日頃から司法書士の先生方にはお世話になっております。
神戸で土地家屋調査士事務所を営んでおります西村と申します。
この度「司法書士ならコレくらい知っておいて欲しい表題知識」というテーマでコラムを書いてほしいとのご依頼をいただきました。
司法書士の先生方がお客様から相談された際に色々な士業にお仕事を紹介することがあるかと思います。
表題登記に関する土地家屋調査士の分野と必要書類など、お客様に提案するうえで知っておいたほうがいい知識を纏めました。
報酬額については、各土地家屋調査士によって異なりますので、このコラムでは触れないこととします。
目安がお知りになりたい場合には、日本土地家屋調査士会連合会が2019年にアンケートにより調査した土地家屋調査士報酬ガイド(令和元年度版)を参照してください。
https://www.chosashi.or.jp/media/hoshuguide_single.pdf
さて、「表題登記の種類と必要書類」は2部構成となります。
今回は前編の(建物編)で、次回は後編(土地編)です。
それでは始めに、表題登記の基本的な事ですが、合筆登記以外は現地調査又は測量は必要不可欠です。申請人の本人確認や現地調査の日程を調整したりするためにも連絡先を教えて頂く必要があります。
これも基本的なことですが合筆登記に添付する印鑑証明書以外の表題登記に添付する印鑑証明書や住民票、戸籍等は原本が必要ですが、登記完了後に還付されます。
目次
建物滅失登記・・建物を取り壊したとき登記簿を閉鎖します。
必要書類
① 土地家屋調査士への委任状、(申請人の署名捺印(認印))
② 取壊し証明書(取壊し業者が記名捺印(実印))が必要です。
③ 取壊し業者の印鑑証明書
④ 取壊し業者の連絡先(取壊し業者には土地家屋調査士から連絡します。)
イレギュラーな場合
1. 建物はとっくに無くなっているのに登記簿だけが残っているなど取壊し業者からの取り壊し証明など出してもらうことは困難な場合は申請人からの上申書(申請人の署名捺印(実印))と申請人の印鑑証明書があれば取壊し証明に変わる書類として申請できます。
2. 登記名義人が死亡している場合は法定相続人の1人からできます。その場合は登記名義人の出生から死亡までの戸籍と申請する相続人を特定できる戸籍が必要です。相続関係説明図も必要です。
司法書士の先生方は戸籍のプロですが、土地家屋調査士に任せても問題ありません。
3. 相当昔に売買により土地を取得したが、前所有者名義の建物登記簿が残っており、すでに建物は存在しないなどの場合で、前所有者が行方不明などで協力が得られないときは、土地所有者からの建物滅失申出をすることができます。
この場合は、法務局から建物所有者の登記簿住所に確認の通知がいき宛先不明で戻ってきた場合に職権で登記簿を閉鎖してくれます。
建物表題登記・・建物を建てたとき先ずは表題登記をします。
新築建物の場合
窓口が不動産会社やハウスメーカーになることが多いため司法書士の先生方からの依頼は少なめです。住宅用家屋証明書は司法書士か土地家屋調査士か、どちらが取得するか事前に決めておいてもらえると助かります。
知っておいたほうがいい知識として表題登記ができるタイミングですが、司法書士の先生方も保存登記をするうえで銀行との日程もありますので気になるかと思います。
基本的には建物の検査済証が降りてからが望ましいのですが、工事が遅れているなどの理由で、できるだけ早い時点で表題登記をしたい場合の条件として、①建築工事の足場が外れている。②水回りであるバス・トイレ・キッチンが設置されている。③ドアや窓が設置されていて外気と分断されている。ことが最低の条件です。
床材や壁紙等はまだでも調査報告書に事情を書けば登記は通してくれます。
外構工事等は建物の登記には関係ありませんので、全くできてなくても問題ありません。
あと、固定資産税の関係で12月末に完成した建物の表題登記をしてしまうと、その年の税金が丸ごとかかるという点です。
偽装するのはよくないのですが上記のような未完成のような状態なのに急いで登記をすると余分な税金を納めることになると言うことです。
ただ、土地の固定資産税は建物が建っている場合と更地とでは税率が違いますので、そのあたりの兼ね合いも依頼者に提案してあげるといいかと思います。
必要書類
① 土地家屋調査士への委任状(申請人の署名捺印(認印))、
② 住民票(申請人の旧住所もしくは新住所どちらでも可)
③ 引渡し証明書(施工業者の記名捺印(実印))
④ 施工業者の印鑑証明書
⑤ 建築確認書類一式。こちらは土地家屋調査士が施工業者に手配してもらいます。
⑥ 旧住所で表題登記をする場合は、賃貸借契約書写しや入居予定申立書なども必要です。
⑦ 施工業者の連絡先(施工業者には土地家屋調査士から連絡します。)
長期未登記建物の場合
どちらかと言うと司法書士の先生方からはこちらの方が多いのではないでしょうか。
ご本人の親又はもっと上の世代が建てたまま長期未登記であった場合です。
その場合は施工業者からの引渡し証明などを出してもらうことは困難ですので、それに代わる所有権を証明する書類が必要になってきます。
必要書類
① 土地家屋調査士への委任状(申請人の署名捺印(認印))
② 住民票(申請人の現住所)
③ 固定資産課税台帳登録事項証明書、未登記建物の課税状況がわかるもの。
④ 申請人からの上申書(申請人の署名捺印(実印))
⑤ 申請人の印鑑証明書
⑥ 第三者証明書(成人している2名の署名捺印(実印))大抵はご家族に頼みます。
⑦ ⑥で署名して頂いた2名の印鑑証明書
イレギュラーな場合
相続が発生している場合は建物を建てた被相続人の出生から死亡までの戸籍と、相続する相続人までの戸籍が必要です。遺産分割協議書があれば直接相続人名義で表題登記することができます。
法定相続人全員の協力が得られない場合は被相続人名義のまま登記することも可能です。
お勧めはしませんが法定相続割合で登記することも可能です。
そもそも法定相続人が一人の場合には遺産分割協議書は必要ありません。
いずれも法定相続人の1人から申請できます。
建物表題部変更登記・・増築、一部取り壊し、種類・構造変更など
建物登記簿の表題部に変更があった場合にする登記です。他の報告的登記と同じく変更後1か月以内に登記する義務がありますが、実際には相続や売却、融資を受けるなど、せざるを得ない状況になってから依頼されることが多いです。
変更から時間が経過している場合には、工事施工者の証明書を添付することが困難な場合が多いです。
♦増築で床面積が増えた場合は、その増築部分の所有権を証明するための証明が必要で、添付書類は住民票がいらないだけで表題登記とまったく同じです。
♦一部取り壊しの場合は所有権を証明する情報は必要ないので少し添付書類が減ります。
施工業者から協力が得られない場合の必要書類
① 土地家屋調査士への委任状(申請人の署名捺印(認印))
② 申請人からの上申書(申請人の署名捺印(実印))
③ 申請人の印鑑証明書
施工業者から協力が得られる場合の必要書類
① 土地家屋調査士への委任状(申請人の署名捺印(認印))
② 施工業者からの引渡し証明書(施工業者の署名捺印(実印))
③ 施工業者の印鑑証明書
♦種類・構造変更では、例えば店舗として使用していたが廃業したため居宅に変更するなど使用している目的が変わった場合にする報告的登記です。
廃業していても店舗の看板や設備が残っていたりすると変更できない場合があります。逆に居宅に変更する場合には基本的にバス・トイレ・キッチンが必要です。
風呂場のない建物を居宅として登記するために銭湯までの経路と距離を示す地図を添付したことがあります。
構造変更は例えば違う屋根材を使用して葺き替えた。増築部分の材料が異なる場合です。
必要書類:土地家屋調査士への委任状(申請人の署名捺印(認印))
建物区分登記・・普通建物を区分する場合など
条件がいくつかありますが建物への入り口が独立しており構造的に別れている場合に区分建物として登記することができます。
よくあるのが長屋といわれる縦断的な区分建物です。
ビルなどの階層的な区分建物もありますが独立した入口やエレベーターの停止する階である必要があります。
区分登記後に区分した建物の一部の所有権を移転するのが目的の場合が多いです。
建物の所在土地と建物が同一所有者の場合は敷地権にすることができますが、新築の区分建物と違い、敷地権にするのは少ないケースですので今回は割愛させて頂きます。
必要書類:土地家屋調査士への委任状(申請人の署名捺印(認印))
建物の分棟、分割、合併、合体などの登記
非常に数の少ないケースですので今回は割愛させて頂きます。
後編(土地編)につづく