
メガネの汚れなども気を付けたいところです。クライアントに会う前はメガネが汚れていないか必ず確認しましょう。
メガネに指紋などの汚れがついていると、相手にとってはとても印象が悪いものです。汚れに気づかず、そのままクライアント会ってしまうと、メガネの汚れがクライアントの第一印象になって記憶に残ってしまいます。
クライアントに会う前にメガネの汚れをふき取るのはほんの数秒ですが、クライアントの記憶の中に残ったメガネの汚れは、もう一生ふき取ることはできないのです。
② 基本スタンスは笑顔
クライアントに良い第一印象を持ってもらうためには、身だしなみとともに、笑顔も大切です。
これも、サービス業では言い尽くされていることですが、やはり笑顔は大事なのです。司法書士もサービス業である以上、それに変わりはありません。
ただ、司法書士はプロフェッショナルとして、毅然とした対応をしなければならない場面もあり、そのような時にまで笑顔でというわけにはいきませんが、クライアントの相談を受け、信頼関係を築き上げる場面では、基本的なスタンスとして笑顔でよいでしょう。
笑顔は、クライアントに安心感と頼もしい印象を与えます。
クライアントによっては司法書士と接することに不慣れであったり、司法書士と接すること自体が初めてという方もたくさんいます。
そのようなクライアントが緊張しながら事務所に来ているのに、迎える司法書士が気難しい顔で出てきたら、より一層緊張してしまいます。
司法書士が笑顔で迎え入れ、安心して相談できる雰囲気を作り出しましょう。
また、笑顔には同時に余裕があるように見える効果もあります。
クライアントにとって、余裕があるように見える司法書士は、頼もしく感じ、信頼できる印象を受けるでしょう。
普段から、笑顔を作りなれていない人は、急に笑顔を作れといわれても、ぎこちなくなってしまいなかなか出来ません。
これは、笑顔を作るための表情筋が衰えてしまっているからだそうです。
こういった人は、普段から笑顔の練習をして、表情筋を鍛えておく必要があります。鏡の前で、1日1分でも良いので笑顔を作ってみてください。
最初はぎこちないかもしれませんが、だんだんと表情筋が鍛えられてきて、自然な笑顔が出来るようになってきます。
笑顔にもいろいろな笑顔があります。
口を閉じてニッコリ微笑んだり、歯を見せて笑ったり、目を細めて笑ったり。
「大丈夫。全て私に任せて下さい。」と心の中で言いながら微笑むと、頼もしい印象になったりします。
また、電話で話すときも笑顔で話すとよいでしょう。
電話でも不思議と相手には表情が伝わるものです。
相手に見えないからといって、表情をおろそかにしていたら、それは必ずクライアントに伝わりますので、そのことを頭に入れながら話しましょう。
③ 堂々と相談を受ける
笑顔の効用として、余裕があるように見え、頼もしく感じるということは前述のとおりですが、相談を受けるに当たり、「この司法書士に任せれば大丈夫だ」という印象を持ってもらうことは非常に大事なことです。
いいかえれば、安心感・信頼感を持ってもらうということですが、この安心感・信頼感は、その後のクライアントとの信頼関係を構築していくための強力な柱となるのです。
新人のうちは、経験や知識も少なく、クライアントの相談を受けるのに、「知らないことを聞かれたらどうしよう」とか「自分の経験したことのない業務を依頼されたらどうしよう」と、いろいろなことを想像して緊張してしまうかもしれません。
しかし、司法書士がオドオドして、頼りない様子であれば、クライアントはそれを敏感に感じ取り、不安を覚えてしまいます。
司法書士に対して不安に感じているクライアントと信頼関係を築いていくのはなかなか容易ではありません。
新人のうちは知識も経験も少なく、緊張するのはやむを得ないことですが、せめて「見た目」だけでも堂々として相談を受けましょう。
「見た目」がオドオドしていようが、堂々としていようが、どうせ知らないことを聞かれる時は聞かれるのです。
もし、知らないことを質問されたとしても、その場であやふやに答えてしまうのではなく、「調べて後ほど回答します。」と正直に言ってしまったほうが、かえって誠実で信用でき、クライアントの信頼を得ることができるのです。
但し、相談が終わった後、すぐに調べて、きちんと誠実に回答するのはもちろんのことです。
知らないことを正直に言って、そのクライアントが去っていってしまったら、そのクライアントの依頼は、今自分が受けるべき依頼ではなかったのです。
また、自分が経験したことのない業務の依頼をされたとしても、「一旦受けてみてから考える」くらいの気持ちで臨んだ方が良いでしょう。
一度受任してみないことには、今後の経験にもなりませんし、もしやってみて本当にできないと思ったのであれば、周りの先輩や同期などに手伝ってもらったり、共同受任のような形をとればよいのです。
そのためには、普段から司法書士同士の横のつながりも大切にしていきましょう。
結局、何年経っても知らないことは決してなくなることはありませんし、経験したことのない業務を受けることなど日常茶飯事です。
恐れることなく、堂々とした態度で相談を受け、クライアントに安心感と信頼感を与えましょう。
開業して所員を雇う場合、所員の対応によってもクライアントの印象は違ってきます。
いくら、司法書士がクライアントに対してよい印象を与えることができたとしても、所員の対応が良くなければ、事務所全体としての評価は落ちてしまいます。逆に所員の対応が良ければ、更に良い印象を重ねることができます。
そういった意味でも良い所員は事務所の財産です。
所員は、採用とトレーニングが全てだと思いますが、接客方法を共有したり、簡単な接客マニュアルを作っておくと、一定の水準が保てます。
基本的に、マニュアルに沿って接客すればよいのですが、あとは、所員それぞれのキャラクターによって、またその時々の雰囲気やクライアントによって付け加えたり変更してみてもよいでしょう。
中には、所員の対応が良くて、事務所のファンになってくれるクライアントもいます。
所員の対応次第で事務所の価値が変わるのだということをしっかりと考えて、事務所の体制を作っていきましょう。