こちらの記事は、沓脱亮先生が令和4年8月1日発行の「月刊 登記情報 第62巻8号(通巻729号)124ページ 実務の現場から」に寄稿されたコラムを沓脱亮先生の許可を得て転載したものです。
2022年8月3日で、司法書士制度は150周年を迎える。歴史を守り、司法書士の現在の地位を確立してくれた先輩方へは改めて感謝をしなければならない。
一方、時代は大きく変わり、テクノロジーの進化により、司法書士の主要業務である「登記」は、既にその価値に陰りが見え始めている。
この価値とは、登記制度自体の価値ではなく、市場がとらえる登記申請の代理行為に対する価値である。
つまり、市場からは登記申請のような定型業務は、誰にでもできる専門性の低い業務だと思われ、高い報酬を支払うようなものではないと評価されているのが現実であり、時間の経過とともに、司法書士自体の市場価値は、今以上に薄れていくことは容易に想像できる。
そのような逆風のなか、極めつきは、司法書士試験の受験者の激減という現実であり、目指す人がいない資格に将来はない。このように、司法書士は乗り越えなければならない課題も多い。
他方、そんな司法書士も、与えられた独占業務だけに頼らず、それを起点に、新しい視点を持って時代の求めるサービスを作り出し、改革することができれば、まだまだ見込みはあると考えている。
私は、司法書士制度改革の1つとして、数年前から企業法務に本格的に着手し実績を積んでいる。150年の歴史のなかでも、新しい業務である簡裁代理、後見、民事信託という分野も選択肢としてはあったものの、まずは、本来、不動産登記と並んで司法書士の主要業務であるはずの会社法、商業登記法に関する業務を改めて見直すべきだと考えた。
結果として、各企業からは、登記申請の際に声をかけられるのではなく、取締役会等の経営判断の場に呼ばれ意見を求められるようになった。
そして、その活動は徐々に認められ、現在は、売上の半分近くが顧問料で構成される業界でも珍しい収益構造を生み出し、経営の安定と、所属司法書士の待遇の向上、高い専門性を習得できる環境の構築につながっている。
このように、視点を少し変えて活動するだけで、誰にでもできる登記手続の担い手としてではなく、本来あるべき専門家としての立ち位置を、経済的にも社会的にも確立できつつある。
私の組織に所属する司法書士は、この新しい環境のなかで、新しい時代の司法書士として着実に成長している。
この新しい時代の司法書士たちが、組織的に社会の需要を充たすことで、司法書士業界の課題を解決しながら、司法書士の地位を向上させ、新たなイメージを確立し、司法書士が今よりもやりがいを感じながら働ける環境をつくることによって、司法書士を目指す人も増えるであろうと考え、この事業に注力している。
このように、本来司法書士が持っている能力で、独占業務を基軸にしつつも視点を変えて行動するだけで、司法書士を時代にあった制度、資格に変えることができる。
司法書士制度が200周年を無事に迎えることができるかどうかは、この先の10年、私たちがどのように活動するかにかかっている。
私は、司法書士制度、そして司法書士という資格に大変世話になった1人なので、恩返しの意味でも、司法書士制度の可能性を信じ、200周年を迎えるために、司法書士は優秀で、もっと社会に貢献できる資格であることを、これからも社会に伝えていきたい。
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